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第二章 友達探して絶体絶命 <第1話>
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<第二章 第1話>
午前十時過ぎ。マイヤー氏の邸宅に、到着した。場所は、南二区北西エリア第六ブロックだ。
ローランド邸は、東区南東エリア第七ブロックにある。道路は空いていたが、一時間半ほどかかった。
ローランド家の馬車の車体には、通常は、家紋が、大きく描かれている。貴族の専属馬車は、そういうものだ。
だが今回は、馬車の車体には、なにも描かれていない。隠密行動だからだ。
馬車の馭者は、三十歳代の中年小男だ。
彼は、ローランド孤児院の出身だ。
ローランド夫人は、三十年ほど前、秘密売春組織の隠れ蓑とするため、慈善団体を正式に立ち上げた。帝国陸軍少尉だった夫のローランド氏が、戦争で戦死したあとだ。
彼女の幸せな時間は、五年間ほどしか、続かなかった。
ふたたび、秘密売春組織を立ち上げた。学生時代に仲間だった元娼婦たちを集めて。彼女たちの半数は、戦争未亡人か、夫が傷痍軍人になっていた。
慈善活動に、実態がないことが発覚するとまずいため、支援する先を探した。東区の南隣にある南三区に、ちょうど良い孤児院を見つけた。資金難で、経営が悪化していた孤児院だ。
しばらく資金援助をしたあと、孤児院のネーミング権を入手し、ローランド孤児院に改称させた。
その孤児院では、子どもたちは十二歳の誕生日になると、孤児院を卒業する。男児は各種の職人の見習いとして、親方の家に住み込みで働く者が多い。女児の場合は、裁縫師の見習いなどが多い。
毎月、支援金を持参して孤児院を訪れ、慎重に子どもたちを見極めた。口の堅い子どもたちを。
ほぼ毎年のように、十二歳になった男児か女児のどちらか一名を、ローランド邸の使用人として、雇うようになった。
女児はメイド見習いとして。男児は、執事や庭師、それに専属馬車の馭者の見習いとして。
その馭者は、二十年ほど前から、ローランド夫人に仕えている男だ。忠誠心の強い口の堅い男だ。だから今回、ローランド夫人に指名されたのだ。
馬車は、マイヤー邸の前に停めた。
マイヤー邸は、三階建ての邸宅だった。以前、ルビー・クールが訪れたフィッシャー氏やシュナイダー氏の邸宅と、ほぼ同じ構造のようだ。
(※著者注:フィッシャー邸はシリーズ第一弾<孤立無援編>、シュナイダー邸は第二弾<革命編>に、登場)
フィッシャー氏もシュナイダー氏も、殺されてしまった。マイヤー氏は、どうだろうか。
マイヤー氏が、エメラルド・グリーンを殺すことは、考えづらい。
となると……。
パール・スノーが、玄関ドアを、ノックしようとした。
あわてて止めた。
「だめよ。ノックしたら」
「なぜ?」
「この屋敷のメイドは、電話で、嘘をついた。つまり、彼女は敵よ」
「殺すの? そのメイドも」
「エメラルドが、殺されていたらね。だけど、生きている前提で行動するわよ。だから、勝手に殺しちゃダメよ」
冷ややかな笑みを浮かべた。パール・スノーが。
「あんたじゃないんだから、殺しまくったりは、しないわ」
言葉を続けた。パール・スノーが。いやらしい笑みを浮かべながら。
「あんた、たくさん殺しまくったんだって?」
「それが、なにか?」
「十二月のときも、孤児院を守るために、殺しまくったのかしら?」
十二月の帝都大乱のことは、詳しくは、誰にも話していない。
孤児院の子どもたちを守るために、戦った。一斉蜂起した無産者革命党の悪党ども相手に。
その程度の話しか、していない。
拉致された子どもたちを奪還するために、敵のアジトに乗り込んだことは、誰にも話していない。
(※著者注:シリーズ第三弾<帝都大乱編>の戦い)
「ええ、そのとおりよ。悪党どもを、たくさん殺したわ」
押し黙った。パール・スノーは。
あっさりと、ルビー・クールが認めたせいか。
サファイア・レインが、尋ねた。
「で、どうするの? 裏口から、のぞいてみる?」
「このドアから、静かに入るわ。鍵を開けて、ね」
そう言いながら、ルビー・クールは、ヘアピンを取り出した。
午前十時過ぎ。マイヤー氏の邸宅に、到着した。場所は、南二区北西エリア第六ブロックだ。
ローランド邸は、東区南東エリア第七ブロックにある。道路は空いていたが、一時間半ほどかかった。
ローランド家の馬車の車体には、通常は、家紋が、大きく描かれている。貴族の専属馬車は、そういうものだ。
だが今回は、馬車の車体には、なにも描かれていない。隠密行動だからだ。
馬車の馭者は、三十歳代の中年小男だ。
彼は、ローランド孤児院の出身だ。
ローランド夫人は、三十年ほど前、秘密売春組織の隠れ蓑とするため、慈善団体を正式に立ち上げた。帝国陸軍少尉だった夫のローランド氏が、戦争で戦死したあとだ。
彼女の幸せな時間は、五年間ほどしか、続かなかった。
ふたたび、秘密売春組織を立ち上げた。学生時代に仲間だった元娼婦たちを集めて。彼女たちの半数は、戦争未亡人か、夫が傷痍軍人になっていた。
慈善活動に、実態がないことが発覚するとまずいため、支援する先を探した。東区の南隣にある南三区に、ちょうど良い孤児院を見つけた。資金難で、経営が悪化していた孤児院だ。
しばらく資金援助をしたあと、孤児院のネーミング権を入手し、ローランド孤児院に改称させた。
その孤児院では、子どもたちは十二歳の誕生日になると、孤児院を卒業する。男児は各種の職人の見習いとして、親方の家に住み込みで働く者が多い。女児の場合は、裁縫師の見習いなどが多い。
毎月、支援金を持参して孤児院を訪れ、慎重に子どもたちを見極めた。口の堅い子どもたちを。
ほぼ毎年のように、十二歳になった男児か女児のどちらか一名を、ローランド邸の使用人として、雇うようになった。
女児はメイド見習いとして。男児は、執事や庭師、それに専属馬車の馭者の見習いとして。
その馭者は、二十年ほど前から、ローランド夫人に仕えている男だ。忠誠心の強い口の堅い男だ。だから今回、ローランド夫人に指名されたのだ。
馬車は、マイヤー邸の前に停めた。
マイヤー邸は、三階建ての邸宅だった。以前、ルビー・クールが訪れたフィッシャー氏やシュナイダー氏の邸宅と、ほぼ同じ構造のようだ。
(※著者注:フィッシャー邸はシリーズ第一弾<孤立無援編>、シュナイダー邸は第二弾<革命編>に、登場)
フィッシャー氏もシュナイダー氏も、殺されてしまった。マイヤー氏は、どうだろうか。
マイヤー氏が、エメラルド・グリーンを殺すことは、考えづらい。
となると……。
パール・スノーが、玄関ドアを、ノックしようとした。
あわてて止めた。
「だめよ。ノックしたら」
「なぜ?」
「この屋敷のメイドは、電話で、嘘をついた。つまり、彼女は敵よ」
「殺すの? そのメイドも」
「エメラルドが、殺されていたらね。だけど、生きている前提で行動するわよ。だから、勝手に殺しちゃダメよ」
冷ややかな笑みを浮かべた。パール・スノーが。
「あんたじゃないんだから、殺しまくったりは、しないわ」
言葉を続けた。パール・スノーが。いやらしい笑みを浮かべながら。
「あんた、たくさん殺しまくったんだって?」
「それが、なにか?」
「十二月のときも、孤児院を守るために、殺しまくったのかしら?」
十二月の帝都大乱のことは、詳しくは、誰にも話していない。
孤児院の子どもたちを守るために、戦った。一斉蜂起した無産者革命党の悪党ども相手に。
その程度の話しか、していない。
拉致された子どもたちを奪還するために、敵のアジトに乗り込んだことは、誰にも話していない。
(※著者注:シリーズ第三弾<帝都大乱編>の戦い)
「ええ、そのとおりよ。悪党どもを、たくさん殺したわ」
押し黙った。パール・スノーは。
あっさりと、ルビー・クールが認めたせいか。
サファイア・レインが、尋ねた。
「で、どうするの? 裏口から、のぞいてみる?」
「このドアから、静かに入るわ。鍵を開けて、ね」
そう言いながら、ルビー・クールは、ヘアピンを取り出した。
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