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桃色の気配
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得意教科と呼べるものは正直ない。ただ、より苦手なものはある。体育だ。中でもチームスポーツは大の苦手で、気配を消すことがなによりのチームへの貢献だと思っている。
4限目、授業開始から間もなくサッカーの試合がスタートした。クラスメイトたちにはやる気が満ちている。みんなの邪魔をしないために、フィールドの端に身を寄せボールが飛んでこないことを祈る。同じチームになった桃真はそれほど乗り気ではなさそうだけど、パスがたくさん回ってきている。頼りにされているのだ。
桃真を目で追っていると、どうしても昨日のことを思い出してしまう。いや、昨日からずっと、桃真との出来事で頭がいっぱいと言ったほうが正しい。
昨日はコーヒーショップから、急ぎ足で家に帰った。母の「おかえり」への返事もおざなりに自室に駆けこんで、紙袋からカップを取り出した。桃真がペンギンくんを描いて、「ごゆっくり」との吹き出しまでつけてくれたレアものだ。
そのまま飾るか、ペン立てにするか。悩みに悩みまくった。汚れてしまう可能性に思い至り、ペン立ての案は却下した。その代わりに入れてみたのは、ペンギンくんのぬいぐるみだ。桃真が描いたペンギンくんとぬいぐるみが並んで見えるように、位置を丁寧に調節した。
そもそもは単なるコーヒー用のカップでも、オレにとっては初めての推しグッズだ。例えばアイドルを推していたら、ライブグッズなどを購入できたのだろうけど。桃真は一般人だ。ペンギンくんのイラストの写真を撮りためてはいても、実体として手にできると充足感は比べものにならない。
「希色! 危ない!」
「望月!」
「……へ」
突然聞こえてきた自分の名前に、オレはハッと顔を上げた。桃真のことばかり考えて、ぼんやりしていたらしい。でも、もう遅かった。返事をする間もなく、顔に衝撃と痛みが走る。そのまま尻もちをついた。なにが起きたのか分からない。
「痛ったー……」
顔を両手で抑えつつも、指の隙間から転がっていくボールが見えた。ああ、ボールが当たったのか。授業中なのに、どれだけぼんやりしていたのだろう。情けなさに乾いた苦笑を漏らすと、誰かが駆け寄ってきた。
「望月! 平気か!?」
「川合くん?」
聞こえてきたのは川合くんの声だ。
「顔直撃だったよな。見せてみろ」
心配してくれている声と共に、川合くんの手が伸びてくる。
「え……」
その瞬間、反射的に体が強張った。嫌だ、顔を見られたくない。学校で顔を出すのは、どうしても怖い。
つい体をすくめてしまった時、
「川合! 触んな!」
との大きな声が響いた。桃真だ。川合くんの手首を掴み、オレから引き離す。
「はっ? 土屋お前なに……」
「希色、立てるか? 保健室行こ」
川合くんの言葉を遮って、桃真が手を差し出してきた。
「う、うん」
試合が中断し、注目の的になっていることが居た堪れない。そこに追い打ちをかけるように、
「えー! 土屋が行ったら負けんじゃん!」
「付き添わなくてもひとりでも行けるんじゃない?」
との声が上がってくる。そうだよな、桃真は大活躍していたし、いなくなったら盛り下がるもんな。申し訳なさに苛まれる。
4限目、授業開始から間もなくサッカーの試合がスタートした。クラスメイトたちにはやる気が満ちている。みんなの邪魔をしないために、フィールドの端に身を寄せボールが飛んでこないことを祈る。同じチームになった桃真はそれほど乗り気ではなさそうだけど、パスがたくさん回ってきている。頼りにされているのだ。
桃真を目で追っていると、どうしても昨日のことを思い出してしまう。いや、昨日からずっと、桃真との出来事で頭がいっぱいと言ったほうが正しい。
昨日はコーヒーショップから、急ぎ足で家に帰った。母の「おかえり」への返事もおざなりに自室に駆けこんで、紙袋からカップを取り出した。桃真がペンギンくんを描いて、「ごゆっくり」との吹き出しまでつけてくれたレアものだ。
そのまま飾るか、ペン立てにするか。悩みに悩みまくった。汚れてしまう可能性に思い至り、ペン立ての案は却下した。その代わりに入れてみたのは、ペンギンくんのぬいぐるみだ。桃真が描いたペンギンくんとぬいぐるみが並んで見えるように、位置を丁寧に調節した。
そもそもは単なるコーヒー用のカップでも、オレにとっては初めての推しグッズだ。例えばアイドルを推していたら、ライブグッズなどを購入できたのだろうけど。桃真は一般人だ。ペンギンくんのイラストの写真を撮りためてはいても、実体として手にできると充足感は比べものにならない。
「希色! 危ない!」
「望月!」
「……へ」
突然聞こえてきた自分の名前に、オレはハッと顔を上げた。桃真のことばかり考えて、ぼんやりしていたらしい。でも、もう遅かった。返事をする間もなく、顔に衝撃と痛みが走る。そのまま尻もちをついた。なにが起きたのか分からない。
「痛ったー……」
顔を両手で抑えつつも、指の隙間から転がっていくボールが見えた。ああ、ボールが当たったのか。授業中なのに、どれだけぼんやりしていたのだろう。情けなさに乾いた苦笑を漏らすと、誰かが駆け寄ってきた。
「望月! 平気か!?」
「川合くん?」
聞こえてきたのは川合くんの声だ。
「顔直撃だったよな。見せてみろ」
心配してくれている声と共に、川合くんの手が伸びてくる。
「え……」
その瞬間、反射的に体が強張った。嫌だ、顔を見られたくない。学校で顔を出すのは、どうしても怖い。
つい体をすくめてしまった時、
「川合! 触んな!」
との大きな声が響いた。桃真だ。川合くんの手首を掴み、オレから引き離す。
「はっ? 土屋お前なに……」
「希色、立てるか? 保健室行こ」
川合くんの言葉を遮って、桃真が手を差し出してきた。
「う、うん」
試合が中断し、注目の的になっていることが居た堪れない。そこに追い打ちをかけるように、
「えー! 土屋が行ったら負けんじゃん!」
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