絶体絶命ルビー・クールの逆襲<帝都大乱編>

蛇崩 通

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<第三章 第3話>

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  <第三章 第3話>
 左手に激痛が走った。はりに指が引っかかったのだ。
 だがこのままでは、転落してしまう。
 すぐさま、右手を上に伸ばした。拳銃を握ったままで。拳銃の銃把じゅうはで、梁を上から強く押さえた。
 次の瞬間、両腕に力を込めた。右ひじを、梁の上に乗せた。
 その直後、右腕を梁に絡めた。
 右足を上にあげ、右足首を梁に引っかけた。右足の力も使い、身体全体を梁の上に乗せた。
 幅の狭い梁の上で、腹ばいの姿勢となった。
 ホッとした。転落せずにすんだ。
 この体勢では、頭は広場の左手を向いているため、空きびんを投げた連中に視線を向けることは、困難だ。無理に向けようとすると、バランスを崩して転落してしまう。
 ゆっくりと、上体を起こした。梁の上で。左手で梁をしっかりとつかんで。
 右足を、梁の上に置いた。続いて、左足も。
 ゆっくりと立ち上がった。バランスを取りながら。
 「次の瓶、早く持ってこい!」
 そう叫ぶのが、聞こえた。
 身体の方向を、百八十度回転させた。左右の足の位置を変えずに、つま先の方向だけを動かして。
 銃口を向けた。中隊長らしき黒髪の男に。
 「早くしろ!」
 そう怒鳴った直後、ルビー・クールは引き金を引いた。
 銃声が響いた。
 黒髪の中隊長が、うずくまった。腹部を撃ち抜かれて。
 「中隊長!」
 部下たちが絶叫した。
 ルビー・クールも、心の中で悲鳴をあげていた。転落しそうになったからだ。拳銃を発砲した反動で。
 だが、なんとかバランスを取って、こらえた。
 危ない、危ない、危ない。本当に危なかった。
 立ったまま発砲するのは、危険すぎる。
 バランスを崩さないように、ゆっくりとしゃがみ込み、右膝をはりの上についた。左手で、しっかりと梁をつかんだ。
 今度から発砲するときは、左手で梁をしっかりとつかまなければ。
 だが、左足を前に出したこの姿勢も、梁の左端ひだりはしという位置も、戦いにくい。
 梁の右端に向かって、ゆっくりと移動し始めた。
 空き瓶が、一本飛んできた。
 あたらなかった。
 先ほどは、十本以上飛んできた。だから、三本もあたった。
 しゃがみ込んで左手で梁をつかんでから、身体をひねって右手のリボルバーの銃口を向けた。
 人相の悪い男だった。再び空き瓶を手に、投げようと構えていた。
 引き金を引いた。銃声が響いた。左胸を撃ち抜いた。人相の悪い男は、即死した。周囲にいた党員たちが、悲鳴をあげた。左胸を貫通した弾丸が、ななめ後方にいた男の脇腹をかすめたようだ。
 ルビー・クールは、再び、右方向へ移動を始めた。
 司令官の部下たちが、一人の男に、すがるような視線を向け始めた。部下の一人が、呼びかけた。
 「副隊長! 次の作戦の命令を!」
 中隊副隊長は、やせた金髪の男だった。あせりの表情を浮かべていた。
 目があった。ルビー・クールと。
 銃口を向けた。ルビー・クールが。中隊副隊長に。
 中隊副隊長が叫んだ。恐怖でうわずった声で。
 「病院へ運べ! 司令官殿と、それに中隊長もだ!」
 叫ぶと同時に、駆け出した。絞首刑台の左手の出入り口に向かって。部下たちは、司令官と中隊長を数人がかりで持ち上げ、副隊長のあとを追いかけた。他の部下たちも駆け出し、あとに続いた。
 司令官の顔は、すでに血の気が失せていた。大量出血のためだ。今から病院に運んでも、命は助からないだろう。一方、中隊長のほうは、弾丸が腹部を貫通しているため、今すぐ応急手当をすれば助かるかもしれない。だが、どこの病院に運ぶのか知らないが、ここから一番近い病院でも、徒歩で十五分以上かかる。よって、実際に助かるかどうかは、わからない。
 これで、さらに一個中隊百人を、撤退させた。たった二発の弾丸で。
 作戦は、順調だ。もちろん、一万人に包囲され、絶体絶命の窮地には変わらないが。
 だがこれまで、何度も絶体絶命の窮地を乗り越えてきた。自分の力だけで。今回も、できるはずだ。いや、絶対に、乗り越えてみせる。孤児院の子どもたちを救うために。
 ルビー・クールは、はりの上を右方向に進んだ。途中で、右足を前に踏み出した。この体勢のほうが、右手で持ったリボルバーで、銃撃しやすい。
 目があった。参謀と。
 彼は、この組織のナンバースリーの地位だ。年齢は三十歳くらいか。やせた小男だが、丸眼鏡をかけており、頭は良さそうだ。アンジェリカは、常にこの男のそばにいる。彼女の彼を見る目は、明らかに恋愛感情がこもっている。肉体関係があるのかまでは、わからないが。アンジェリカは、この男のことを、ジャン=ジャックと呼んでいた。もちろん本名ではなく、革命家名だろう。
 司令官と副司令官が倒れた今、この男が、約一万人の無法者たちの指揮権を持つはずだ。もっとも、それだけの実力が備わっているかは、怪しいが。
 参謀ジャン=ジャックが、怒鳴った。ルビー・クールに向かって。
 「それ以上近づくな! 近づいたら、ガキどもを殺すぞ!」
 そう言いながら、ふところからリボルバーを取り出した。銃口を、手近にいた子どもに向けた。
 まずい状況だ。この位置からジャン=ジャックを銃撃すると、貫通した弾丸が、ななめ後ろにいる子どもたちにあたってしまう。
 子どもたちを救出するには、いったい、どうすれば良いのか。
 ルビー・クールは、心の中で、頭を抱えた。

   第四章に続く
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