元旅人の王宮騎士

矢崎未峻

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 アリシアの部屋に入ると、王子が居た。
 こんなことしてる場合じゃない筈なんだけど?ってそうか、そういう事ね。

「王子、アリシアの護衛ありがとうございました」

「気付くの早くない?」

「いやいや、本来貴方は今ここにいる場合じゃないでしょ?流石に気付きますよ」

「言われてみれば確かに。それよりユーゼン、そろそろ今日の仕事は終わりの時間じゃ無いか?」

 え、うそ。そんな時間!?・・・あ、ほんとだ。もうそろそろ終わりの時間だ。
 って言ってもな~。

「そうですけど、まだ時間ありますから。そんなことより自分の心配して下さい」

「へいへい。また後でね、アリシア」

「うん。頑張ってね」

 後ろ手にひらひら手を振って出て行く王子を見守って、不機嫌全開のアリシアに向き直る。

「ただいま」

「ん、おかえり」

「ごめんな、今日は思ったより側に居れなかった」

「大丈夫、仕方ないよ。色々起こったもん」

 不機嫌だ。てかすごい拗ねてる。
 う~ん、俺の立場的にこれは絶対まずいよなぁ・・・えぇい、もういい。
 色々考えた結果、今更過ぎる気がしたので開き直ってアリシアの頭を撫でた。
 ゆっくり丁寧に。優しく。
 王族に対する評価としてはどうかと思うが、犬や猫のように目を細めて気持ち良さげな顔をしてるな。
 しばらく大人しく撫でられていたかと思えば、俺の服の裾を握って俯いてしまった。

「どうした?」

「ううん、何でもない。ただちょっと、明日が憂鬱になっただけ」

「明日?なんで?」

「だってほら、護衛が、ね」

「あぁ、なるほど。明日からはまた副団長に戻るもんな」

「うん」

 相当嫌われてんなあの人。まあ俺も嫌いだけども。
 ただこれについてはあまり心配は要らないんじゃ無いだろうか。

「でもさ、数日もすればまた俺が護衛になるじゃん」

 というわけだ。数日後にはユリシスが来るからな。
 そうなれば滞在期間中は俺が護衛だ。

「その数日が憂鬱だよ~」

「んな情けない声出すなよ。どうすりゃいいかわかんなくなるだろ」

「だって~」

「団長が気を利かせてくれる事を祈るしか無いな」

「あ!私が頼めば良いんだよ!」

「やめてあげてくれ。今日の騒ぎで絶対忙しいから」

「うぅ~」

 頬を膨らませてもダメです。上目遣いで見つめてもダメです。
 自分の事はともかく、さすがに団長に迷惑かけるような要求は首を縦に振るわけにはいかない。

「じゃあこうしよう。明日の護衛が予定通り副団長だったら、仕事が終わってからここに会いに来る。もちろん国王に許可はもらってからになるけど。どうだ?」

「・・・分かった。お父様には私から言っておく」

 あ、ごめんなさい国王様。ご迷惑おかけする事になりそうです。
 説得という名の脅迫紛いをするつもりなのだろうアリシアの顔を見て、妥協案としては失敗だったと後悔した。
 いつか国王には土下座しよう。

「よし、そんじゃ俺は今日終わりだから後は世話係を呼んでくれ。また明日な、アリシア」

「うん、また明日ね」

 ちょっと不満げな雰囲気ではあるが、こればっかりはどうしようも無いので部屋を出た後処理等を終えて王宮を後にする。
 いつもなら寮に帰るところだが、今日は城下町に行かなければいけない。

 懇意にしている酒場に入ると賑やかな喧騒と共に見慣れた服を着た連中が目に入った。
 そう、昼間の飯を奢るという約束のためこうして足を運んだのだ。

「よお、やっぱりここだったか」

「やや!ユーゼンどのじゃあないれすか!ようやく来たんれすね!」

 こいつ、出来上がってやがる!というか目の前の騎士長含め、ほんとんどのやつが相当飲んでやがる。
 これ、支払いいくらになるかな・・・。
 懐事情としてはどんな金額になっても余裕で払えるだけの余裕はあるが、さすがにちょっと怖さはある。
 俺も一杯貰いながら酒場のマスターに現状幾らか聞いたら、普段ここで払う金額の50倍ほどだと言われた。
 冗談かと思ったが、人数が人数なので納得の値段だった。いや、寧ろ安いとさえ言える金額だ。

「安くないですか?」

「懇意にしてくださってるので、ささやかなお礼でございます」

「そりゃどうも。相変わらず商売上手っすね」

「お褒めに預かり光栄です」

 全く、これじゃ他の酒場に行きにくいじゃないか。
 行く気なんて無いが。
 そのままなんだかんだ流れに身を任せていたら結構な量飲んでしまったので、ほどほどにして解散にした。
 去り際にまた奢ってくれとせがまれたが、気が向いたらなどと言って適当に流しておいた。
 2軒目以降は奢るつもりはないと言ったら大ブーイングを受けたのは余談だ。
 久しぶりに飲んだので結構酔いが回っている中、若干ふらつきながらも寮の自分の部屋にたどり着いた。
 今日はそれが限界でそのままベッドに倒れ込んで、泥のように眠った。
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