【ガチ恋プリンセス】これがVtuberのおしごと~後輩はガチで陰キャでコミュ障。。。『ましのん』コンビでトップVtuberを目指します!

夕姫

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923. 姫は『強制参加』らしいです

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923. 姫は『強制参加』らしいです


 そして翌日。いつも通りの日課。家で配信をこなし、溜まっていた提出物やサイン書きを片付け、関係者とのオンライン打ち合わせを終える。すべてを終え、一息ついたところで、時計を見ると、時間は15時を指していた。

 17時からの配信企画までは、まだ時間がある。一度頭を切り替えようとリビングへ向かった。すると、ちょうど彩芽ちゃんが出かけるところだった。

「彩芽ちゃん。今から出かけるの?」

「あ。颯太さん!?……えっと……その……はい」

 なぜか、たどたどしい彩芽ちゃん。え……どういうこと?まさか……何かやましいことでもあるのか?

「どうしたの?そんなに慌てて。まるで何か隠してるみたいなんだけど」

「か、隠してなんかないですよ!ちょっと……急いでただけです!事務所にいかないと!」

 その言葉を聞きながら、改めて彩芽ちゃんの姿を観察した。メイクもバッチリ、そして、着ている服装も可愛い。いつものラフな私服というよりは、新しいデザインのワンピースに、しっかりとしたアクセサリーを身に着けている。

「……随分と気合入ってるように見えるんだけど?」

 彩芽ちゃんは、一瞬、自分の服装に視線を落とし、ハッとしたように顔を上げた。

「えっ……あ、これは……その……今日は、こういう気分で……収録のあとご飯を食べに行く約束してて……あ。時間、颯太さん行ってきます」

 そう言って、彩芽ちゃんは再びドアに向き直る。しかし、ドアノブに手をかける寸前で、再び動きを止めた。

「……あの」

「どうしたの?」

 そう尋ねると、彩芽ちゃんはゆっくりと振り返り、一歩、また一歩とオレに近づいてくる。そして、オレの目の前で立ち止まり、両手をオレの胸元にそっと添えた。

 一瞬のリップ音。柔らかい感触。彩芽ちゃんは、オレの唇に、短い、そして甘いキスを落とした。

「行ってきますのキスです」

 恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、彩芽ちゃんはそう囁いた。その言葉と、あまりにも可愛らしい行動に、オレの心臓はドクンと大きく跳ねた。

「ああ……うん。行ってらっしゃい」

 オレは、精一杯の平静を装ってそう返した。彩芽ちゃんは、満足そうに微笑むと、今度こそ玄関のドアを開け、足早に去っていった。

「……はぁ」

 彩芽ちゃんの姿が見えなくなってから、オレは大きく息を吐き出した。顔が熱い。キス一つでこんなに動揺するなんて、我ながら情けない。

 しかし、唇に残る柔らかい感触と、わずかに甘い香りの余韻が、どうにも平静を装わせてくれない。

 リビングへと戻り、気持ちを切り替えようとした、まさにその時、ポケットの中のスマホが微かに震えた。画面を見ると、そこには『日咲七海』の文字。

「七海?こっちに連絡があるということは、姫宮ましろじゃなくてオレに用があるのか?……もしもし?」

 オレは、まだ少し火照った顔を冷まそうと、ソファーに深く腰掛けながら通話ボタンを押した。

 《あ。颯太、今日の夜。暇だよね?》

 七海の声は、まるで確定事項を告げるかのように、一方的だった。

「暇ってなんだよ。17時から配信あるんだけど」

 《その後だよ。今から住所送るね。ご飯食べるから》

「は?ご飯食べるってなんだよ」

 《……なんか、陽菜ちゃんがCGSと仕事一緒で、セレナとマオがまだ挨拶したことないし、せっかくだから夜ご飯食べようって……》

 七海の声が、途端にトーンダウンした。……なるほど。CGSか。CGSには七海の実の妹、帆夏ちゃんがいる。やはりプライベートで妹との接触、しかも仕事関係者を交えて、というのは少なからず気まずいのだろう。少し声に焦りが見える。

 なんだ、結局は妹に会いたくない、あるいは、どう対応したらいいか分からないから、オレを盾にしようとしているのか。可愛いところもあるんだな、七海。

 オレは思わず小さく笑いをこぼした。

「良かったじゃないか。行けばいいだろ?せっかく後輩が挨拶したいって言ってるんだし」

 《でも……帆夏いるし……》

「じゃあ断ればいいだろ?」

 《あのさ!せっかく挨拶したいって後輩が言ってるのに断るとか空気読めない先輩じゃん!本当にそういうところダメだよね颯太は!》

 オレは、七海の突然の逆ギレに、思わずソファーから体を浮かせた。なんでオレに怒ってんだよコイツ……。意味が分からないんだが?

「別にオレがいる理由なくないか?CGSはオレが姫宮ましろだと知らないし、先輩とご飯を食べる場に、オレが居たらおかしいだろ?オレはCGSと会ったことあるし、そもそも、長門さんのマネージャーなんだよオレは」

 オレの正論にも、七海は構わず、一気に畳み掛けてきた。

 《颯太。あたしは怒ってるんだからね?》

「え?」

 《帆夏の件。ず~っとあたしに黙ってて。七海ちゃんはおこだよおこ!教えてくれてもいいじゃん!あたしと颯太ってそこまでの関係だったの!?》

「教えられるわけないだろ!あれ機密事項だぞ!」

 《ということで、あれは貸しだから。颯太は強制参加。今LINE送ったから、20時に集合ね。それじゃよろしく!あ。配信頑張ってね~!》

「あっおい!……切れた……」

 画面には、七海からのLINE通知が表示されている。簡潔なメッセージと共に送られてきた住所。場所は、オフィス街から少し離れた、落ち着いた雰囲気の居酒屋のようだ。

「居酒屋?選んだの月城さんかw」

  リビングの窓からは、午後の、まだ力の強い秋の日差しが差し込んでいた。その光の中に、オレは1人ため息をつく。

 「まあ、七海があそこまで露骨に頼ってくるのは珍しい。たまにはいいか……とか思ってしまうんだもんな。オレも甘いよな」

  オレは、ソファーから立ち上がり、17時からの配信準備に取り掛かることにする。まぁ、『ポアレイ』てぇてぇを見れるならいいか。
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