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750回記念SS 『海と魔女の絆星』(中編)
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750回記念SS 『海と魔女の絆星』(中編)
玄関のチャイムが鳴ったのは水瀬さんの言葉通り、1時間ほど経った頃だった。心臓がトクトクと音を立てる。深呼吸を一つして、ドアを開けた。
「こんにちは」
「あ。こんにちは、水瀬さん来てくれてありがとう」
同期で顔を合わせたこともあるはずなのに、どこか照れくさくて、顔が熱くなるのを感じた。
「気にしないで大丈夫」
「あ、上がって」
水瀬さんは私の部屋へと足を踏み入れた。少しだけ緊張した空気が流れたけれど、その空気はどこか温かく、希望に満ちているような気がした。まさかパソコンのトラブルがきっかけで、こんな風に水瀬さんと直接会って話すことになるなんて想像もしていなかった。
慌てて片付けはしたものの、普段使いの生活感は隠しきれていない。床には脱ぎっぱなしの服が転がっているし、テーブルの上には読みかけの漫画や使いかけのコスメ用品が散らばっている。
「ごめん、片付けたんだけど、ちょっと散らかってて……」
思わず申し訳なさそうにそう言うと、水瀬さんは部屋の中をゆっくりと見回し、少しだけ目を丸くした。
「え……うん、少しね」
その正直すぎる言葉に、私は思わず顔が赤くなった。慌てて床の服を拾い上げ丸めて隅に押しやる。テーブルの上の物をとりあえず棚の上に積み上げた。
「普段、こんなんじゃないんだけどね!あはは」
「大丈夫だよ。私も人のこと言えないし。気にしないで。早くパソコン見ようか」
水瀬さんの落ち着いた声が、私の不安を少しずつ和らげていく。この人に頼ればきっと大丈夫。そう思える不思議な安心感が、私の胸の中にじんわりと広がっていった。
水瀬さんは私の説明を聞きながら、丁寧にパソコンのケーブルを一本一本確認していく。その手つきは慣れていて迷いがない。私は、その様子をただ見守ることしかできなかった。
「うーん……モニターとの接続は問題なさそうだね。本体の電源ランプは点いてる?」
水瀬さんの問いかけに、私は慌ててパソコン本体を確認する。小さな緑色のランプがいつも通り点滅している。
「うん、点いてる」
「じゃあ、グラフィックボードかな……」
水瀬さんはそう呟きながら、パソコンの裏側にある接続端子をじっくりと観察し始めた。
「ちょっと、このケーブルを抜いてみてもいいかな?」
水瀬さんが指したのは、モニターと本体を繋ぐいつも使っているHDMIケーブルとは違う少し太いケーブルだった。そのままそのケーブルをそっと引き抜く。
「これって、普段使ってる?」
「ううん。これは……前に別のモニターを繋いでた時のケーブルかもしれない」
「なるほどね……ここおさえてるから、こっちの普段使ってるHDMIケーブルを、違う端子に挿してみてもらえる?」
言われた通りに、HDMIケーブルを別の端子に挿し直してみる。そして息を潜めて電源ボタンを押した。沈黙が数秒続いた後、信じられないことに、真っ暗だったモニターの画面が、ぼんやりと光り始めた。そしてお馴染みのデスクトップ画面がゆっくりと現れたのだ。
「え……!」
思わず驚きの声を上げてしまった。まさかこんなにあっさりと直ってしまうなんて。
「あ……映った!」
隣で画面を見守っていた水瀬さんも、小さく微笑んだ。
「良かった~」
「接触不良だったみたいだね。使ってないケーブルが何かの拍子に干渉してたのかも」
「すごい……!ありがとう水瀬さん!」
「どういたしまして。でも念のため、再起動とかも試してみて。また同じ症状が出たら、今度は運営さんに詳しく見てもらった方がいいかもしれないね」
「うん。本当に助かったよ~あの……もしよかったら、何かお礼したい!この後、ご飯でもどうかな?」
水瀬さんは、少しだけ考え込む仕草を見せた。その横顔は、窓から差し込む午後の柔らかな光に照らされ、どこか知的な雰囲気を漂わせている。彼女の瞳の奥では、何かを思案する光が揺らめいているようだった。
私の心臓は、また少しドキドキし始めた。まさか断られるだろうかという不安と、もし一緒にご飯に行けるならどんな話ができるだろうかという期待が入り混じっていた。緊張で上手く話せないかもしれないけれど、それでも、水瀬さんのことをもっと知りたいという気持ちが胸いっぱいに広がっていく。
「じゃあ……行こうかな」
「え……?……本当にいいの?」
「うん。相馬さんがそんなに感謝してくれるなら。それに……私も、相馬さんともっと話してみたいと思ってたし……」
水瀬さんはそう言いながら、私の目を一瞬だけ見てすぐに逸らした。その白い頬がほんのりと桜色に染まっている。可愛い人だな……イメージと違うかも。
「じゃあ準備しないと!あ。化粧してもいい?」
「そんなに焦らなくても大丈夫だよ」
そして準備をして、夕暮れ時、私たちは駅前の焼肉屋さんへと向かった。空はオレンジと紫のグラデーションに染まり始め、一日の終わりを告げている。行き交う人々も、どこか家路を急ぐ足取りだ。
駅から少し歩いた路地に、目的の焼肉屋さんはひっそりと佇んでいた。温かい光が漏れる格子戸をくぐると、店員さんの元気な「いらっしゃいませ!」という声が響いた。
案内されたのは、落ち着いた雰囲気の個室だった。木の温もりが感じられる空間で、二人だけの時間を過ごせることに、少しだけ心が躍る。テーブルの中央には、まだ火の入っていない七輪が置かれている。個室の柔らかな照明が水瀬さんの横顔を優しく照らした。彼女は少し緊張した面持ちでメニューを開いている。
「わあ、美味しそうだね……」
水瀬さんの小さな呟きが、静かな個室に響いた。私もメニューに目を落とす。色とりどりのお肉の写真が食欲をそそる。
そして注文をし、七輪の炭が赤々と燃え始め、店員さんがお肉の盛り合わせと野菜、飲み物を運んできてくれた。テーブルの上はたちまち美味しそうな匂いで満たされる。
「すごいね!」
「うん」
「美味しそう~!じゃあ、早速焼いていこうか」
トングでお肉を七輪に乗せた。ジュージューという音とともに、香ばしい匂いが立ち上り私たちの食欲を刺激する。最初の一切れが焼き上がり、二人でそれを口にした。とろけるようなお肉の甘みと、香ばしいタレの風味が口いっぱいに広がり、思わず顔を見合わせて微笑んだ。
「美味しい!」
「ほんと、美味しいね!」
美味しい食事のおかげか、さっきまでの緊張が少し和らいできたように感じた。他愛ない話をしながら、私たちは次々にお肉を焼いては食べた。
そんな中、水瀬さんがふと少しだけ声を落として言った。
「あの……相馬さんに、少しだけ話してもいい?」
「もちろん、どうしたの?」
「配信のことなんだけどさ、実は……私、雑談の配信がすごく苦手なんだよね」
「雑談配信、苦手なの?」
意外だった。配信で、明るく楽しそうに話しているイメージがあったから。もちろんゲーム配信の時もきちんと話しているし。
「うん……どうしても、何を話せばいいのか分からなくなっちゃって。それに、コメントとかもすごく気にしちゃうし、『つまらない』とか書かれると、すごく落ち込んじゃって……」
「色々気にしちゃう性格なんだ?」
「そうなんだよね……どうしても、周りの目が気になっちゃって。うまく自分を出せないというか……」
そう言って、水瀬さんは少し自嘲気味に笑った。
「私、本当に得意なことって、FPSのゲームくらいしかないし。でも、そればっかり配信するのもどうかなって思ったりして……」
その言葉を聞いて、私はハッとした。勝手に、水瀬さんは順風満帆な配信者人生を送っているのだと思っていた。可愛くて、ゲームも上手くて、きっと周りの人たちにも好かれて……
でも彼女もまた、色々な悩みを抱えているんだ。今まで、どこか遠い存在のように感じていた水瀬さんが、急に身近に感じられた。
キラキラした配信の裏側には、彼女なりの葛藤や不安があったんだ。私は、勝手に壁を作っていたのかもしれない。もっと、色々な話を聞いてみたいと思った。彼女の抱える悩みや不安、そして彼女が大切にしているものについて。
「そうだったんだね……なんか意外。水瀬さんは、いつも明るくて、誰とでも楽しそうに話しているイメージがあったから」
「そう見える?配信では、頑張って明るく振る舞おうとしている。でも、本当はすごく緊張してるw」
「私。勝手に水瀬さんのことすごい人だと思ってた。可愛くてゲームも上手で、たくさんのファンがいて……しかもスカウトされたんでしょ?正直、違う世界の人だって思ってたんだよね」
私は、自分の心の中にあった壁のようなものを、正直に打ち明けた。同期なのに、同い年なのに、なぜかずっと遠い存在のように感じていたから。
「え……そうだったの?」
「うん。だから、今日こうして二人でご飯に来られたことが、なんだかまだ信じられないw」
私は照れ隠しのように、目の前で焼けているお肉をひっくり返した。
「でも、今日こうして話せて、水瀬さんも色々なことで悩んだりするんだって知って……なんだかすごく安心した。私も、配信で上手く話せなかったり、コメントを気にしすぎたりすることがあるし……変なドジやらかすし」
自分の情けない部分をさらけ出すのは、少し恥ずかしかったけれど、水瀬さんの素直な言葉を聞いていたら、私も飾らずに話してみたくなった。完璧に見える彼女も、私と同じように悩んでいるのだと思ったら、急に親近感が湧いてきた。
「相馬さんもそうなんだね……なんか嬉しいかも。私だけじゃないんだって思えて」
水瀬さんの表情が少し明るくなったように見えた。その笑顔を見て、私も心が温かくなった。でもその裏には、色々な苦労や努力があるんだなと改めて感じた。勝手に手の届かない存在だと決めつけていた自分が少し恥ずかしい。
「それに……」
「ん?」
「私……ずっと相馬さんと仲良くなりたいって思ってた。ほら……同期で同い年だし。他の同期とは少し違うし……でもなかなか話す勇気がなくて……」
「水瀬さん……」
「だから今日連絡が来て、本当にビックリした。でも……この機会に仲良くなれたらって、少し嬉しくなった。ごめん。なんか勝手に壁を作ってたのは私の方かもw」
勝手に壁を作っていたのは、私だけじゃなかったのかもしれない。お互いに、見えない何かを感じ取って少しだけ距離を置いていたのかもしれない。
「そうだ!あの……よかったらさ、私の悩みも聞いてもらえない?」
「もちろん。相馬さんの悩みか……いいよ」
「いっぱいあるんだけどさw」
「なんかわかるかもw」
美味しいお肉を囲みながら、私たちはそれぞれの胸に抱える想いをゆっくりと語り始めた。今まで感じていた距離が少しずつ縮まっていくのを感じながら。
玄関のチャイムが鳴ったのは水瀬さんの言葉通り、1時間ほど経った頃だった。心臓がトクトクと音を立てる。深呼吸を一つして、ドアを開けた。
「こんにちは」
「あ。こんにちは、水瀬さん来てくれてありがとう」
同期で顔を合わせたこともあるはずなのに、どこか照れくさくて、顔が熱くなるのを感じた。
「気にしないで大丈夫」
「あ、上がって」
水瀬さんは私の部屋へと足を踏み入れた。少しだけ緊張した空気が流れたけれど、その空気はどこか温かく、希望に満ちているような気がした。まさかパソコンのトラブルがきっかけで、こんな風に水瀬さんと直接会って話すことになるなんて想像もしていなかった。
慌てて片付けはしたものの、普段使いの生活感は隠しきれていない。床には脱ぎっぱなしの服が転がっているし、テーブルの上には読みかけの漫画や使いかけのコスメ用品が散らばっている。
「ごめん、片付けたんだけど、ちょっと散らかってて……」
思わず申し訳なさそうにそう言うと、水瀬さんは部屋の中をゆっくりと見回し、少しだけ目を丸くした。
「え……うん、少しね」
その正直すぎる言葉に、私は思わず顔が赤くなった。慌てて床の服を拾い上げ丸めて隅に押しやる。テーブルの上の物をとりあえず棚の上に積み上げた。
「普段、こんなんじゃないんだけどね!あはは」
「大丈夫だよ。私も人のこと言えないし。気にしないで。早くパソコン見ようか」
水瀬さんの落ち着いた声が、私の不安を少しずつ和らげていく。この人に頼ればきっと大丈夫。そう思える不思議な安心感が、私の胸の中にじんわりと広がっていった。
水瀬さんは私の説明を聞きながら、丁寧にパソコンのケーブルを一本一本確認していく。その手つきは慣れていて迷いがない。私は、その様子をただ見守ることしかできなかった。
「うーん……モニターとの接続は問題なさそうだね。本体の電源ランプは点いてる?」
水瀬さんの問いかけに、私は慌ててパソコン本体を確認する。小さな緑色のランプがいつも通り点滅している。
「うん、点いてる」
「じゃあ、グラフィックボードかな……」
水瀬さんはそう呟きながら、パソコンの裏側にある接続端子をじっくりと観察し始めた。
「ちょっと、このケーブルを抜いてみてもいいかな?」
水瀬さんが指したのは、モニターと本体を繋ぐいつも使っているHDMIケーブルとは違う少し太いケーブルだった。そのままそのケーブルをそっと引き抜く。
「これって、普段使ってる?」
「ううん。これは……前に別のモニターを繋いでた時のケーブルかもしれない」
「なるほどね……ここおさえてるから、こっちの普段使ってるHDMIケーブルを、違う端子に挿してみてもらえる?」
言われた通りに、HDMIケーブルを別の端子に挿し直してみる。そして息を潜めて電源ボタンを押した。沈黙が数秒続いた後、信じられないことに、真っ暗だったモニターの画面が、ぼんやりと光り始めた。そしてお馴染みのデスクトップ画面がゆっくりと現れたのだ。
「え……!」
思わず驚きの声を上げてしまった。まさかこんなにあっさりと直ってしまうなんて。
「あ……映った!」
隣で画面を見守っていた水瀬さんも、小さく微笑んだ。
「良かった~」
「接触不良だったみたいだね。使ってないケーブルが何かの拍子に干渉してたのかも」
「すごい……!ありがとう水瀬さん!」
「どういたしまして。でも念のため、再起動とかも試してみて。また同じ症状が出たら、今度は運営さんに詳しく見てもらった方がいいかもしれないね」
「うん。本当に助かったよ~あの……もしよかったら、何かお礼したい!この後、ご飯でもどうかな?」
水瀬さんは、少しだけ考え込む仕草を見せた。その横顔は、窓から差し込む午後の柔らかな光に照らされ、どこか知的な雰囲気を漂わせている。彼女の瞳の奥では、何かを思案する光が揺らめいているようだった。
私の心臓は、また少しドキドキし始めた。まさか断られるだろうかという不安と、もし一緒にご飯に行けるならどんな話ができるだろうかという期待が入り混じっていた。緊張で上手く話せないかもしれないけれど、それでも、水瀬さんのことをもっと知りたいという気持ちが胸いっぱいに広がっていく。
「じゃあ……行こうかな」
「え……?……本当にいいの?」
「うん。相馬さんがそんなに感謝してくれるなら。それに……私も、相馬さんともっと話してみたいと思ってたし……」
水瀬さんはそう言いながら、私の目を一瞬だけ見てすぐに逸らした。その白い頬がほんのりと桜色に染まっている。可愛い人だな……イメージと違うかも。
「じゃあ準備しないと!あ。化粧してもいい?」
「そんなに焦らなくても大丈夫だよ」
そして準備をして、夕暮れ時、私たちは駅前の焼肉屋さんへと向かった。空はオレンジと紫のグラデーションに染まり始め、一日の終わりを告げている。行き交う人々も、どこか家路を急ぐ足取りだ。
駅から少し歩いた路地に、目的の焼肉屋さんはひっそりと佇んでいた。温かい光が漏れる格子戸をくぐると、店員さんの元気な「いらっしゃいませ!」という声が響いた。
案内されたのは、落ち着いた雰囲気の個室だった。木の温もりが感じられる空間で、二人だけの時間を過ごせることに、少しだけ心が躍る。テーブルの中央には、まだ火の入っていない七輪が置かれている。個室の柔らかな照明が水瀬さんの横顔を優しく照らした。彼女は少し緊張した面持ちでメニューを開いている。
「わあ、美味しそうだね……」
水瀬さんの小さな呟きが、静かな個室に響いた。私もメニューに目を落とす。色とりどりのお肉の写真が食欲をそそる。
そして注文をし、七輪の炭が赤々と燃え始め、店員さんがお肉の盛り合わせと野菜、飲み物を運んできてくれた。テーブルの上はたちまち美味しそうな匂いで満たされる。
「すごいね!」
「うん」
「美味しそう~!じゃあ、早速焼いていこうか」
トングでお肉を七輪に乗せた。ジュージューという音とともに、香ばしい匂いが立ち上り私たちの食欲を刺激する。最初の一切れが焼き上がり、二人でそれを口にした。とろけるようなお肉の甘みと、香ばしいタレの風味が口いっぱいに広がり、思わず顔を見合わせて微笑んだ。
「美味しい!」
「ほんと、美味しいね!」
美味しい食事のおかげか、さっきまでの緊張が少し和らいできたように感じた。他愛ない話をしながら、私たちは次々にお肉を焼いては食べた。
そんな中、水瀬さんがふと少しだけ声を落として言った。
「あの……相馬さんに、少しだけ話してもいい?」
「もちろん、どうしたの?」
「配信のことなんだけどさ、実は……私、雑談の配信がすごく苦手なんだよね」
「雑談配信、苦手なの?」
意外だった。配信で、明るく楽しそうに話しているイメージがあったから。もちろんゲーム配信の時もきちんと話しているし。
「うん……どうしても、何を話せばいいのか分からなくなっちゃって。それに、コメントとかもすごく気にしちゃうし、『つまらない』とか書かれると、すごく落ち込んじゃって……」
「色々気にしちゃう性格なんだ?」
「そうなんだよね……どうしても、周りの目が気になっちゃって。うまく自分を出せないというか……」
そう言って、水瀬さんは少し自嘲気味に笑った。
「私、本当に得意なことって、FPSのゲームくらいしかないし。でも、そればっかり配信するのもどうかなって思ったりして……」
その言葉を聞いて、私はハッとした。勝手に、水瀬さんは順風満帆な配信者人生を送っているのだと思っていた。可愛くて、ゲームも上手くて、きっと周りの人たちにも好かれて……
でも彼女もまた、色々な悩みを抱えているんだ。今まで、どこか遠い存在のように感じていた水瀬さんが、急に身近に感じられた。
キラキラした配信の裏側には、彼女なりの葛藤や不安があったんだ。私は、勝手に壁を作っていたのかもしれない。もっと、色々な話を聞いてみたいと思った。彼女の抱える悩みや不安、そして彼女が大切にしているものについて。
「そうだったんだね……なんか意外。水瀬さんは、いつも明るくて、誰とでも楽しそうに話しているイメージがあったから」
「そう見える?配信では、頑張って明るく振る舞おうとしている。でも、本当はすごく緊張してるw」
「私。勝手に水瀬さんのことすごい人だと思ってた。可愛くてゲームも上手で、たくさんのファンがいて……しかもスカウトされたんでしょ?正直、違う世界の人だって思ってたんだよね」
私は、自分の心の中にあった壁のようなものを、正直に打ち明けた。同期なのに、同い年なのに、なぜかずっと遠い存在のように感じていたから。
「え……そうだったの?」
「うん。だから、今日こうして二人でご飯に来られたことが、なんだかまだ信じられないw」
私は照れ隠しのように、目の前で焼けているお肉をひっくり返した。
「でも、今日こうして話せて、水瀬さんも色々なことで悩んだりするんだって知って……なんだかすごく安心した。私も、配信で上手く話せなかったり、コメントを気にしすぎたりすることがあるし……変なドジやらかすし」
自分の情けない部分をさらけ出すのは、少し恥ずかしかったけれど、水瀬さんの素直な言葉を聞いていたら、私も飾らずに話してみたくなった。完璧に見える彼女も、私と同じように悩んでいるのだと思ったら、急に親近感が湧いてきた。
「相馬さんもそうなんだね……なんか嬉しいかも。私だけじゃないんだって思えて」
水瀬さんの表情が少し明るくなったように見えた。その笑顔を見て、私も心が温かくなった。でもその裏には、色々な苦労や努力があるんだなと改めて感じた。勝手に手の届かない存在だと決めつけていた自分が少し恥ずかしい。
「それに……」
「ん?」
「私……ずっと相馬さんと仲良くなりたいって思ってた。ほら……同期で同い年だし。他の同期とは少し違うし……でもなかなか話す勇気がなくて……」
「水瀬さん……」
「だから今日連絡が来て、本当にビックリした。でも……この機会に仲良くなれたらって、少し嬉しくなった。ごめん。なんか勝手に壁を作ってたのは私の方かもw」
勝手に壁を作っていたのは、私だけじゃなかったのかもしれない。お互いに、見えない何かを感じ取って少しだけ距離を置いていたのかもしれない。
「そうだ!あの……よかったらさ、私の悩みも聞いてもらえない?」
「もちろん。相馬さんの悩みか……いいよ」
「いっぱいあるんだけどさw」
「なんかわかるかもw」
美味しいお肉を囲みながら、私たちはそれぞれの胸に抱える想いをゆっくりと語り始めた。今まで感じていた距離が少しずつ縮まっていくのを感じながら。
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