元旅人の王宮騎士

矢崎未峻

文字の大きさ
14 / 18

13

しおりを挟む
 そろそろ触れた方が良いんだろうな。でも怖いから触れたくないんだけど・・・。

「王子、さっきから黙ってますけど、何考えてます?」

「ん?ああ、いや、大したことは考えてないよ」

「その考え、言葉にして下さい」

「ニースをどうやって処ぶ、いや副団長という立場から下ろすか。な、大した事なかったろ?」

 すみません、聞き逃しませんでした。あんた副団長をどう処分するかって怖すぎるだろ!ていうか処分って表現が・・・いやこれ言葉のままか。
 これは放っておくと色々な意味でまずい事態になる事が確定してしまったので、今日中に国王にも話しておく事を決めた。

「とりあえず、考えるだけにして下さい。動かないで下さい。俺が先に動くので、何も変わらなかった時はお願いします。いいですか?」

「いや、僕の妹の事なんだ。ユーゼンに任せる訳には」

「いいですね?」

「・・・分かった」

 これで何とか時間は稼げるだろう。早急に何とかせねば。
 などと思考に夢中になってしまったせいで、王族を脅すようにして黙らせたという事実に、この時は気が付かなかった。
 なお黙らされた本人及びその妹は、そんな扱いを受けるのが新鮮で驚きと同時に、なんだかんだ言いながら対等に居てくれる事を嬉しく思ったそうだ。

「話の腰を折って悪かった。他には何かあるか?」

「えーっと・・・」

コンコン

「王宮騎士団副団長ニース。ただ今戻りました」

「・・・はぁ、入りなさい」

「失礼します」

 態度の違いがすごい。雰囲気の変わりようもすごい。
 あの、帰っていいですか?今すぐにでもこの場から立ち去りたいんですけど。

「団長に確認を取ってきた。忌々しいが、本当の事らしいな。貴様、王女に何かしたら承知せんぞ」

「・・・は」

 それはこっちのセリフです。とかあんたにだけは言われたくない。とか何様のつもりだ。とか色々浮かんだが、全部抑えた。
 余計な波風立て無ければ、それだけ早くこいつはここから消える。
 だから我慢だ。いつものことだろ。

「それでは、私は失礼します。此奴が何かしましたら、私にお知らせください。即座に助けに参ります」

 わざとか?いや、無意識か。何でそう神経を逆撫でするような事ばっかり言うんだよ。いい加減我慢も限界だぞ。あんた王子に感謝しろよ?
 王子が限界だったので、それを抑えるのに必死だった。具体的に何かをした訳では無いが、少しだけ王子と副団長の間に身体を被せて捨て台詞から出ていくまでの間、王子に視線で我慢するように訴え続けた。

「ユーゼン、やっぱりあいつ、ころ「ダメです」

 最後までは言わせねーよ?

「アリシア様、終わりました。如何でしょうか」

 タイミングが良いのか悪いのか、メイドが髪のセットを終えた。
 その発言に導かれるように王子と同時にアリシアに視線を向けた。そして、2人してしばらく時が止まった。
 男2人がフリーズしてる間にもアリシアとメイドのやり取りは続いて、しばらくするとメイドが部屋から出ていった。
 先に時が動き始めたのは、王子だった。

「随分と雰囲気が変わったね、アリシア。とても良く似合っているよ」

「ありがとう、お兄ちゃん」

 歯が浮くようなセリフも、王子が言えば普通に聞こえる。いや、聞く人によっては魅惑の一言に変わる。
 それに普通に答えるアリシアは、そういう言葉に慣れているのだろう。

「ユーゼンもそうは思わないか?」

「え、ああ、そうですね。さっきとは雲泥の差です。慣れたつもりだったけど、久しぶりに見惚れました」

「あ、ありがとう」

 なんでアリシアは顔を赤くしてるんだ?

「ふむ。ユーゼン、君は罪な男だね」

「よく分かんないですけど、王子にだけは言われたくないです」

 それにしても見事だ。アリシアの可愛らしさを残して、美しく綺麗な仕上がりになっている。
 あとでさっきのメイドにお礼をしなければ。

「さて、アリシア。さっき言いかけた事は何だい?」

「え、ああ、もう良いの。2人とも目の当たりにしたと思うから」

「「あれか・・・」」

 目に浮かぶさっきの言動。いやほんとに気持ち悪くて吐き気が。
 そもそもあれは何だ?アリシアを自分のものと信じて疑ってない感じだったぞ。しかもナチュラルにあの言動だろ?なんかもう、なんていうか、言葉で表現しにくい色々な何かが混ざり合った感じだった。
 醸し出す雰囲気のせいかな?態度は見たまんまだし、何考えてるか分かんないし。

「やっぱり、あれはころ「ダメですってば」

「どうしてだい?」

「あんなでも王宮騎士団の副団長なんですよ?それになにより、公爵家の次期当主なんですから」

「つくづく忌々しい生まれだね。ユーゼンと逆なら良かったのに」

「そしたらあの人、きっとここには居ませんよ」

「ははは、違いないね。何処かで野垂れ死ぬのが精々だ」

「さっきからお兄ちゃんにしてはかなり辛辣だね」

 あ、それ突っ込む?
 気持ちがわかるからあえて言わなかったのに。

「当然さ。大事な妹に被害が及んでいるからね。それに、僕だってあれの事が嫌いなんだ」

 幾らか後半の割合が強い気がするが、まあそれは突っ込まないでおこう。
 それにしても、あーもう、せっかく吐き出させた愚痴の意味が無くなったじゃないか!なんならさっきより怒ってるんですけど!?

「だからって、短絡的な行動は控えてくださいよ?それで立場が悪くなるのは王子の方なんですから」

「分かってるさ。頭ではね」

「身体と口にもしっかり言い聞かせといて下さい」

「善処するよ。さて、散々愚痴も言ったしそろそろ責務に戻ることにするよ」

「頑張ってね、お兄ちゃん」

「お疲れ様です。ほどほどに切り上げて休んでくださいね」

「ああ、じゃあね」

 後ろ手にひらりと手を振って去っていく姿は、やはり絵になる光景だった。
 これはお見合いどころじゃ無いな、あの人。まあどうせ、なんだかんだ要領良くこなしてしまうんだろうけど。

「・・・あの、ごめんね」

「なにが?」

「その、半日も耐えられなかったから。迷惑、かけちゃった」

「全然平気。むしろ、珍しく我慢せず人に頼ってくれたから嬉しいよ」

「む、ユーゼンは私を何だと思ってるのよ!?」

「頑固で押しの強いお姫様」

「もう!ユーゼン!」

「でも、本当は気弱で気遣い症で、優しくて可愛い女の子」

「・・・ずるいなぁもう」

「アリシアには言われたく無い。それに、今の言い方は王子の真似だから本当にズルいのは王子だ。ああ、もちろん言った内容は全部本音だぞ」

「やっぱりずるいじゃん」

「ん、なに?なんか言ったか?」

「何でもない」

 何か言った気がしたんだけどな。声が小さくて分かんなかった。まあ何でもないって言うくらいだし、大した内容じゃ無かったんだろ。

「しかし、俺が王子の言い方真似ても様にならないな」

「え、そう?そんな事なかったと思うけど」

「いやいや、あのイケメンが言うのと俺が言うのとじゃ天と地ほどの差があるよ」

「ユーゼンって、客観的目線で見た自分の容姿ちゃんと把握出来てないよね」

「そんなもん分かるわけないだろ」

「だよね、ユーゼンだもんね」

「おっと、どう言う意味かな?」

「ふふ、そのままだよ」

「よし、やっと笑ったな」

「え?」

「アリシアも王子も、ずっと笑わないんだもんな。特にアリシア。いつもは楽しそうに笑ってるだろ?」

 それが今日はどうだ。副団長がいる時は声のトーンが一段下がるし、いつもの優しげな雰囲気が険悪な感じになるし、もちろん表情もいつものそれじゃない。
 良くも悪くも、王女って感じの身の振り方だったよな。外に出てるならともかく、自室ではそんな事しないのに。
 とにかく、それほど酷い状況だったという事だ。

「むぅ、いつもそんなに笑ってないよ」

「嘘つけ。一緒にいる時いつも笑ってるじゃん」

「それはユーゼンが一緒にいるからで、常に笑ってるわけじゃないもん」

「そうか?でも今日は酷かったと思うぞ」

「まあ、そだね。今日はダメだった・・・明日どうしよう」

「ごめん。団長に期待しよう、としか言えない」

「分かってる。もし明日、あの人に戻っても今日よりは頑張る」

 うーん、それはそれで心配になるな。って国王とグレンさんの事過保護だって思ってたけど、これじゃ人のこと言えないな。
 分かっててもやっぱり、過保護になるんだけど。

「無理はするなよ?昨日の約束は明日に回して、ちゃんと会いに来るから」

「ほんと?」

「もちろん」

「やった。頑張るね」

「ほどほどにな。ダメそうなら、今日みたいに呼んでくれ」

「うん。ありがとう」

 いい笑顔だ。やっぱりアリシアにはこれが似合う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

処理中です...