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999. 『冬空に響け!聖なる夜の秘密の歌』~オフパート それ以上にです~
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999. 『冬空に響け!聖なる夜の秘密の歌』~オフパート それ以上にです~
クリスマスの大型企画も残りは最後の企画を残すのみとなった。最後の企画が始まるまで、少しだけ時間があるのでリビングにいくと、そこには冷蔵庫から牛乳を取り出している彩芽ちゃんがいた。
「あ……颯太さん。お疲れ様です……」
「うん。お疲れ様」
「コーヒー……飲みますか?」
「お願いできる?」
オレの言葉に、彩芽ちゃんは「はいっ」と小さく、けれど弾むような声で応えた。
彩芽ちゃんは慣れた手つきでコーヒーメーカーをセットし、冷蔵庫から取り出したばかりの牛乳を電子レンジで温め始める。
「……颯太さん。最後の企画、何やるんですかね?」
電子レンジの駆動音だけが、やけに大きく響く静かなキッチン。彩芽ちゃんが、カップの縁を指でなぞりながらポツリと呟いた。
「ライバー全員参加だからね。流れ的にライバーの曲にまつわるクイズだろうけど」
オレがソファに深く腰を下ろすと、彩芽ちゃんが温めたミルクを丁寧に注いだカフェオレを運んできてくれた。一口飲むと、優しい甘さが体中に染み渡っていく。
何気ない日常。けれど、特別すぎるほどに心地いい時間。このままここで、二人だけで世界の喧騒から切り離されていたい――そんな甘い思考が頭をもたげる。
……いや、今日はクリスマスだ。
仕事が詰まっているのはいつものことだが、味気ない機材に囲まれて聖夜を終えるなんて、男として少し寂しすぎる。
……たまには彩芽ちゃんと、仕事の延長ではない場所へ出掛けたいよな。
「……ねぇ、彩芽ちゃん。この企画が終わったらさ……」
オレの声に、彩芽ちゃんがピクリと肩を揺らしてこちらを向く。
「少しだけ外に出ない?ずっと家で配信機材と向き合いっぱなしだったし……2人でゆっくり、クリスマスらしいことしたいって思ってさ?」
オレの提案は、少し唐突だったかもしれない。けれど、彩芽ちゃんの瞳はみるみるうちに輝きを帯びていった。
「それなら……イルミネーション、見たいです……駅前の広場がすごく綺麗だって、リスナーさんが言ってて……えっと、もし迷惑じゃなければ……ですけど……」
「うん。いいよ」
オレがそう言うと彩芽ちゃんはパァッと嬉しそうな笑顔を見せてくれる。配信という魔法が解けかかった、この曖昧なインターバル。誰にも見られないこの場所でだけ、オレたちは「ましろ」と「かのん」という役割を脱ぎ捨てることができる。
「じゃあ、その帰りに何か食べて帰ろうか。……やっぱり、お寿司かな?」
「お、お寿司……!」
「お寿司」という単語が出た瞬間、彼女のテンションが一段跳ね上がった。
「その……えびたま……えびと、たまご、いっぱい食べても、いいですか……?」
「あはは、もちろん。好きなだけ食べていいよ」
オレが笑って答えると、彩芽ちゃんは安心したように「ふふっ」と頬を緩める。本当に『えびたま』が好きなんだな彩芽ちゃんは。
「約束ですよ?企画、最後まで頑張れます。……颯太さんと一緒に歩くイルミネーションのために」
「えびたまじゃないの?」
「それも……いえ、それ以上に、颯太さんと一緒なのが、大事です!」
彼女は手元のカップを両手で包み込み、昇り立つ湯気の向こうで、少しだけ熱を帯びた瞳をこちらに向けた。
……そんな顔をされると、こっちの心拍数まで跳ね上がるんだが。
それから数分。リビングの時計が、無情にも最後の企画開始が近いことを告げた。
「よし、そろそろ行こうか」
「はい」
名残惜しさを振り払い、各々の配信部屋へと向かう。ドアを閉める直前、彩芽ちゃんがくるりと振り返り、小さく手を振った。
「颯太さん、言ってませんでした……メリークリスマス」
「え?あっうん。メリークリスマス」
不意打ちの言葉に、間の抜けた返事をしてしまう。数分後にはまた、オレたちは何万人ものリスナーの前で、理想のVtuberを演じ、声を張り上げる。
けれど、この冬の夜に交わした「イルミネーションとえびたま」の約束だけは、誰にも暴かれないオレと彩芽ちゃんだけの秘密として、胸の奥で温かく灯っていた。
クリスマスの大型企画も残りは最後の企画を残すのみとなった。最後の企画が始まるまで、少しだけ時間があるのでリビングにいくと、そこには冷蔵庫から牛乳を取り出している彩芽ちゃんがいた。
「あ……颯太さん。お疲れ様です……」
「うん。お疲れ様」
「コーヒー……飲みますか?」
「お願いできる?」
オレの言葉に、彩芽ちゃんは「はいっ」と小さく、けれど弾むような声で応えた。
彩芽ちゃんは慣れた手つきでコーヒーメーカーをセットし、冷蔵庫から取り出したばかりの牛乳を電子レンジで温め始める。
「……颯太さん。最後の企画、何やるんですかね?」
電子レンジの駆動音だけが、やけに大きく響く静かなキッチン。彩芽ちゃんが、カップの縁を指でなぞりながらポツリと呟いた。
「ライバー全員参加だからね。流れ的にライバーの曲にまつわるクイズだろうけど」
オレがソファに深く腰を下ろすと、彩芽ちゃんが温めたミルクを丁寧に注いだカフェオレを運んできてくれた。一口飲むと、優しい甘さが体中に染み渡っていく。
何気ない日常。けれど、特別すぎるほどに心地いい時間。このままここで、二人だけで世界の喧騒から切り離されていたい――そんな甘い思考が頭をもたげる。
……いや、今日はクリスマスだ。
仕事が詰まっているのはいつものことだが、味気ない機材に囲まれて聖夜を終えるなんて、男として少し寂しすぎる。
……たまには彩芽ちゃんと、仕事の延長ではない場所へ出掛けたいよな。
「……ねぇ、彩芽ちゃん。この企画が終わったらさ……」
オレの声に、彩芽ちゃんがピクリと肩を揺らしてこちらを向く。
「少しだけ外に出ない?ずっと家で配信機材と向き合いっぱなしだったし……2人でゆっくり、クリスマスらしいことしたいって思ってさ?」
オレの提案は、少し唐突だったかもしれない。けれど、彩芽ちゃんの瞳はみるみるうちに輝きを帯びていった。
「それなら……イルミネーション、見たいです……駅前の広場がすごく綺麗だって、リスナーさんが言ってて……えっと、もし迷惑じゃなければ……ですけど……」
「うん。いいよ」
オレがそう言うと彩芽ちゃんはパァッと嬉しそうな笑顔を見せてくれる。配信という魔法が解けかかった、この曖昧なインターバル。誰にも見られないこの場所でだけ、オレたちは「ましろ」と「かのん」という役割を脱ぎ捨てることができる。
「じゃあ、その帰りに何か食べて帰ろうか。……やっぱり、お寿司かな?」
「お、お寿司……!」
「お寿司」という単語が出た瞬間、彼女のテンションが一段跳ね上がった。
「その……えびたま……えびと、たまご、いっぱい食べても、いいですか……?」
「あはは、もちろん。好きなだけ食べていいよ」
オレが笑って答えると、彩芽ちゃんは安心したように「ふふっ」と頬を緩める。本当に『えびたま』が好きなんだな彩芽ちゃんは。
「約束ですよ?企画、最後まで頑張れます。……颯太さんと一緒に歩くイルミネーションのために」
「えびたまじゃないの?」
「それも……いえ、それ以上に、颯太さんと一緒なのが、大事です!」
彼女は手元のカップを両手で包み込み、昇り立つ湯気の向こうで、少しだけ熱を帯びた瞳をこちらに向けた。
……そんな顔をされると、こっちの心拍数まで跳ね上がるんだが。
それから数分。リビングの時計が、無情にも最後の企画開始が近いことを告げた。
「よし、そろそろ行こうか」
「はい」
名残惜しさを振り払い、各々の配信部屋へと向かう。ドアを閉める直前、彩芽ちゃんがくるりと振り返り、小さく手を振った。
「颯太さん、言ってませんでした……メリークリスマス」
「え?あっうん。メリークリスマス」
不意打ちの言葉に、間の抜けた返事をしてしまう。数分後にはまた、オレたちは何万人ものリスナーの前で、理想のVtuberを演じ、声を張り上げる。
けれど、この冬の夜に交わした「イルミネーションとえびたま」の約束だけは、誰にも暴かれないオレと彩芽ちゃんだけの秘密として、胸の奥で温かく灯っていた。
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