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<第五章 第5話>
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<第五章 第5話>
「なぜなら」
ルビー・クールが、言葉を続けた。
「もう、勝敗は決したわ」
フランクが怒鳴った。
「ここで奴らを逃がすと、市街戦になって、やっかいだ」
「銃さえ回収すれば、彼らは、ただのチンピラよ。市街戦には、ならないわ。それに、残敵の掃討は、警察に任せればいい話よ」
ダリアが、口をはさんだ。
「残敵が、北東エリアに強盗目的で侵入されると、困るのよ。防衛線は長いから、防ぎきれないわ」
南一区の北東エリアは、自由革命党が防衛している地区だ。高級住宅街を抱え、多くの資本家が居住している。もちろん、自由革命党の党員も、だ。
無産者革命党は、これまでは統制が取れていた。だが今日、師団幹部を全員、失った。今後は、中隊長や小隊長が、自分の部下を率いて、次々に強盗殺人事件を起こす可能性がある。
ダリアは、それを恐れているのだ。
ルビー・クールは、絞首刑台の陰から出していた顔を、引っ込めた。回転弾倉を開けて空薬莢を排出し、自分の拳銃に、弾丸を装填し始めた。
自由革命党の計算では、時限爆弾は、半径十メートル以内にいる人間を、殺傷するはずだ。
十六個の時限爆弾で、五千名以上、殺傷できるはずだ。
絞首刑台広場に集まった無産者革命党の党員数は、一万人だ。
当初の情報では、一万二千名が集まるとの話だったが、北西エリアと南西エリアでは、労農革命党がブロック単位で籠城している。それぞれのエリアを担当する無産者革命党第一師団と第二師団は、警察支署の包囲に一個連隊千名をあてるのに加え、籠城する労農革命党の反撃に備えて、一個連隊千名を配備した。
そのため、本日の南一区臨時革命政府発足式への参加者数は、第一師団と第二師団が三千名ずつ、第三師団は四千名で、合計一万名だ。
装填を、終えた。ルビー・クールは、ふたたび顔を出した。絞首刑台の陰から。
地獄絵図ね。
そう思った。
すでに、死体と負傷者だらけだったからだ。
戦闘というより、虐殺だ。
もっとも、彼らは武装した悪党どもだ。市民の虐殺とは、違う。
生き残りの男に銃口は向けたが、結局、撃たなかった。ルビー・クールが撃つのを迷っている間に、自由革命党の狙撃手が、射殺したからだ。
時限爆弾の爆発から数分後、銃撃は止んだ。
自由革命党の狙撃手たちが、百発、撃ち終わったのだ。
自由革命党も、労農革命党も、単発式の猟銃を使用している。
自由革命党の狙撃手は、発砲してから次弾の装填までの時間は、約三秒だ。そのため、百発を最短で、三百秒で撃ち尽くす。
四十名の狙撃手が百発撃てば、四千名を射殺できる計算だ。彼らは腕が良いため、ほとんど、はずさないはずだ。
一方、労農革命党の射撃手は、装填に、最短でも五秒はかかる。彼らは、おそらく百発を撃ち尽くさない。ゴム弾百発入りの箱を一箱、自由革命党から提供されている。だが、念のために、十発か二十発を、残しておくはずだ。
百名の射撃手が、八十発ずつ撃てば、八千発だ。敵は密集しているため、当初は、敵の身体のどこかには、命中したはずだ。だが、時限爆弾の爆発後は、敵の数が少なくなったため、命中率も落ちたはずだ。
しかし八千発も撃てば、千名か二千名を、負傷させたはずだ。
無産者革命党の党員で、絞首刑台広場から脱出できた者は、少数だ。百数十名か、それとも二百数十名か。三百名は、超えないだろう。
銃撃が止まってから数分後、赤いベレー帽をかぶった男たち数百名が、北側から、絞首刑台広場に現れた。
労農革命党の党員たちだ。人数は、五百名プラスアルファのはずだ。半数は、一メートルほどの角材を持っている。一部の男たちは、ずだ袋や、荷造り用の紐類を手にしている。
猟銃を所持する者も、二十五名いた。彼らは、北側の建物にいた射撃手だ。
労農革命党の党員たちは、テキパキと迅速に、作業を進めた。ライフル大隊や拳銃大隊の銃を、速やかに回収した。中隊長や中隊副隊長の拳銃もだ。
負傷者は、後ろ手に両手首を紐で縛り、拘束した。あとで、警察に引き渡す予定だ。
さらに数百名の労働者が、現れた。労農革命党の作業員だ。木材を運んできた。それに、大量の薪も。
広場の中央で、木材を組み始めた。
巨大な火葬場を作るためだ。広場にある死体のうち、幹部以外の死体は、証拠隠滅のため、今日中に焼き尽くす予定だ。
ルビー・クールが、立ち上がった。
「次の作戦に、移るわよ」
ダリアが、口を開いた。立ち上がりながら。
「話し合いなんて面倒なことしないで、皆殺しにすればいいのよ」
フランクも、口をはさんだ。
「おまえ、何度話し合いで失敗すれば、気が済むんだ?」
「前回の失敗から、学んだわ。話し合いは、圧倒的な戦力差がないと、うまくいかないってことをね」
第六章「説得難航で絶体絶命」に続く
「なぜなら」
ルビー・クールが、言葉を続けた。
「もう、勝敗は決したわ」
フランクが怒鳴った。
「ここで奴らを逃がすと、市街戦になって、やっかいだ」
「銃さえ回収すれば、彼らは、ただのチンピラよ。市街戦には、ならないわ。それに、残敵の掃討は、警察に任せればいい話よ」
ダリアが、口をはさんだ。
「残敵が、北東エリアに強盗目的で侵入されると、困るのよ。防衛線は長いから、防ぎきれないわ」
南一区の北東エリアは、自由革命党が防衛している地区だ。高級住宅街を抱え、多くの資本家が居住している。もちろん、自由革命党の党員も、だ。
無産者革命党は、これまでは統制が取れていた。だが今日、師団幹部を全員、失った。今後は、中隊長や小隊長が、自分の部下を率いて、次々に強盗殺人事件を起こす可能性がある。
ダリアは、それを恐れているのだ。
ルビー・クールは、絞首刑台の陰から出していた顔を、引っ込めた。回転弾倉を開けて空薬莢を排出し、自分の拳銃に、弾丸を装填し始めた。
自由革命党の計算では、時限爆弾は、半径十メートル以内にいる人間を、殺傷するはずだ。
十六個の時限爆弾で、五千名以上、殺傷できるはずだ。
絞首刑台広場に集まった無産者革命党の党員数は、一万人だ。
当初の情報では、一万二千名が集まるとの話だったが、北西エリアと南西エリアでは、労農革命党がブロック単位で籠城している。それぞれのエリアを担当する無産者革命党第一師団と第二師団は、警察支署の包囲に一個連隊千名をあてるのに加え、籠城する労農革命党の反撃に備えて、一個連隊千名を配備した。
そのため、本日の南一区臨時革命政府発足式への参加者数は、第一師団と第二師団が三千名ずつ、第三師団は四千名で、合計一万名だ。
装填を、終えた。ルビー・クールは、ふたたび顔を出した。絞首刑台の陰から。
地獄絵図ね。
そう思った。
すでに、死体と負傷者だらけだったからだ。
戦闘というより、虐殺だ。
もっとも、彼らは武装した悪党どもだ。市民の虐殺とは、違う。
生き残りの男に銃口は向けたが、結局、撃たなかった。ルビー・クールが撃つのを迷っている間に、自由革命党の狙撃手が、射殺したからだ。
時限爆弾の爆発から数分後、銃撃は止んだ。
自由革命党の狙撃手たちが、百発、撃ち終わったのだ。
自由革命党も、労農革命党も、単発式の猟銃を使用している。
自由革命党の狙撃手は、発砲してから次弾の装填までの時間は、約三秒だ。そのため、百発を最短で、三百秒で撃ち尽くす。
四十名の狙撃手が百発撃てば、四千名を射殺できる計算だ。彼らは腕が良いため、ほとんど、はずさないはずだ。
一方、労農革命党の射撃手は、装填に、最短でも五秒はかかる。彼らは、おそらく百発を撃ち尽くさない。ゴム弾百発入りの箱を一箱、自由革命党から提供されている。だが、念のために、十発か二十発を、残しておくはずだ。
百名の射撃手が、八十発ずつ撃てば、八千発だ。敵は密集しているため、当初は、敵の身体のどこかには、命中したはずだ。だが、時限爆弾の爆発後は、敵の数が少なくなったため、命中率も落ちたはずだ。
しかし八千発も撃てば、千名か二千名を、負傷させたはずだ。
無産者革命党の党員で、絞首刑台広場から脱出できた者は、少数だ。百数十名か、それとも二百数十名か。三百名は、超えないだろう。
銃撃が止まってから数分後、赤いベレー帽をかぶった男たち数百名が、北側から、絞首刑台広場に現れた。
労農革命党の党員たちだ。人数は、五百名プラスアルファのはずだ。半数は、一メートルほどの角材を持っている。一部の男たちは、ずだ袋や、荷造り用の紐類を手にしている。
猟銃を所持する者も、二十五名いた。彼らは、北側の建物にいた射撃手だ。
労農革命党の党員たちは、テキパキと迅速に、作業を進めた。ライフル大隊や拳銃大隊の銃を、速やかに回収した。中隊長や中隊副隊長の拳銃もだ。
負傷者は、後ろ手に両手首を紐で縛り、拘束した。あとで、警察に引き渡す予定だ。
さらに数百名の労働者が、現れた。労農革命党の作業員だ。木材を運んできた。それに、大量の薪も。
広場の中央で、木材を組み始めた。
巨大な火葬場を作るためだ。広場にある死体のうち、幹部以外の死体は、証拠隠滅のため、今日中に焼き尽くす予定だ。
ルビー・クールが、立ち上がった。
「次の作戦に、移るわよ」
ダリアが、口を開いた。立ち上がりながら。
「話し合いなんて面倒なことしないで、皆殺しにすればいいのよ」
フランクも、口をはさんだ。
「おまえ、何度話し合いで失敗すれば、気が済むんだ?」
「前回の失敗から、学んだわ。話し合いは、圧倒的な戦力差がないと、うまくいかないってことをね」
第六章「説得難航で絶体絶命」に続く
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