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第4章第六話 作戦開始
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第4章第六話 作戦開始
「もう、疲れた」
ぼやいた。毒薔薇姫が。
答えた。トッキロが。
「もう少し歩いたら、一回目の休憩です」
「もう、歩けないわ」
「歩けないなら、帰っても、いいですよ。強力な毒さえ、いただければ。まだ、予定の二割ほどしか、歩いていませんので」
毒蛇姫が、小声でささやいた。毒薔薇姫に。
「ダメよ、ここで脱落したら。戦争は、参加することに意義があるんだから」
「わかってるわよ。それに、あたくしは、南区総督の娘なのよ。南区の民を守る使命が、あるんだから」
「その意気です。毒薔薇姫様」
そう答えながら、思った。トッキロは。
よほど、堪えたのだろう。毒薔薇姫は。自分の一族が、内壁内への避難と、王国による保護の対象外だということに。
それに、王都の平民が全滅したら、自分の一族が破産すると知ったことも、ショックだったのだろう。
もはや彼女には、逃げるという選択肢はない。
南校の他の女生徒たちも、同様だが。
毒蛇姫が、トッキロに要求した。
「荷車に、乗せなさいよ」
「荷車は、負傷者用です。帰りは負傷者で、いっぱいになるかもしれません。今から乗るのは、縁起が悪いですよ」
牧草地を、進んでいた。兵士たちと、王立魔法学園の生徒たちが。
兵士の数は、四十六名。
それに、臨時百人隊長代行。彼の名は、キルギウス。背の高い大男だ。
北校の生徒は、三大魔法剣姫と女生徒十名の計十三名。
南校の生徒は、トッキロと、女生徒三十名。
合計、九十一名だ。
王女救出部隊の隊長は、もちろん炎姫だ。
副隊長は、氷姫と雷姫だ。
トッキロは、序列第四位の参謀という位置づけだ。今回の作戦を立案したからだ。
本当は、南校の生徒の人数は、十名ほどで充分だった。魔法力が、充分にある生徒だけで。
だが、第十六砦にいた南校の女生徒全員が、参加を希望した。王女救出作戦に。
命の危険が、あるにもかかわらず。
理由は、平民区に居住する自分の家族や親族、友人知人たちを、守るためだ。
家族を守るためには、リリーシア王女を奪還しなければならない。明日の明け方までに。
明日の朝になれば、騎士団の幹部連中は、主張する。外壁を放棄し、内壁に全軍撤退すべきだ、と。
重傷で寝たきりのユリシウス王子だけでは、騎士団幹部たちの撤退要求を拒否することは、困難だ。
リリーシア王女が、必要だ。撤退論を、阻止するために。
ゆえに、是が非でも、救出しなければならない。リリーシア王女を。明日の夜明け前までに。
チラリと、左手首の内側を見た。腕時計の針が、うっすらと光っている。蛍光塗料が塗ってあるためだ。
「ここで、休憩しましょう」
三角陣形のまま、休憩を始めた。
まだ、魔族の野営陣地からは、距離がある。二キロメートルほど。
そのため、この地点で、魔族に発見されることはあるまい。
トッキロが、指示を出した。
「荷車から、蓋のついた水壺を降ろしてください。蓋付きは、煮沸水の入った飲料用です。真夜中でも暑いので、みなさん、たくさん汗をかいたでしょう。脱水症状にならないように、一口ずつ飲みましょう」
荷車は、三台ある。一台につき、兵士が三名がかりで、人力で押してきた。
荷台には、五リットルほど入る素焼きの水壺が積まれている。一台につき、二十個ずつ。合計六十個の水壺だ。そのうち十個は飲料用の煮沸水だ。
残りの五十個は、ウオーター・ボールの生成に使う予定だ。ウオーター・カッターを使うために。
大気中の水蒸気を集めてウオーター・ボールを生成するより、水壺の水を使ったほうが、より少ない魔法力で、より確実に、必要な大きさのウオーター・ボールを生成できる。
夜空から、フクロウが舞い降りてきた。
青い瞳の黒髪少女が、左手を伸ばした。そのフクロウに。
彼女は左腕だけ、革製の籠手を装着している。
とまった。彼女の左手首に。フクロウが。
彼女は通称、黒猫姫。北校の二年生だ。
猫が見たものを、彼女も見ることができるらしい。
それが、通称の由来だ。
実は彼女は、フクロウが見たものも、見ることができる。
彼女によると、そのフクロウは使い魔だ。魔族の野営陣地を偵察して、戻って来た。
炎姫たちが、視線を向けた。黒猫姫に。
「敵陣の様子は?」
黒猫姫の瞳が、光った。暗闇の中で。まるで、猫のように。
「もう、疲れた」
ぼやいた。毒薔薇姫が。
答えた。トッキロが。
「もう少し歩いたら、一回目の休憩です」
「もう、歩けないわ」
「歩けないなら、帰っても、いいですよ。強力な毒さえ、いただければ。まだ、予定の二割ほどしか、歩いていませんので」
毒蛇姫が、小声でささやいた。毒薔薇姫に。
「ダメよ、ここで脱落したら。戦争は、参加することに意義があるんだから」
「わかってるわよ。それに、あたくしは、南区総督の娘なのよ。南区の民を守る使命が、あるんだから」
「その意気です。毒薔薇姫様」
そう答えながら、思った。トッキロは。
よほど、堪えたのだろう。毒薔薇姫は。自分の一族が、内壁内への避難と、王国による保護の対象外だということに。
それに、王都の平民が全滅したら、自分の一族が破産すると知ったことも、ショックだったのだろう。
もはや彼女には、逃げるという選択肢はない。
南校の他の女生徒たちも、同様だが。
毒蛇姫が、トッキロに要求した。
「荷車に、乗せなさいよ」
「荷車は、負傷者用です。帰りは負傷者で、いっぱいになるかもしれません。今から乗るのは、縁起が悪いですよ」
牧草地を、進んでいた。兵士たちと、王立魔法学園の生徒たちが。
兵士の数は、四十六名。
それに、臨時百人隊長代行。彼の名は、キルギウス。背の高い大男だ。
北校の生徒は、三大魔法剣姫と女生徒十名の計十三名。
南校の生徒は、トッキロと、女生徒三十名。
合計、九十一名だ。
王女救出部隊の隊長は、もちろん炎姫だ。
副隊長は、氷姫と雷姫だ。
トッキロは、序列第四位の参謀という位置づけだ。今回の作戦を立案したからだ。
本当は、南校の生徒の人数は、十名ほどで充分だった。魔法力が、充分にある生徒だけで。
だが、第十六砦にいた南校の女生徒全員が、参加を希望した。王女救出作戦に。
命の危険が、あるにもかかわらず。
理由は、平民区に居住する自分の家族や親族、友人知人たちを、守るためだ。
家族を守るためには、リリーシア王女を奪還しなければならない。明日の明け方までに。
明日の朝になれば、騎士団の幹部連中は、主張する。外壁を放棄し、内壁に全軍撤退すべきだ、と。
重傷で寝たきりのユリシウス王子だけでは、騎士団幹部たちの撤退要求を拒否することは、困難だ。
リリーシア王女が、必要だ。撤退論を、阻止するために。
ゆえに、是が非でも、救出しなければならない。リリーシア王女を。明日の夜明け前までに。
チラリと、左手首の内側を見た。腕時計の針が、うっすらと光っている。蛍光塗料が塗ってあるためだ。
「ここで、休憩しましょう」
三角陣形のまま、休憩を始めた。
まだ、魔族の野営陣地からは、距離がある。二キロメートルほど。
そのため、この地点で、魔族に発見されることはあるまい。
トッキロが、指示を出した。
「荷車から、蓋のついた水壺を降ろしてください。蓋付きは、煮沸水の入った飲料用です。真夜中でも暑いので、みなさん、たくさん汗をかいたでしょう。脱水症状にならないように、一口ずつ飲みましょう」
荷車は、三台ある。一台につき、兵士が三名がかりで、人力で押してきた。
荷台には、五リットルほど入る素焼きの水壺が積まれている。一台につき、二十個ずつ。合計六十個の水壺だ。そのうち十個は飲料用の煮沸水だ。
残りの五十個は、ウオーター・ボールの生成に使う予定だ。ウオーター・カッターを使うために。
大気中の水蒸気を集めてウオーター・ボールを生成するより、水壺の水を使ったほうが、より少ない魔法力で、より確実に、必要な大きさのウオーター・ボールを生成できる。
夜空から、フクロウが舞い降りてきた。
青い瞳の黒髪少女が、左手を伸ばした。そのフクロウに。
彼女は左腕だけ、革製の籠手を装着している。
とまった。彼女の左手首に。フクロウが。
彼女は通称、黒猫姫。北校の二年生だ。
猫が見たものを、彼女も見ることができるらしい。
それが、通称の由来だ。
実は彼女は、フクロウが見たものも、見ることができる。
彼女によると、そのフクロウは使い魔だ。魔族の野営陣地を偵察して、戻って来た。
炎姫たちが、視線を向けた。黒猫姫に。
「敵陣の様子は?」
黒猫姫の瞳が、光った。暗闇の中で。まるで、猫のように。
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