絶体絶命ルビー・クールの逆襲<救出編>

蛇崩 通

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<第二章 第2話>

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  <第二章 第2話>
 「そんなこと、するわけないでしょ!」
 思わず、ルビー・クールが叫んだ。ヒステリックに。
 もう、いい加減にして欲しい。心底、そう思った。
 「信じられるわけないでしょ! あなたなんて!」
 打ちのめされた。エミーリアのひどい言葉に。
 少し涙目になって、尋ねた。
 「どうすれば、信じてくれるのよ?」
 「まずは、整理しましょう」
 マルガレーテが、落ち着き払った声で、そう言った。
 彼女が、言葉を続けた。
 「まず、あなた、ルビーでしたっけ。あなたの言ったことのうち、無産者革命党に関することは、正しかったわ。無産者革命党は、平民区の一部しか支配していない。南一区の北東エリアは、無産者革命党の勢力が及んでいない」
 そこで、いったん言葉を句切った。
 全員の視線が、集中した。
 「だけど、あなたが、あたしたちの味方である証明には、ならないわ。あなたは、あたしたちをだまして誘拐し、身代金を要求したり、売り飛ばすつもりかもしれないわ」
 「そんなこと、しません!」
 半泣きになって、叫んだ。ルビー・クールが。
 「演技が、うまいわね。あなた、プロの詐欺師かしら」
 嫌みたっぷりに、エミーリアが、そう言った。
 思わず、涙をこぼした。ルビー・クールが。
 彼女たちの命を助けようとしているのに、信じてもらえないなんて。
 「どうしたら、信じてくれるのかしら?」
 その言葉に、黒髪の少女が口を開いた。キッチンナイフの刃先をユラユラさせながら。
 彼女の名は、メラニーだ。ショートヘアの黒髪で、青い目。ボーイッシュな美少女だ。
 「あたしと同じ馬車に乗れば、信じるわ。裏切ったら、その瞬間に、あなたののどを切り裂くわ。このナイフでね」
 そう言って、ニヤリと笑った。
 貴族令嬢らしからぬ言葉だ。
 だが、下級貴族令嬢の中には、この手の少女が、少数だが、一定数いる。大抵の場合、帝国軍人の父親が、前回の戦争で、地獄の戦場を体験している。
 過酷な地獄の戦場を生き抜いた父親は、自分の子どもたちに、過激な教育をする。生き残るために必要なことだと、そう言って。様々な手法で人を殺すテクニックや、人を殺す際の心構えを、教える。
 ルビー・クールが通っていた小学校にも、そういう教えを受けた下級貴族の男児が、いた。
 「いいわ。予定を変更して、あなたたちを、北東エリア第四ブロックのホテルまで、送るわ」
 まだ、時間はある。
 つかんだ情報によれば、無産者革命党の拉致部隊は、午前三時に襲ってくる。貴族令嬢たちを拘束するために。
 ルビー・クールは、ダリアやエルザたちと協力して、その拉致部隊を返り討ちにして、全員を無力化する計画だ。
 その後、ルビー・クールたちが、貴族令嬢たちと入れ替わる。朝になってから、無産者革命党員に化けた労農革命党の工作員たちが、ルビー・クールたちを、絞首刑台広場に連行する予定だ。
 馬車は三台とも、六人乗りだ。
 しかたがないので、後方の馬車の労農革命党戦闘員には、降りてもらった。
 最初の予定では、前後の馬車に、戦闘員が五名ずつ乗り込む。彼らは全員、戦争経験者の元兵士だ。猟銃は、五名に一挺ずつ。弾丸は、実弾だ。
 後方の馬車の分隊から、猟銃を受け取った。それに、実弾十数発も。
 戦闘員の中年分隊長が、真剣な表情で顔を近づけ、小声でささやいた。
 「同志ルビー・クール、死ぬなよ」
 「ええ、もちろんよ。あたしは、殺しても死なない女よ」
 そう、答えた。制服の左胸に開いた穴を指さして。
 ルビー・クールが、心臓を銃で撃たれたのに死ななかった話は、すでに知れ渡っている。労農革命党の党員たちの間に。くちコミで。
 その口コミの噂によれば、たまたま、内ポケットに入れておいた小銭入れのおかげで、銃弾が止まった。その小銭入れは、青銅貨で一杯だった。
 それ以来、ルビー・クールと出会う労農革命党の若い党員たちは、満面の笑みを浮かべ、自分も小銭入れに青銅貨をたくさん入れてます、と言ってくるようになった。
 そうしたときは、何と答えて良いか分からないので、とりあえず、微笑んでおいた。たぶん、引きつった変な微笑み方だったと思うが。
 微笑むのは苦手なので、しかたがない。
 ルビー・クールは、後方の馬車に、乗り込んだ。
 同じ馬車に乗り込んだのは、エミーリア、ヨハナ、メラニーの三名だ。
 「裏切ったら、その瞬間に、殺すわよ」
 メラニーが、そう言った。ニタつきながら。ナイフの刃先を、ユラユラさせて。
 この女、だいぶヤバい女ね。
 そう思った。
 なぜ自分は、危険な女に次々に出会うのか。
 ルビー・クールは思わず、自分の運命を呪った。
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