おれより先に死んでください

星寝むぎ

文字の大きさ
6 / 49
恋人カッコカリ

6

しおりを挟む
 悲しいだとか怒りだとか、そういった負の感情を朝陽に抱かせてしまうのが、恭生は昔からとにかく苦手だった。朝陽の目にちょっとでも涙が浮かぼうものなら、慌てふためくのが常だった。

 朝陽の心はいつだって穏やかであってほしい。自分はどうあろうとも。

 だが、なんでもしてあげたくなるのを慌てて制す。朝陽が言うならそうしよう、なんて。簡単に飲める提案ではさすがにない。

「なあ朝陽、オレたちは男同士だぞ」
「うん」
「……それに言ったじゃん、もう付き合うとかこりごりなんだって」
「うん、分かってる」
「…………」

 幼い子に言い含めるかのように話す。だがそんなことは関係ないと言わんばかりに、朝陽は飄々と頷き続ける。本当になにを考えているのだろうか。

 男同士でキスをしている自分を見て、避け始めたのは朝陽なのに。

 ――だからもう二度と、男を好きにはならなかったのに。

 困惑する恭生とは違い、朝陽は至って真剣な顔をしている。からかわれているとはどうも思えない。

 考えこんでいると、朝陽が口を開いた。

「付き合ったらさ、いっぱい会えるじゃん」
「……え?」
「恭兄の仕事が終わった後とか、休みの日とか」

 必死な様子で、縋るような目を向けられる。
 会えないのは寂しいと、確かに言ったけれど。
 だから付き合う?
 やはり、その真意がどうしても見えない。

 付き合う、というのは本来、好き合っている者同士がすることであって。自分たちの間には、恋心なんて片道すらない。ましてや幼なじみとしての絆すら、心許ない細い糸しか残っていないのに。

「……意味分かんねぇ」
「どの辺が?」
「どの辺が、って。だって朝陽、オレのこと嫌いじゃん……」

 自分で放った言葉が、自分の胸に突き刺さる。朝陽の顔を見ているのが怖くて、深く俯く。


「……え? なにそれ、嫌いだなんて思ってない」
「いいよ、嘘なんかつかなくて」
「嘘じゃない。そんな風に思ったこと、一回もない」
「…………」

 怒っているとも取れる表情で、朝陽が強いまなざしを向けてくる。

 嫌いじゃなかった? 本当に?

 一瞬胸が明るくなるが、いやまさかと頭を小さく横に振る。もう何年も嫌われていると思ってきたから、そうすんなりとは飲みこめない。

「でも朝陽、ずっとオレのこと避けてただろ。朝陽が中学生になった夏の……あー、いや」

 思わず口から出てしまったそれを、恭生はすぐに後悔した。出来ることならあの夏のことは、もう朝陽に思い出してほしくなかったからだ。

「それは……」
「オレはさ、朝陽とたくさん会えるんなら、すげー嬉しいよ。でもそんなの、朝陽にはメリットないじゃん」

 なにか言いかけた朝陽を遮る。うっかりすれば泣いてしまいそうで、誤魔化すように捲し立てる。

「あるよ」

 だが朝陽も、負けじと目尻をとがらせる。

「……どんな?」
「それは……内緒」
「は、なんだそれ。朝陽、別に男が好きなわけでもないだろ」
「……うん、そうじゃない」
「だよな」

 話せば話すほど、朝陽が遠くなる。朝陽に寄り添いたいのに、その寄り添うべき心が見えない。

 前髪を握りこみ、ため息として届かないように細く息を吐く。すると、顔を覗きこむようにして名前を呼ばれる。

「ねえ、恭兄」
「……なに?」
「俺と付き合ったら分かる、って言ったら? 恭兄のおじいちゃんが言ってた意味」
「……は?」
「大切な人が先に死んでよかった、がどういうことなのか。俺、分かってると思う」
「は? うそ……」
「ほんと。おじいちゃんに確かめられるわけじゃないから、もちろん憶測ではあるけど。こういう意味だろうな、ってのはある」
「マジ?」
「うん。すごく幸せな意味なんだと思う」
「……んだそれ」
「付き合う理由はそれじゃだめ? 知りたいんだろ、おじいちゃんの気持ち」
「それは……」

 朝陽の真剣な表情に、嘘はひとつも見えない。

 祖父とのあの会話から、もう10年以上経っている。恭生は未だに呪縛のように囚われているというのに、朝陽には意味が分かるというのか。しかも、それを幸せだと呼べるような。

 理解できる糸口が見つかるなんて、考えたこともなかった。知りたい欲求は、抑えようにも溢れ出してくる。

「……朝陽と付き合ったら、オレにも分かるんだ?」
「うん」
「なんで?」
「それも……内緒」
「なんだよそれー……」
「全部種明かししたら、付き合ってもらえなさそうだから」
「…………」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

《完結》僕が天使になるまで

MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。 それは翔太の未来を守るため――。 料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。 遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。 涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。

山法師
BL
 南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。  彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。  そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。 「そーちゃん、キスさせて」  その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。

【完結】エデンの住処

社菘
BL
親の再婚で義兄弟になった弟と、ある日二人で過ちを犯した。 それ以来逃げるように実家を出た椿由利は実家や弟との接触を避けて8年が経ち、モデルとして自立した道を進んでいた。 ある雑誌の専属モデルに抜擢された由利は今をときめく若手の売れっ子カメラマン・YURIと出会い、最悪な過去が蘇る。 『彼』と出会ったことで由利の楽園は脅かされ、地獄へと変わると思ったのだが……。 「兄さん、僕のオメガになって」 由利とYURI、義兄と義弟。 重すぎる義弟の愛に振り回される由利の運命の行く末は―― 執着系義弟α×不憫系義兄α 義弟の愛は、楽園にも似た俺の住処になるのだろうか? ◎表紙は装丁cafe様より︎︎𓂃⟡.·

またのご利用をお待ちしています。

あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。 緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?! ・マッサージ師×客 ・年下敬語攻め ・男前土木作業員受け ・ノリ軽め ※年齢順イメージ 九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮 【登場人物】 ▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻 ・マッサージ店の店長 ・爽やかイケメン ・優しくて低めのセクシーボイス ・良識はある人 ▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受 ・土木作業員 ・敏感体質 ・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ ・性格も見た目も男前 【登場人物(第二弾の人たち)】 ▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻 ・マッサージ店の施術者のひとり。 ・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。 ・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。 ・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。 ▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受 ・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』 ・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。 ・理性が強め。隠れコミュ障。 ・無自覚ドM。乱れるときは乱れる 作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。 徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。 よろしくお願いいたします。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21) ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

処理中です...