絶体絶命ルビー・クールの逆襲<人身売買編>

蛇崩 通

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<第二章 第5話>

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  <第二章 第5話>
 「知ってるぞ! 魔法はすべて、まぼろしだ。魔法なら、刺されても、痛くもかゆくもねえ。おどしはかねえぞ」
 「痛いわよ。魔法攻撃は。心臓が弱ければ、ショック死するわよ。それに、魔法のくぎで眼球を刺したら、視神経が破壊されて、失明するわよ」
 釘を、ギュンターの顔に、近づけた。
 「きなさい。エメラルド・グリーンを、監禁している場所を」
 「誰が、吐くか!」
 突き刺した。釘を。ギュンターの左目に。魔法詠唱しながら。
 絶叫した。ギュンターが。
 突き刺したのは、幻覚で作った魔法の釘だ。
 本物の釘は、眼球に突き刺す直前に、逆手さかてに持ち替え、手のひらの中に隠した。
 だが、ギュンターは思い込んだはずだ。本物の釘で刺された、と。
 「さあ、吐きなさい! 吐かないと、右目にも突き刺すわよ!」
 ギュンターが、回答を始めた。ペラペラと。ルビー・クールのすべての質問に。
 エメラルド・グリーンは、数年前に閉鎖された劇場ブルーヒルの地下室に、監禁されている。ブルーヒルは、南一区北東エリア第七ブロックにある。
 ブルーヒルは、マイヤー邸から、馬車で一時間ほどの距離だ。
 必要な情報を聞き出したあと、チンピラたちには、魔法をかけた。
 魔法の針で、彼らのくちびるをった。それに、魔法付属術もかけた。
 これで彼らは、言葉を話せなくなった。
 しばらくの間は。
 魔法付属術とは、言葉による暗示だ。
 だがそれにより、魔法持続時間が切れても、魔法の幻覚・幻痛・幻触が継続する。実際には、本人が、そう思い込んでいるだけなのだが。
 魔法付属術が、いつとけるのかは、人による。一晩眠って、朝起きたときには、とけている場合もある。
 一方、何日間も、それどころか数週間、数ヶ月間も、持続するケースもある。
 初老のメイドには、荷物をまとめて、マイヤー邸から出て行くように言った。
 なぜなら、このままこの屋敷にいたら、殺されるからだ。
 マイヤー氏を連れ回しているチンピラたちが、戻って来たときに。
 彼は現在、金策に走り回っているはずだ。チンピラに、監視されながら。
 カネさえ払えば、命が助かると、思っているはずだ。
 カネを払えば、エメラルド・グリーンを取り戻せると、思っているだろう。
 甘い考えだ。
 マフィアの凶悪さを、見誤っている。
 彼らは、殺すつもりだ。マイヤー氏が、限界まで金を集めたあと。そのカネを奪って。
 カネを奪ったあとは、命も奪う。
 その理由は、証拠隠滅のためだ。カネを奪った相手を生かしておくと、警察に通報されたり、ほかのマフィアに泣きついて、復讐をはかられたりするからだ。
 マイヤー邸の電話で、ローランド夫人に連絡をした。
 連絡では、あらかじめ決めた隠語を使った。
 エメラルド・グリーンは、「緑の瞳の猫」だ。
 電話では、最初に、一方的に話した。
 「緑の瞳の猫は、屋敷に、いなかったわ。閉鎖された劇場ブルーヒルに、いるようよ。屋敷には野良犬三頭がいたわ。野良犬は、狼の血を引いているの。三頭とも拘束したわ。屋敷には、老いたメス猫もいたわ。そのメス猫は、屋敷から逃がしたわ」
 状況は、ほぼ伝わったはずだ。
 さらに、言葉を続けた。
 「緑の瞳の猫を、連れ戻しにいくわ。これから、ブルーヒルに」
 ローランド夫人が、口をはさんだ。
 「猫探しに、応援を送るわ」
 「必要ないとは思うけれど、念のために、男手も何名か送って。若い男も、一人ね。応援隊との合流地点は、あたしの店よ」
 電話を切った。
 サファイア・レインが、尋ねてきた。
 「で、これからどうするの?」
 「エメラルドを、救出しにいくわ」
 パール・スノーが、尋ねた。
 「チンピラたちは、殺すの?」
 「まだよ。エメラルドを生きて救出できたら、殺さない。だけれども、殺されていたり、行方不明で救出できなかった場合は、戻って来てから殺すわ。彼らは地下室に、閉じ込めるわよ」
 不安そうな顔で、尋ねた。サファイア・レインが。
 「応援は、待たないの?」
 「あたしたち三人で、できるわ」
 「どうやって? 相手は、マフィアなんでしょ」
 「あなたたち、狙撃は、できるかしら?」
 「そんなこと、できるわけないでしょ」
 「小学生のとき、練習しなかった? 子ども向け練習用二十二口径ライフルを」
 「それなら、あるわよ」
 「決まりね。あなたたちには、狙撃手になってもらうわ」

   第三章「敵のアジトで絶体絶命」に続く。
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