元旅人の王宮騎士

矢崎未峻

文字の大きさ
12 / 18

11

しおりを挟む
 あー二日酔いじゃなくて良かった。
 最近にしては結構飲んだからちょっと心配だったけど、杞憂に終わったらしく朝から胸を撫で下ろした。
 ってあれ?うそ!寝坊した!?
 酒の力は怖いもので、昨日の疲れも相まって爆睡してしまい、すっかり寝坊してしまった。
 とはいえまだ急げば間に合うくらいの時間は残されているのでいつもならゆっくり準備するところを、かなり急いで準備してから部屋を出た。
 うへぇギリギリだ。ちょっと走らないと間に合わねーかも。

 結局、少しだけ走って間に合わせた。
 今日は事務仕事がある日なので自分の机に行くと、いつものごとく周りとは倍ほども量の多い書類が。
 淡々と処理をして団長の所に持っていく。

「団長、書類おいときますね」

「おう。ユーゼン、これ」

「?・・・ありがとうございます」

 数日後のユリシス来国時の大まかな予定が書かれた書類を渡された。
 これは多分あれだな。この予定から大きく外れた行動があれば要警戒ってやつだ。いや、もうほんとに、過保護。
 流し読みしながら机に戻ると、当たり前のように書類の山が。
 もはや慣れたもので、サッと処理して団長のところに持っていった。
 机に戻って、改めて渡された書類を熟読し、頭に叩き込む。

「ユーゼン、おはよう。今、グレン呼んで大丈夫?」

「サラさん。おはようございます。今はちょっと、大丈夫じゃないと思います」

「みたいね。あの書類の量はおかしいわ。・・・あの老害共が」

 最後の一言は聞かなかった事にします。

「急ぎの用事ですか?」

「んー、そうでもないかな。ただちょっと、久しぶりに、ね」

 あーなるほど。ちゃんと団長と話したいのね。痴話喧嘩じゃなくて。
 しょうがない、ちょっと助け舟出すか。

「団長、ちょっと休憩したらどうです?」

「ん?いや、まだいい。全部片付けちまいたい」

「ダメですよ。そんな事したら倒れますよ?どうせ急ぎの書類は終わってるんでしょう?」

「・・・分かった。少しだけ休憩する。って、サラじゃねーか。どうした?何かあったか」

「ああ、いや、そう言うわけじゃないんだけど、その・・・久しぶりにゆっくり話したくて」

 あ、これ団長負けるやつだ。いや、分かるよ。分かる。だってズルイじゃん、今のサラさん。
 ていうかそもそも団長自身、サラさんと話したかったっぽいよね。満更でもないどころかウェルカムな感じだ。
 なんていうか、見てられないな。こっちが恥ずかしくなってくるわ。

「サラ。今日、飯でも行くか」

「うん。ごめん、疲れてるのに」

「お互い様だ。仕事終わったら迎えに行く」

「分かった。待ってる」

 あからさまに嬉しそうな顔だな、2人とも。
 あーあ、休ませるつもりが焚きつける結果になっちゃった。
 サラさんが立ち去った後間も無く、仕事に戻った団長は、鬼気迫る様子で爆速で書類の山を片付け始めた。
 過去一早いな。
 ひらひらと1枚こちらに飛んできた処理済みの書類を見てみると、ミス一つない完璧な処理がされていた。
 その書類を持って行ったついでに他の書類も確認したら、いつもなら必ずと言っていいほどやらかすミスも無く、処理スピードからは考えられない程の正確さを誇っていた。
 これで団長は無自覚なんだから怖いよな。
 さて、本当はあまり良くないけど、団長を手伝うか。流石にこのペースでやり続けたらサラさんとご飯行く前に倒れる。
 団長が処理した書類を確認、分類、整理、手が空けば団長より先に書類を再確認、ミスがあれば直して団長に。このサイクルを繰り返すこと2、3時間。

「終わった、よな」

「はい、終わりです。お疲れ様でした」

「おう、お前もお疲れさん。サンキューな。マジで助かったわ」

「団長に死なれたら困るので」

「今回は洒落にならない量だったからなあ。否定はしない」

「「・・・ははははは」」

 お互い引きつった顔で、乾いた笑しか出てこなかった。
 それもしょうがない事だ。本来なら数ヶ月分ほどもある書類の山を数時間で片付けたのだから。
 この国の唯一悪い所はこれだよな。って言っても、働いてる側じゃないと分からない事だけど。
 こういった書類処理は各団に割り振られるものなのだが、老が、上役共の機嫌によって割り振られる割合が変わるのだ。
 そのため、昨日の出来事は全面的にうちの団に非があるとされたらしく、書類が大量に舞い込んできたのだ。
 それと、いつもならこういう時俺じゃなくサラさんが手を出してる事を考えると、恐らくサラさんの所にも大量の書類が割り振られているのだろう。
 ちょっと、流石に腹立つよな。アリシアに、いや、王子に言ってみるか。
 あともう一つ腹立つのが、副団長だよ。あいつなんで事務仕事一切やらねーんだよ!副団長は事務仕事免除なんて決まりねーんだよ!ふざけんな!

「団長、疲れてるとこ悪いんすけど良いですか?」

「なんだ?頭痛くならない内容にしてくれよ」

 すみません、それはちょっと無理かな。

「副団長ってなんで事務仕事しないんすか?」

「・・・からだよ」

「え?嘘ですよね?聞き間違いの可能性があるのでもう一回良いですか?」

 今とんでもない回答が聞こえた気がしたんだけど?

「出来ないからだよ。事務仕事が一切。オリバーより出来ねー」

 なん、だと。オリバーより出来ない?嘘だろ?それは最早何も出来ないと同義じゃないか。

「副団長って、なんで副団長何ですか?」

「老害共がそう仕立て上げたんだよ。あいつ、王宮剣術だけは出来るからな。それに人事に関して、国王はほとんど手を出せない」

 おいおい、いよいよもって上役は何様のつもりだよ。いい加減にしてくれ。振り回される身にもなれってんだ。
 てか、そりゃうちの副団長は無能って言われるよな。老害共が自分たちの都合の良い奴を操りやすい立場に座らせてるだけだからな。
 さて、そろそろ持ち場に行くか。結局団長の手伝いやってたら訓練に参加出来なかったけど、最も心強い証人が居るから難癖は付けられないだろう。
 案の定持ち場に行くと、同僚に訓練サボっただろ、と問い詰められたので団長を手伝ってたと言っておいた。
 そいつも今日は事務仕事がある日だったのであの惨状を知っていた。そのおかげで疑われる事も無かった。
 そういえば、結局アリシアの護衛は副団長だったな~。アリシア、何もされてなきゃ良いけど。
 ・・・あぁ、アリシアに何かしたら副団長の首飛ぶか。物理的に。その報告が無いって事は何もないって事だな。

「暇だな」

「そうだな。ところでユーゼン、魔道師団長殿は何の用だったんだ?」

「あぁ、団長とゆっくり話がしたかっただけらしい。まあ、あの惨状だったから今晩ご飯に行く約束をしてたよ」

「なるほど。相変わらずだな」

「団長の無自覚もな」

「ははは、マジかよ」

「残念ながらマジだ」

 と、いうわけだ。あの2人、うちの団でも魔導師団でも公認の仲なのだが、中々くっつかない。今隣にいる同僚のように、ヤキモキしてる奴も少なくない。
 ま、かくいう俺もあの2人の応援はしてるからな。もう長いことヤキモキしてるわけなんだが。
 もちろん、俺たちみたいに応援するやつが居れば破局しろと願ってる奴らもいる。ちなみに、そいつらは漏れなくサラさんに惚れてる奴らだ。
 一応、そいつらの誰かにサラさんの気が向く可能性なんて、カケラたりともありはしない。とだけ言っておこう。

「やあ、お疲れ様」

「「お疲れ様です!王子!」」

「硬い硬い。もう少し緩く行こうよ」

 こっち向いて言わないで下さい。

「そういうわけには。ところで、何かご用が?」

「あぁ、うん。ちょっとね。困った事が起こったから。ユーゼンに助けてもらおうかと思って」

 まさかとは思うが、アリシア絡みじゃないだろうな。流石に半日で困った事になる想定なんてしてな

「実はアリシアがね」「待って下さい」

 まさかだったか。
 王子にみなまで言うなと視線で訴えかけ、次いで離れて大丈夫か同僚に目で確認を取る。
 いや、頼むからしばらく持ち場を離れさせてくれ、と訴えに近い視線を向けた。
 同僚の反応はというと、軽く笑って肩をすくめてみせた。オッケーらしい。

「悪い。ありがとう」

「代わりに一杯奢ってくれよ?」

「ははは、こいつで勘弁してくれ」

 銀貨を1枚握らせておいた。
 改めて同僚に行ってくることを伝えて、王子と一緒に王宮騎士団の執務室に向かった。
 念のため団長に許可貰っとかないと、後が面倒だからな。
 そう考えて脳裏に浮かんだのは、ことの発端であろう副団長の顔だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

処理中です...