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<第一章 第3話>
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<第一章 第3話>
表情が、変わった。驚いた表情を、見せたのだ。パール・スノーが。
おそらく、ナイフ相手に、素手になったため、驚いたのだろう。
素手ではあるが、まだ三月で寒いので、薄手の革手袋をしている。
薄手だが、たぶん、だいじょうぶだ。ナイフの刃で、手の皮膚を切るヘマは、しない。
いや、するつもりは、ない。
パール・スノーが、にじり寄ってきた。右手に持ったナイフの切っ先を、向けながら。
「やめなさいよ」
ふたたび、サファイア・レインが声をかけた。
だがもう、パール・スノーは、視線を向けなかった。
襲いかかってきた。パール・スノーが。
右手のナイフを、突き出して。
左手で、払った。彼女の右手首を。内側から外側へと。自分に、ナイフが刺さらないように。
払うと同時に、つかんだ。彼女の右手首を自分の左手で。
引っ張った。次の瞬間。彼女の右手首を。自分のほうへ。
彼女の身体が、近づいた。ルビー・クールのほうへ。上半身が、前傾しながら。
蹴り込んだ。右膝を。彼女のみぞおちに。
一撃で、悶絶した。パール・スノーが。
のたうちまわった。石畳の地面の上で。パール・スノーが。
視線を、向けた。サファイア・レインに。
無表情のまま、冷ややかに尋ねた。
「あなたは、なにか文句ある?」
「ないわ」
即答した。サファイア・レインが。無表情で。
彼女は、言葉を続けた。
「あたしは直接、本人から聞いたから。エメラルド・グリーン本人からね。だから、信じるわ。あなたが、彼女とボスを救ったことを。たくさんのテロリストたちから」
パール・スノーが、立ち上がった。ナイフを持ったまま。まだ、苦悶の表情を浮かべているが。
「もう、やめなさいよ」
そのサファイア・レインの忠告を、無視した。パール・スノーは。
「リターン・マッチよ」
「何度やっても、同じよ。あなたの今の力では、あたしには勝てないわ」
「そうかしら」
今度は、ナイフの切っ先を揺らしながら、少しずつ、にじり寄ってきた。
今回は、突進は、しないようだ。
大きく踏み込むことも、ないだろう。
一回目は、それで失敗したからだ。
学習能力は、ありそうだ。
七秒か八秒経っても、踏み込んでこない。パール・スノーは。
そこで、踏み込んだ。ルビー・クールが。
彼女から、ナイフを奪った。一瞬で。
思わずサファイア・レインが、叫んだ。
「なにそれ! 魔法?」
「違うわ。梃子の原理よ」
冷ややかに答えた。ルビー・クールが。
ルビー・クールは一歩踏み込むのと同時に、右手でパール・スノーの右手首をつかんだ。
その同じ瞬間、左手の親指と人差し指で、ナイフの腹の部分をつかんだ。
次の瞬間、左手の指でつかんだナイフの刃を、彼女の手の甲の外側下方に押し下げた。反時計回りに。
ナイフが反時計回りに、百八十度、回転した。
そのためグリップが、パール・スノーの右手の指から、離れたのだ。
ルビー・クールは、大きく一歩、後退した。左手の指で刃の腹をつかんだナイフを、背後に隠しながら。
「返しなさいよ! あたしのナイフ!」
そう叫びながら、右手を伸ばした。
大きく踏み込んだ。パール・スノーが。
次の瞬間だった。
ルビー・クールが右手の拳で、突いた。続けざまに二回。
パール・スノーの左脇腹と左胸を。左胸は、心臓の真上だ。
いや、拳では、なかった。逆手に持ったナイフのグリップの底だ。
パール・スノーが、うずくまった。苦悶の表情を、浮かべながら。
ルビー・クールは、右手のナイフを、逆手から順手に持ち替えた。
口を開いた。冷ややかに、見下ろしながら。
「本物の殺し合いなら、あなた、死んでいたわよ。ナイフで、心臓を刺されて」
「殺しなさいよ」
パール・スノーが、吐き捨てた。うずくまったまま。
「殺さないわ。あなたのことは。なぜなら、仲間だから」
「なにが、仲間よ。あんたとは、十二歳の時に知り合ったけど、あたしのことを一度でも、友達扱いしてくれたこと、あったかしら?」
「ないに決まってるでしょ。あなたは友達じゃない。なぜなら、あたしの友達は、エメラルド・グリーンただ一人よ」
第二章「友達探して絶体絶命」に続く。
表情が、変わった。驚いた表情を、見せたのだ。パール・スノーが。
おそらく、ナイフ相手に、素手になったため、驚いたのだろう。
素手ではあるが、まだ三月で寒いので、薄手の革手袋をしている。
薄手だが、たぶん、だいじょうぶだ。ナイフの刃で、手の皮膚を切るヘマは、しない。
いや、するつもりは、ない。
パール・スノーが、にじり寄ってきた。右手に持ったナイフの切っ先を、向けながら。
「やめなさいよ」
ふたたび、サファイア・レインが声をかけた。
だがもう、パール・スノーは、視線を向けなかった。
襲いかかってきた。パール・スノーが。
右手のナイフを、突き出して。
左手で、払った。彼女の右手首を。内側から外側へと。自分に、ナイフが刺さらないように。
払うと同時に、つかんだ。彼女の右手首を自分の左手で。
引っ張った。次の瞬間。彼女の右手首を。自分のほうへ。
彼女の身体が、近づいた。ルビー・クールのほうへ。上半身が、前傾しながら。
蹴り込んだ。右膝を。彼女のみぞおちに。
一撃で、悶絶した。パール・スノーが。
のたうちまわった。石畳の地面の上で。パール・スノーが。
視線を、向けた。サファイア・レインに。
無表情のまま、冷ややかに尋ねた。
「あなたは、なにか文句ある?」
「ないわ」
即答した。サファイア・レインが。無表情で。
彼女は、言葉を続けた。
「あたしは直接、本人から聞いたから。エメラルド・グリーン本人からね。だから、信じるわ。あなたが、彼女とボスを救ったことを。たくさんのテロリストたちから」
パール・スノーが、立ち上がった。ナイフを持ったまま。まだ、苦悶の表情を浮かべているが。
「もう、やめなさいよ」
そのサファイア・レインの忠告を、無視した。パール・スノーは。
「リターン・マッチよ」
「何度やっても、同じよ。あなたの今の力では、あたしには勝てないわ」
「そうかしら」
今度は、ナイフの切っ先を揺らしながら、少しずつ、にじり寄ってきた。
今回は、突進は、しないようだ。
大きく踏み込むことも、ないだろう。
一回目は、それで失敗したからだ。
学習能力は、ありそうだ。
七秒か八秒経っても、踏み込んでこない。パール・スノーは。
そこで、踏み込んだ。ルビー・クールが。
彼女から、ナイフを奪った。一瞬で。
思わずサファイア・レインが、叫んだ。
「なにそれ! 魔法?」
「違うわ。梃子の原理よ」
冷ややかに答えた。ルビー・クールが。
ルビー・クールは一歩踏み込むのと同時に、右手でパール・スノーの右手首をつかんだ。
その同じ瞬間、左手の親指と人差し指で、ナイフの腹の部分をつかんだ。
次の瞬間、左手の指でつかんだナイフの刃を、彼女の手の甲の外側下方に押し下げた。反時計回りに。
ナイフが反時計回りに、百八十度、回転した。
そのためグリップが、パール・スノーの右手の指から、離れたのだ。
ルビー・クールは、大きく一歩、後退した。左手の指で刃の腹をつかんだナイフを、背後に隠しながら。
「返しなさいよ! あたしのナイフ!」
そう叫びながら、右手を伸ばした。
大きく踏み込んだ。パール・スノーが。
次の瞬間だった。
ルビー・クールが右手の拳で、突いた。続けざまに二回。
パール・スノーの左脇腹と左胸を。左胸は、心臓の真上だ。
いや、拳では、なかった。逆手に持ったナイフのグリップの底だ。
パール・スノーが、うずくまった。苦悶の表情を、浮かべながら。
ルビー・クールは、右手のナイフを、逆手から順手に持ち替えた。
口を開いた。冷ややかに、見下ろしながら。
「本物の殺し合いなら、あなた、死んでいたわよ。ナイフで、心臓を刺されて」
「殺しなさいよ」
パール・スノーが、吐き捨てた。うずくまったまま。
「殺さないわ。あなたのことは。なぜなら、仲間だから」
「なにが、仲間よ。あんたとは、十二歳の時に知り合ったけど、あたしのことを一度でも、友達扱いしてくれたこと、あったかしら?」
「ないに決まってるでしょ。あなたは友達じゃない。なぜなら、あたしの友達は、エメラルド・グリーンただ一人よ」
第二章「友達探して絶体絶命」に続く。
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