【たいむりーぷ？】『私。未来であなたの奥様やらせてもらってます！』～隣の席の美少女はオレの奥様らしい。きっと新手の詐欺だと思う……たぶん。～

25. アピールは大事だからな

25.　アピールは大事だからな



　オレは勢い良く扉を開く。そこには聖菜さんと男が立っていた。男は身長が高く、髪は短めで、少し強面な印象を受ける。歳はオレより少し上のように見えた。男は突然現れたオレを見て驚いていた。

　聖菜さんは驚いた様子でオレを見ている。オレは男を見る。男はオレを睨むように見ている。

「なんだお前は？」

「大丈夫聖菜さん？」

「え？」

「おい聖菜。こいつ誰だよ」

　そんなオレの言葉を聞いて睨み付けてくる男。少し声が上ずってしまったが、ここはもう覚悟を決めるしかない！聖菜さんが答える前にオレが口を開いた。

「オレは神坂優斗。……聖菜さんの……彼氏だ」

「……は？」

「優斗君……」

　聖菜さんは少し頬を赤く染め、俯いていた。聖菜さんのこんな顔を初めて見たかもしれない。オレは精一杯胸を張って言った。

「あなたこそ誰なんですか？」

　さぁ。かかってこい。どんな罵声も暴力も甘んじて受けようじゃないか。それで聖菜さんが守れるなら安いものだ。

　しかし。目の前にいる男は予想外の反応を見せた。最初はポカーンとした表情をしていたが、徐々に笑顔になっていった。最後には大きな声で笑い始めた。オレは意味が分からず、ただ呆然としていた。すると男は笑いながら話し出す。

「オレは聖菜の兄だよ」

「……へ？お兄さん？」

　オレが聖菜さんのほうを見ると、コクリと小さくうなずく。

「えっと……その……」

「おい聖菜。こいつ本当に彼氏なのか？」

「……うん」

　聖菜さんがお兄さんにそう言うと、お兄さんはニヤリと笑う。

「ほーん。なるほどねぇ。それでこいつはオレが悪い男だと思って、聖菜を守るためにオレに立ち塞がったわけか」

「すいません……」

　うわ。めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。勝手に勘違いして飛び出てしまった。

「いやいや。オレもいきなり来たから悪かったな。オレは高宮彰吾。聖菜の兄だ。よろしく」

「それよりどうしたのお兄ちゃん」

「母さんに頼まれて仕送りを持ってきたんだよ」

「連絡くらいしてよ。ビックリするでしょ」

　……完全にやってしまった。印象最悪じゃねぇか。聖菜さんとお兄さんの彰吾さんはオレをよそに話し合っているし。

「それにしてもお前に彼氏とはな」

「いいでしょ。私はもう高校生なんだから」

「だな。優斗って言ったか？」

「はい！？」

「こいつはおとなしくて危なっかしいからよ。面倒見てやってくれな。あとお前なかなか度胸あるな気にいったよ。それじゃまたな聖菜」

　そう言って彰吾さんは帰っていく。なんか気にいられたんだが？まぁ悪いことじゃないからよしとしよう。そしてそのままオレと聖菜さんは部屋に戻る

「お兄さんならすぐに言って欲しかったんだが……」

「ごめん。いきなり優斗君が来たからビックリして」

「そりゃ……聖菜さんが困ってそうだったからさ。あんな顔見たことなかったし」

「さすがに優斗君がいるのにお兄ちゃんが来たら私でも困るよ……」

　聖菜さんは申し訳なさそうにしている。それからお互い少しの沈黙が流れる。先に話を切り出したのは聖菜さんの方だった。

「あのさ……さっきの事……なんだけど……」

　顔を赤らめてオレに話し出す聖菜さん。いつもなら『おやおや。いつから私の彼氏になったのかな？』とか言ってくるのに、今は違う。『あれは咄嗟にそうしたほうがいいからさ』と言ってしまえば、聖菜さんは話をあわせてくれるだろう。

　たった1ヶ月しか一緒にいないけど、それが分かってしまう。それだけオレは聖菜さんのことを……

「ベタな撃退法だよな」

「え？うん。そうだね」

「オレの意外な一面が見れたんじゃない」

「声が上ずってたけど？」

「いや～颯爽と飛び出して、カッコいいよな」

「自分で言っちゃうのそれ？」

「アピールは大事だからな。高宮聖菜検定に合格したいし」

「かなり好印象だね。ポイント高いよ」

　すると聖菜さんはいつものようにクスクスと笑う。オレもつられて笑ってしまう。このやり取りがオレと聖菜さんの関係。『運命的な何か』今はそれでいい。でも、いつかはきちんと聖菜さんのこと……そんなことを思うのだった。