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20. 聖菜さんだけが知るオレ

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20. 聖菜さんだけが知るオレ


 オレはそのままシアターを出ると、聖菜さんは売店で飲み物を購入していた。オレは聖菜さんの元へ駆け寄る。

「あの聖菜さん」

「ん?優斗君も飲む?」

 オレは聖菜さんが買ってくれたジュースを受け取り、一口飲んで聖菜さんに話しかける。

「さっきのことだけどさ」

「さっきのことってなにかな?」

 可愛らしく首を傾げる聖菜さん。やっぱり絶対にバレてる。そしてオレの反応を見て楽しんでいる。そんなことを思っていると聖菜さんが謝ってくる。

「ごめんね寝ちゃって」

「え?ああそれは別にいいよ」

「こう見えても私、結構楽しみで緊張してたんだよ?昨日あまり寝れなくてさ」

「オレもだよ」

「優斗君はいつもじゃん」

「全部聖菜さんが悪いんだけどな」

 オレがそう言うと聖菜さんは少しだけオレに近づいてこう言った。

「さっきのことも私が悪いのかな?」

「さっきのことってなんだろ?」

「認めないと罪は軽くならないよ」

「裁判で会おうか」

「敏腕弁護士に依頼しといてね」

 ……本当にずるいな。やっぱり聖菜さんには敵わない。オレたちはそんなやり取りをしながら映画館を後にした。

 そして昼食をとるために、近くのレストランに向かうことにする。もちろん手は繋いだままだ。横を歩く聖菜さんは終始ニコニコしている。そんな姿を眺めているだけで幸せな気持ちになれる。

 レストランに入ると、ちょうど昼時ということもあり、多くの客で賑わっていた。オレと聖菜さんは窓際の席に向かい合って座る。

「優斗君は何食べる?」

「オレはオムライスにするよ」

「え?」

「え?どうかしたか?」

 オレが注文しようとすると、なぜか聖菜さんは驚いていた。そして小さく微笑む。

「オムライス好きなんだね」

「ああ好きだぞ。美味しいし」

「私の作ったオムライスも良く好んで食べてくれてたなぁ」

「そうなのか」

「うん。優斗君は鶏肉と玉ねぎだけのシンプルなオムライスが好きなんだよね。だから葵も愛梨もそれが好きになっちゃってさ」

 そう言って、少し懐かしむような表情を浮かべる聖菜さん。もしかしたら自分だけ記憶を持っているのは少し寂しいのかもしれない。

「あのさ今度作ってくれない?」

「え?」

「聖菜さんの作るオムライス食べたくなった」

「ほう。この三ツ星シェフに頼むとは。高くつくよ?」

「料金は未来の旦那様価格でお願いするよ」

「ふふ。仕方ないなぁ」

 嬉しそうに笑う聖菜さんを見るとオレまで笑顔になる。やはり聖菜さんは笑った顔が一番可愛いと思う。それに……そんな聖菜さんを理解してあげられるのはオレだけだ。

 それからオレと聖菜さんは、他愛のない会話をして、楽しい時間を過ごした。

 そして駅までの道を手を繋いで歩くオレと聖菜さん。すると聖菜さんが突然立ち止まる。どうしたのだろう?と思い、聖菜さんの方を向くと、聖菜さんがオレの顔を見つめてくる。夕陽に照らされた聖菜さんの姿はとても綺麗だった。

「ありがとね優斗君」

「どうした急に?」

「ふふ。実は私と優斗君の初めてのデートは今日と同じ映画館だったの」

「そうなのか」

「でも、優斗君が遅刻してさ、結局映画は観れなかったんだ」

「おかしいな。こんなにも早く集合するオレが」

「……お花を選んでくれてたんだ。私にプレゼントするために」

「え?」

「私さ。一回だけ高校生の時に優斗君と好きなお花について話したことあってさ。それを覚えていてくれたの。それがすごく嬉しかった。だから思ったの。きっとこの人なら……って」

 それは聖菜さんだけが知っている未来のオレ。今のオレとは違う。それでもそれを嬉しそうに語る聖菜さんは本当に幸せそうな顔をしていた。オレと聖菜さんは『運命的な何か』。確かにそうなのかもしれない。だからこそオレは今できることを……。

「聖菜さん」

「なにかな?」

「これからは……聖菜さんの知らないオレがたくさん出てくるよ」

「エンターテイナーだね?」

「特別に未来の奥様価格で楽しませてあげよう。だからこれからも『運命的な何か』でよろしく」

「こちらこそ。よろしくお願いします」

 そう言ってオレと聖菜さんは笑い合う。そしてオレは今度は少しの恥ずかしさと、大きな覚悟を持って聖菜さんの手を強く握りそのまま家路に帰るのだった。
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