26 / 61
桃色の気配
10
しおりを挟む
「桃真、あの、なにか気になることがあったの? その、KEYの投稿で」
「え?」
「元気がなさそうだから。やっぱり、日比谷翠と仲良さそうなKEYって、面白くなかったりする?」
「は? いや、それは全然違う」
「そうなの? 本当に?」
「マジで。誓って違う」
目を丸くして首を横に振る桃真を見るに、どうやら本当にそういうわけではなさそうだ。それじゃあなにが気がかりなのだろうか。全く分からず、自ずと首が傾く。
「そっちじゃなくて、むしろ……」
「むしろ?」
桃真の視線が数秒さまよい、目が合った。さっきジトリとしていた瞳は、今はどこかさみしそうに見える。こんなに心細そうな桃真は知らない。いつも桃真がそうしてくれるみたいに、頭を撫でてみようか。
けれどそうするよりも早く、桃真がオレの肩に額を乗せてきた。突然のことにびくりと体が跳ねる。すると離れるなとでも言うかのように、シャツの端っこをつままれる。
「と、桃真? あの……」
「ごめん、やっぱなんでもない」
「なんでもないようには見えないけど……」
「はは、だよな。でも大丈夫」
「オレじゃ力になれない?」
「そんなことない。希色じゃないとダメだから、こうしてる」
「桃真……」
桃真はそう言って、オレの肩に乗せたままの額を揺らした。甘えるような仕草に、胸の底がきゅうっと鳴く感覚がする。
いつもかっこよくて憧れで、だからこそ推しになった桃真なのに。なぜだろう、今はすごくかわいく思える。抱きしめたい衝動に駆られて、でもそんなわけにはいかないと浮かせた手をきゅっと握りこんで。せめて、と背中をぽんぽんとたたくと、桃真がくすりと笑ってくれた。
「はは、なんかあやされてる? 俺子どもみたいじゃん」
「嫌だった?」
「ううん、すげー元気になった」
「ほんと?」
「ほんと。ありがとうな、希色」
桃真の声色が、本当に明るくなった気がする。それでも桃真は離れようとしなくて、ドキドキするから困るけど正直助かった。赤いだろう顔を見られなくて済む。
そのまま話をしながらどうにか心を落ち着かせていると、空いているほうの肩を誰かにぽんとたたかれた。佐々木くんだ。
「おはよ、望月」
「あ、おはよう」
その後ろには川合くんもいて、オレにくっつく桃真に気づくと目を見開いた。歩みは止めないまま、桃真の肩をトンと小突いていく。
「土屋ー、イチャつくなら場所考えろよー。目立ってんぞー」
「うっせえ、ほっとけ」
イチャついている、なんて言われたのに、桃真はそれを否定しない。そのやり取りに、また昨日の翠くんたちとの会話を思い出してしまった。違う違う、とどうにか追い払っても、離れない桃真の体温がまた連れてきてしまう。
好きな人、恋をしている人。そういうわけじゃないはずなのに。
「希色? どうかしたか?」
「……いや、なんでもない、大丈夫」
「ほんとに?」
黙っていたせいか、今度はオレのほうが心配されてしまう。しゅんと眉を下げた桃真が、オレの頬を両手で包んできた。額を合わせ、熱はなさそうだな、なんて言う。こんなのもう、のぼせてしまいそうだ。あまりの至近距離に、息が途切れる。
そもそも、髪の上からじゃ正確な体温は分からないはずだ。桃真だってそんなこと、分かっているはずなのに。離れてほしいわけじゃないからそう言う気にはなれなくて、桃真もやっぱり離れなくて。指先で頬を撫でてくれている手に、勇気を出して手を重ねた。
「ほんとに大丈夫だよ」
「ん、そっか。それならよかった」
朝のホームルームの予鈴が鳴って、生徒たちが教室に吸いこまれていく。廊下が大分空いてから、「俺たちも行くか」と桃真がオレの髪を撫でた。
「桃真」
「ん?」
「本当に平気?」
「ああ、うん。凹んでたの、もう忘れてたくらい」
「そっか。よかった」
桃真と並んで教室へと向かう。なんだか、桃真がいるほうの体が緊張してしまう。
桃真との出逢いがオレを変えたけど、恋をしているわけではない。本当にそのはずだ。でも、とふと思う。
そもそも恋をしたことなんてないのに、なにと比べて違うと言い切れるのだろう。こんな風にドキドキして、触れられて嬉しいだとか、触れていたいだとか思うのも初めてで。経験したことのない恋心だって、桃真に向いていたって不思議ではない。そんな考えに行き着く。
「希色? どうした?」
いつの間にか立ち止まっていたようで、少し先で桃真が振り返った。首を傾げてほほ笑んでくれている。朝の光が、桃真の周りでキラキラと光っている。思わず息を飲む。
「…………」
「おーい、希色ー?」
「あ……うん。なんでもないよ。行こう」
「ん、ほら、おいで」
「はは、今度はオレが子どもみたいだね」
差し出された手に、恥ずかしがる手を笑みでごまかして重ねる。
恋をしているか、なんて答え合わせを今すぐにはできないけれど。誰かを、その人の周りの空気ごと綺麗だと感じたのは、たしかに初めてのことだった。
「え?」
「元気がなさそうだから。やっぱり、日比谷翠と仲良さそうなKEYって、面白くなかったりする?」
「は? いや、それは全然違う」
「そうなの? 本当に?」
「マジで。誓って違う」
目を丸くして首を横に振る桃真を見るに、どうやら本当にそういうわけではなさそうだ。それじゃあなにが気がかりなのだろうか。全く分からず、自ずと首が傾く。
「そっちじゃなくて、むしろ……」
「むしろ?」
桃真の視線が数秒さまよい、目が合った。さっきジトリとしていた瞳は、今はどこかさみしそうに見える。こんなに心細そうな桃真は知らない。いつも桃真がそうしてくれるみたいに、頭を撫でてみようか。
けれどそうするよりも早く、桃真がオレの肩に額を乗せてきた。突然のことにびくりと体が跳ねる。すると離れるなとでも言うかのように、シャツの端っこをつままれる。
「と、桃真? あの……」
「ごめん、やっぱなんでもない」
「なんでもないようには見えないけど……」
「はは、だよな。でも大丈夫」
「オレじゃ力になれない?」
「そんなことない。希色じゃないとダメだから、こうしてる」
「桃真……」
桃真はそう言って、オレの肩に乗せたままの額を揺らした。甘えるような仕草に、胸の底がきゅうっと鳴く感覚がする。
いつもかっこよくて憧れで、だからこそ推しになった桃真なのに。なぜだろう、今はすごくかわいく思える。抱きしめたい衝動に駆られて、でもそんなわけにはいかないと浮かせた手をきゅっと握りこんで。せめて、と背中をぽんぽんとたたくと、桃真がくすりと笑ってくれた。
「はは、なんかあやされてる? 俺子どもみたいじゃん」
「嫌だった?」
「ううん、すげー元気になった」
「ほんと?」
「ほんと。ありがとうな、希色」
桃真の声色が、本当に明るくなった気がする。それでも桃真は離れようとしなくて、ドキドキするから困るけど正直助かった。赤いだろう顔を見られなくて済む。
そのまま話をしながらどうにか心を落ち着かせていると、空いているほうの肩を誰かにぽんとたたかれた。佐々木くんだ。
「おはよ、望月」
「あ、おはよう」
その後ろには川合くんもいて、オレにくっつく桃真に気づくと目を見開いた。歩みは止めないまま、桃真の肩をトンと小突いていく。
「土屋ー、イチャつくなら場所考えろよー。目立ってんぞー」
「うっせえ、ほっとけ」
イチャついている、なんて言われたのに、桃真はそれを否定しない。そのやり取りに、また昨日の翠くんたちとの会話を思い出してしまった。違う違う、とどうにか追い払っても、離れない桃真の体温がまた連れてきてしまう。
好きな人、恋をしている人。そういうわけじゃないはずなのに。
「希色? どうかしたか?」
「……いや、なんでもない、大丈夫」
「ほんとに?」
黙っていたせいか、今度はオレのほうが心配されてしまう。しゅんと眉を下げた桃真が、オレの頬を両手で包んできた。額を合わせ、熱はなさそうだな、なんて言う。こんなのもう、のぼせてしまいそうだ。あまりの至近距離に、息が途切れる。
そもそも、髪の上からじゃ正確な体温は分からないはずだ。桃真だってそんなこと、分かっているはずなのに。離れてほしいわけじゃないからそう言う気にはなれなくて、桃真もやっぱり離れなくて。指先で頬を撫でてくれている手に、勇気を出して手を重ねた。
「ほんとに大丈夫だよ」
「ん、そっか。それならよかった」
朝のホームルームの予鈴が鳴って、生徒たちが教室に吸いこまれていく。廊下が大分空いてから、「俺たちも行くか」と桃真がオレの髪を撫でた。
「桃真」
「ん?」
「本当に平気?」
「ああ、うん。凹んでたの、もう忘れてたくらい」
「そっか。よかった」
桃真と並んで教室へと向かう。なんだか、桃真がいるほうの体が緊張してしまう。
桃真との出逢いがオレを変えたけど、恋をしているわけではない。本当にそのはずだ。でも、とふと思う。
そもそも恋をしたことなんてないのに、なにと比べて違うと言い切れるのだろう。こんな風にドキドキして、触れられて嬉しいだとか、触れていたいだとか思うのも初めてで。経験したことのない恋心だって、桃真に向いていたって不思議ではない。そんな考えに行き着く。
「希色? どうした?」
いつの間にか立ち止まっていたようで、少し先で桃真が振り返った。首を傾げてほほ笑んでくれている。朝の光が、桃真の周りでキラキラと光っている。思わず息を飲む。
「…………」
「おーい、希色ー?」
「あ……うん。なんでもないよ。行こう」
「ん、ほら、おいで」
「はは、今度はオレが子どもみたいだね」
差し出された手に、恥ずかしがる手を笑みでごまかして重ねる。
恋をしているか、なんて答え合わせを今すぐにはできないけれど。誰かを、その人の周りの空気ごと綺麗だと感じたのは、たしかに初めてのことだった。
90
あなたにおすすめの小説
俺の推し♂が路頭に迷っていたので
木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです)
どこにでも居る冴えない男
左江内 巨輝(さえない おおき)は
地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。
しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった…
推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???
【8話完結】効率厨の転生魔導師は、あふれ出る魔力を持て余す騎士団長を「自律型・魔力炉」として利用したいだけ
キノア9g
BL
「貴方は私の『生命維持基盤』です。壊れたら困ります」
「ああ、俺もお前なしでは生きていけない……愛している」
(※会話は噛み合っていません)
あらすじ
王宮魔導師レイ・オルコットには、前世の記憶がある。
彼の目的はただ一つ。前世の知識(エアコン・冷蔵庫・温水洗浄便座)を再現し、快適な引きこもりライフを送ること。
しかし、それらを動かすには自身の魔力が絶望的に足りなかった。
そんなある日、レイは出会う。
王国の騎士団長にして「歩く天変地異」と恐れられる男、ジークハルトを。
常に魔力暴走の激痛に苦しむ彼を見て、レイは歓喜した。
「なんて燃費の悪い……いや、素晴らしい『自律型・高濃度魔力炉(バッテリー)』だ!」
レイは「治療」と称して彼に触れ、溢れ出る魔力を吸い取って家電を動かすことに成功する。
一方、長年の痛みから解放されたジークハルトは、レイの事務的な接触を「熱烈な求愛」と勘違いし、重すぎる執着を向け始めて――?
【ドライな効率厨魔導師(受) × 愛が重たい魔力過多な騎士団長(攻)】
利害の一致から始まる、勘違いと共依存のハッピーエンドBL。
※主人公は攻めを「発電所」だと思っていますが、攻めは結婚する気満々です。
【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。
明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。
新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。
しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…?
冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。
【完結】自称ワンコに異世界でも執着されている
水市 宇和香
BL
「たとえ異世界に逃げたとしたって、もう二度と逃さないよ」
アザミが高校二年生のときに、異世界・トルバート王国へ転移して早二年。
この国で二十代半ばの美形の知り合いなどいないはずだったが、
「キスしたら思いだしてくれる? 鳥居 薊くん」
その言葉で、彼が日本にいたころ、一度だけキスした同級生の十千万堂 巴波だと気づいた。
同い年だったはずのハナミは、自分より七つも年上になっていた。彼は王都から辺境の地ーーニーナ市まではるばる、四年間もアザミを探す旅をしていたらしい。
キスをした過去はなかったこととして、二人はふたたび友人として過ごすようになった。
辺境の地で地味に生きていたアザミの日常は、ハナミとの再会によって一変し始める。
そしてこの再会はやがて、ニーナ市を揺るがす事件へと発展するのだった…!
★執着美形攻め×内弁慶な地味平凡
※完結まで毎日更新予定です!(現在エピローグ手前まで書き終わってます!おたのしみに!)
※感想や誤字脱字のご指摘等々、ご意見なんでもお待ちしてます!
美形×平凡、異世界、転移、執着、溺愛、傍若無人攻め、内弁慶受け、内気受け、同い年だけど年の差
【完結】君の手を取り、紡ぐ言葉は
綾瀬
BL
図書委員の佐倉遥希は、クラスの人気者である葉山綾に密かに想いを寄せていた。しかし、イケメンでスポーツ万能な彼と、地味で取り柄のない自分は住む世界が違うと感じ、遠くから眺める日々を過ごしていた。
ある放課後、遥希は葉山が数学の課題に苦戦しているのを見かける。戸惑いながらも思い切って声をかけると、葉山は「気になる人にバカだと思われるのが恥ずかしい」と打ち明ける。「気になる人」その一言に胸を高鳴らせながら、二人の勉強会が始まることになった。
成績優秀な遥希と、勉強が苦手な葉山。正反対の二人だが、共に過ごす時間の中で少しずつ距離を縮めていく。
不器用な二人の淡くも甘酸っぱい恋の行方を描く、学園青春ラブストーリー。
【爽やか人気者溺愛攻め×勉強だけが取り柄の天然鈍感平凡受け】
沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました
ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。
落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。
“番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、
やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。
喋れぬΩと、血を信じない宰相。
ただの契約だったはずの絆が、
互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。
だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、
彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。
沈黙が祈りに変わるとき、
血の支配が終わりを告げ、
“番”の意味が書き換えられる。
冷血宰相×沈黙のΩ、
偽りの契約から始まる救済と革命の物語。
姉の婚約者の心を読んだら俺への愛で溢れてました
天埜鳩愛
BL
魔法学校の卒業を控えたユーディアは、親友で姉の婚約者であるエドゥアルドとの関係がある日を境に疎遠になったことに悩んでいた。
そんな折、我儘な姉から、魔法を使ってそっけないエドゥアルドの心を読み、卒業の舞踏会に自分を誘うように仕向けろと命令される。
はじめは気が進まなかったユーディアだが、エドゥアルドの心を読めばなぜ距離をとられたのか理由がわかると思いなおして……。
優秀だけど不器用な、両片思いの二人と魔法が織りなすモダキュン物語。
「許されざる恋BLアンソロジー 」収録作品。
辺境の酒場で育った少年が、美貌の伯爵にとろけるほど愛されるまで
月ノ江リオ
BL
◆ウィリアム邸でのひだまり家族な子育て編 始動。不器用な父と、懐いた子どもと愛される十五歳の青年と……な第二部追加◆断章は残酷描写があるので、ご注意ください◆
辺境の酒場で育った十三歳の少年ノアは、八歳年上の若き伯爵ユリウスに見初められ肌を重ねる。
けれど、それは一時の戯れに過ぎなかった。
孤独を抱えた伯爵は女性関係において奔放でありながら、幼い息子を育てる父でもあった。
年齢差、身分差、そして心の距離。
不安定だった二人の関係は年月を経て、やがて蜜月へと移り変わり、交差していく想いは複雑な運命の糸をも巻き込んでいく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる