【ガチ恋プリンセス】これがVtuberのおしごと~後輩はガチで陰キャでコミュ障。。。『ましのん』コンビでトップVtuberを目指します!

夕姫

文字の大きさ
839 / 1,096

750回記念SS 『海と魔女の絆星』(中編)

しおりを挟む
750回記念SS 『海と魔女の絆星』(中編)




 玄関のチャイムが鳴ったのは水瀬さんの言葉通り、1時間ほど経った頃だった。心臓がトクトクと音を立てる。深呼吸を一つして、ドアを開けた。

「こんにちは」

「あ。こんにちは、水瀬さん来てくれてありがとう」

 同期で顔を合わせたこともあるはずなのに、どこか照れくさくて、顔が熱くなるのを感じた。

「気にしないで大丈夫」

「あ、上がって」

 水瀬さんは私の部屋へと足を踏み入れた。少しだけ緊張した空気が流れたけれど、その空気はどこか温かく、希望に満ちているような気がした。まさかパソコンのトラブルがきっかけで、こんな風に水瀬さんと直接会って話すことになるなんて想像もしていなかった。

 慌てて片付けはしたものの、普段使いの生活感は隠しきれていない。床には脱ぎっぱなしの服が転がっているし、テーブルの上には読みかけの漫画や使いかけのコスメ用品が散らばっている。

「ごめん、片付けたんだけど、ちょっと散らかってて……」

 思わず申し訳なさそうにそう言うと、水瀬さんは部屋の中をゆっくりと見回し、少しだけ目を丸くした。

「え……うん、少しね」

 その正直すぎる言葉に、私は思わず顔が赤くなった。慌てて床の服を拾い上げ丸めて隅に押しやる。テーブルの上の物をとりあえず棚の上に積み上げた。

「普段、こんなんじゃないんだけどね!あはは」

「大丈夫だよ。私も人のこと言えないし。気にしないで。早くパソコン見ようか」

 水瀬さんの落ち着いた声が、私の不安を少しずつ和らげていく。この人に頼ればきっと大丈夫。そう思える不思議な安心感が、私の胸の中にじんわりと広がっていった。

 水瀬さんは私の説明を聞きながら、丁寧にパソコンのケーブルを一本一本確認していく。その手つきは慣れていて迷いがない。私は、その様子をただ見守ることしかできなかった。

「うーん……モニターとの接続は問題なさそうだね。本体の電源ランプは点いてる?」

 水瀬さんの問いかけに、私は慌ててパソコン本体を確認する。小さな緑色のランプがいつも通り点滅している。

「うん、点いてる」

「じゃあ、グラフィックボードかな……」

 水瀬さんはそう呟きながら、パソコンの裏側にある接続端子をじっくりと観察し始めた。

「ちょっと、このケーブルを抜いてみてもいいかな?」

 水瀬さんが指したのは、モニターと本体を繋ぐいつも使っているHDMIケーブルとは違う少し太いケーブルだった。そのままそのケーブルをそっと引き抜く。

「これって、普段使ってる?」

「ううん。これは……前に別のモニターを繋いでた時のケーブルかもしれない」

「なるほどね……ここおさえてるから、こっちの普段使ってるHDMIケーブルを、違う端子に挿してみてもらえる?」

 言われた通りに、HDMIケーブルを別の端子に挿し直してみる。そして息を潜めて電源ボタンを押した。沈黙が数秒続いた後、信じられないことに、真っ暗だったモニターの画面が、ぼんやりと光り始めた。そしてお馴染みのデスクトップ画面がゆっくりと現れたのだ。

「え……!」

 思わず驚きの声を上げてしまった。まさかこんなにあっさりと直ってしまうなんて。

「あ……映った!」

 隣で画面を見守っていた水瀬さんも、小さく微笑んだ。

「良かった~」

「接触不良だったみたいだね。使ってないケーブルが何かの拍子に干渉してたのかも」

「すごい……!ありがとう水瀬さん!」

「どういたしまして。でも念のため、再起動とかも試してみて。また同じ症状が出たら、今度は運営さんに詳しく見てもらった方がいいかもしれないね」

「うん。本当に助かったよ~あの……もしよかったら、何かお礼したい!この後、ご飯でもどうかな?」

 水瀬さんは、少しだけ考え込む仕草を見せた。その横顔は、窓から差し込む午後の柔らかな光に照らされ、どこか知的な雰囲気を漂わせている。彼女の瞳の奥では、何かを思案する光が揺らめいているようだった。

 私の心臓は、また少しドキドキし始めた。まさか断られるだろうかという不安と、もし一緒にご飯に行けるならどんな話ができるだろうかという期待が入り混じっていた。緊張で上手く話せないかもしれないけれど、それでも、水瀬さんのことをもっと知りたいという気持ちが胸いっぱいに広がっていく。

「じゃあ……行こうかな」

「え……?……本当にいいの?」

「うん。相馬さんがそんなに感謝してくれるなら。それに……私も、相馬さんともっと話してみたいと思ってたし……」

 水瀬さんはそう言いながら、私の目を一瞬だけ見てすぐに逸らした。その白い頬がほんのりと桜色に染まっている。可愛い人だな……イメージと違うかも。

「じゃあ準備しないと!あ。化粧してもいい?」

「そんなに焦らなくても大丈夫だよ」

 そして準備をして、夕暮れ時、私たちは駅前の焼肉屋さんへと向かった。空はオレンジと紫のグラデーションに染まり始め、一日の終わりを告げている。行き交う人々も、どこか家路を急ぐ足取りだ。

 駅から少し歩いた路地に、目的の焼肉屋さんはひっそりと佇んでいた。温かい光が漏れる格子戸をくぐると、店員さんの元気な「いらっしゃいませ!」という声が響いた。

 案内されたのは、落ち着いた雰囲気の個室だった。木の温もりが感じられる空間で、二人だけの時間を過ごせることに、少しだけ心が躍る。テーブルの中央には、まだ火の入っていない七輪が置かれている。個室の柔らかな照明が水瀬さんの横顔を優しく照らした。彼女は少し緊張した面持ちでメニューを開いている。

「わあ、美味しそうだね……」

 水瀬さんの小さな呟きが、静かな個室に響いた。私もメニューに目を落とす。色とりどりのお肉の写真が食欲をそそる。

 そして注文をし、七輪の炭が赤々と燃え始め、店員さんがお肉の盛り合わせと野菜、飲み物を運んできてくれた。テーブルの上はたちまち美味しそうな匂いで満たされる。

「すごいね!」

「うん」

「美味しそう~!じゃあ、早速焼いていこうか」

 トングでお肉を七輪に乗せた。ジュージューという音とともに、香ばしい匂いが立ち上り私たちの食欲を刺激する。最初の一切れが焼き上がり、二人でそれを口にした。とろけるようなお肉の甘みと、香ばしいタレの風味が口いっぱいに広がり、思わず顔を見合わせて微笑んだ。

「美味しい!」

「ほんと、美味しいね!」

 美味しい食事のおかげか、さっきまでの緊張が少し和らいできたように感じた。他愛ない話をしながら、私たちは次々にお肉を焼いては食べた。

 そんな中、水瀬さんがふと少しだけ声を落として言った。

「あの……相馬さんに、少しだけ話してもいい?」

「もちろん、どうしたの?」

「配信のことなんだけどさ、実は……私、雑談の配信がすごく苦手なんだよね」

「雑談配信、苦手なの?」

 意外だった。配信で、明るく楽しそうに話しているイメージがあったから。もちろんゲーム配信の時もきちんと話しているし。

「うん……どうしても、何を話せばいいのか分からなくなっちゃって。それに、コメントとかもすごく気にしちゃうし、『つまらない』とか書かれると、すごく落ち込んじゃって……」

「色々気にしちゃう性格なんだ?」

「そうなんだよね……どうしても、周りの目が気になっちゃって。うまく自分を出せないというか……」

 そう言って、水瀬さんは少し自嘲気味に笑った。

「私、本当に得意なことって、FPSのゲームくらいしかないし。でも、そればっかり配信するのもどうかなって思ったりして……」

 その言葉を聞いて、私はハッとした。勝手に、水瀬さんは順風満帆な配信者人生を送っているのだと思っていた。可愛くて、ゲームも上手くて、きっと周りの人たちにも好かれて……

 でも彼女もまた、色々な悩みを抱えているんだ。今まで、どこか遠い存在のように感じていた水瀬さんが、急に身近に感じられた。

 キラキラした配信の裏側には、彼女なりの葛藤や不安があったんだ。私は、勝手に壁を作っていたのかもしれない。もっと、色々な話を聞いてみたいと思った。彼女の抱える悩みや不安、そして彼女が大切にしているものについて。

「そうだったんだね……なんか意外。水瀬さんは、いつも明るくて、誰とでも楽しそうに話しているイメージがあったから」

「そう見える?配信では、頑張って明るく振る舞おうとしている。でも、本当はすごく緊張してるw」

「私。勝手に水瀬さんのことすごい人だと思ってた。可愛くてゲームも上手で、たくさんのファンがいて……しかもスカウトされたんでしょ?正直、違う世界の人だって思ってたんだよね」

 私は、自分の心の中にあった壁のようなものを、正直に打ち明けた。同期なのに、同い年なのに、なぜかずっと遠い存在のように感じていたから。

「え……そうだったの?」

「うん。だから、今日こうして二人でご飯に来られたことが、なんだかまだ信じられないw」

 私は照れ隠しのように、目の前で焼けているお肉をひっくり返した。

「でも、今日こうして話せて、水瀬さんも色々なことで悩んだりするんだって知って……なんだかすごく安心した。私も、配信で上手く話せなかったり、コメントを気にしすぎたりすることがあるし……変なドジやらかすし」

 自分の情けない部分をさらけ出すのは、少し恥ずかしかったけれど、水瀬さんの素直な言葉を聞いていたら、私も飾らずに話してみたくなった。完璧に見える彼女も、私と同じように悩んでいるのだと思ったら、急に親近感が湧いてきた。

「相馬さんもそうなんだね……なんか嬉しいかも。私だけじゃないんだって思えて」

 水瀬さんの表情が少し明るくなったように見えた。その笑顔を見て、私も心が温かくなった。でもその裏には、色々な苦労や努力があるんだなと改めて感じた。勝手に手の届かない存在だと決めつけていた自分が少し恥ずかしい。

「それに……」

「ん?」

「私……ずっと相馬さんと仲良くなりたいって思ってた。ほら……同期で同い年だし。他の同期とは少し違うし……でもなかなか話す勇気がなくて……」

「水瀬さん……」

「だから今日連絡が来て、本当にビックリした。でも……この機会に仲良くなれたらって、少し嬉しくなった。ごめん。なんか勝手に壁を作ってたのは私の方かもw」

 勝手に壁を作っていたのは、私だけじゃなかったのかもしれない。お互いに、見えない何かを感じ取って少しだけ距離を置いていたのかもしれない。

「そうだ!あの……よかったらさ、私の悩みも聞いてもらえない?」

「もちろん。相馬さんの悩みか……いいよ」

「いっぱいあるんだけどさw」

「なんかわかるかもw」

 美味しいお肉を囲みながら、私たちはそれぞれの胸に抱える想いをゆっくりと語り始めた。今まで感じていた距離が少しずつ縮まっていくのを感じながら。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...