【完結】君とカラフル〜推しとクラスメイトになったと思ったらスキンシップ過多でドキドキします〜

星寝むぎ

文字の大きさ
27 / 61
答えはこの胸に

1

しおりを挟む
 梅雨が明けたら、あっという間に茹だるような夏がやってきた。

「うわ、あっちぃなー」
「うう、空気がもわってしてる……」

 冷たいものが飲みたいという話になって、昼休みに桃真とうまと廊下へ出た。呼吸も重たくなるような暑さに、桃真が嘆く。ボタンをふたつ開けたシャツをパタパタと揺らし、汗の浮いた体に風を送っている。それを目撃するといつも、オレの胸は騒がしくなってしまう。気だるげで色っぽい仕草は、推し店員と客の間柄だったら決して見る機会はなかっただろう。心臓がドギマギと困った音を立てる。

 友だち相手にドキドキしてしまうのは、暑さで滅入っているからか、それとも――そこまで考えたところで、オレはいつもハッとする。桃真への感情は恋なのだろうか。その答え合わせは今もできていないままだ。

希色きいろ、早く買って教室戻ろ。こんなんサウナだろ」
「そうだね、もうクーラーが恋しい」
「な。あー、アイス食いてぇ」
「あ、オレも」
「じゃあ帰りにコンビニ寄ろうぜ」
「それいいね。楽しみ」
「俺も」

 オレは水、桃真はサイダー。買ってきたばかりの飲み物をごくごくと飲んで、ひと息ついてから昼食を食べはじめる。食欲もとけてなくなりそうな夏だけど、栄養を摂るために食事は抜かないように頑張っている。

「桃真、昨日のインスタ見た?」
KEYキーの?」
「えっ。ううん、日比谷ひびやみどりの……」
「あー、うん。見たよ、海のヤツだよな」
「そう! サングラスが似合っててかっこよかったよね」
「まあな。KEYのはペンギンくんのキーホルダーの写真だったな」
「そ、そうだったね」

 桃真はよくKEYの話をするようになった。桃真が好きだからと翠くんの話を振ったって、こんな感じだ。桃真の口からKEYの名前が出る度に、心臓がひっくり返りそうになる。とは言え、桃真が見てくれるのならとインスタの更新頻度が上がったのだから、オレも現金なものだ。

「……なあ、KEYって全然自撮りはあげないよな」
「あ、うん、そうだね。ほら、自撮りは苦手とかあるんじゃない?」
「ああ、そういうことか。俺は見たいけど、だったらしょうがないよな」
「え、見たいんだ?」
「うん、すげー見たい」

 それにしても、だ。桃真がKEYを知っていたことに、未だにオレは驚いている。それはつまり、コーヒーショップでもKEYだと分かっていた、ということになる。分かった上で桃真は、そっとしておいてくれている。優しさに胸がじわりと熱くなって、けれどその分だけ罪悪感も浮かんでくる。オレは桃真だと認識してコーヒーを飲みに行っているのに、桃真はまさかKEYがオレだとは思いもせず接してくれているのだから。

 大嵐が吹く心の内を悟られないように、なんてことのないふりで話題を変える。

「そ、そうだ。お菓子。今日はラムネ持ってきたんだけど食べる?」
「マジ? 食べたい。あー」
「へ……オレが食べさせるの?」
「うん、入れて」
「ええ……」

 KEYの話題からせっかくお菓子に逃げたのに。桃真が口を開けて待機するので、今度は胸がきゅうきゅうと痛みだす。どう転んだって、オレは桃真に翻弄されてしまうらしい。 

 さりげなく深呼吸をし、ラムネを包むセロファンを開いて、桃真の口元へ運ぶ。すると桃真はオレの手首を掴んで、コインほどの大きさのラムネにかじりついた。オレの目を見ながら口内へと転がして、美味しそうに顔をほころばせる。

「ん、あまずっぱ。これ好きだわ」
「そ、っか」
「今度はラムネを色々開拓するか」
「ん、いいね」
「うん。希色が好きそうなの探してくる」

 掴まれたままの手は、桃真の膝の上へと置かれてしまった。そして、手首にあった桃真の手はするりと指先へ移動する。オレの肩が跳ねたのを、桃真は確かに見たはずなのに。手を繋いだまま、桃真は机に頬をくっつけて目をつむった。表情だけ見れば、ただラムネの味に浸っているみたいだ。

「ちょっと、桃真、手……」
「んー? 聞こえね~」

 ささやき声で訴えても桃真はくすくすと笑って、指先をそっと絡ませる。

 人の気も知らないで、とオレはこっそりくちびるをとがらせる。向かいの席では佐々木ささきくんと川合かわいくんが、オレたちが手を繋いでいるなんて気づくことなく会話をしている。オレの赤くなっただろう頬も、火照った指先も、桃真だけが知っているということだ。

「桃真、恥ずかしいよ」
「イヤ?」
「イヤではないけど……」
「じゃあもうちょっと」
「もう……じゃあちょっとね」
「ん、やった」

 やられてばかりはなんとなく癪で、握られたままの手で桃真の爪を撫でてみる。すると桃真はくすぐったそうに、嬉しそうに笑った。ああ、桃真のこの顔だって、今オレだけが見ているのか。そう思うとなぜだろう、泣きそうなくらいの幸福に満たされる感覚がした。この時間が、少しでも長く続いたらいいのに。

 きっと今オレの胸は、ラムネよりも甘酸っぱい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺の推し♂が路頭に迷っていたので

木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです) どこにでも居る冴えない男 左江内 巨輝(さえない おおき)は 地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。 しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった… 推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???

【8話完結】効率厨の転生魔導師は、あふれ出る魔力を持て余す騎士団長を「自律型・魔力炉」として利用したいだけ

キノア9g
BL
「貴方は私の『生命維持基盤』です。壊れたら困ります」 「ああ、俺もお前なしでは生きていけない……愛している」 (※会話は噛み合っていません) あらすじ 王宮魔導師レイ・オルコットには、前世の記憶がある。 彼の目的はただ一つ。前世の知識(エアコン・冷蔵庫・温水洗浄便座)を再現し、快適な引きこもりライフを送ること。 しかし、それらを動かすには自身の魔力が絶望的に足りなかった。 そんなある日、レイは出会う。 王国の騎士団長にして「歩く天変地異」と恐れられる男、ジークハルトを。 常に魔力暴走の激痛に苦しむ彼を見て、レイは歓喜した。 「なんて燃費の悪い……いや、素晴らしい『自律型・高濃度魔力炉(バッテリー)』だ!」 レイは「治療」と称して彼に触れ、溢れ出る魔力を吸い取って家電を動かすことに成功する。 一方、長年の痛みから解放されたジークハルトは、レイの事務的な接触を「熱烈な求愛」と勘違いし、重すぎる執着を向け始めて――? 【ドライな効率厨魔導師(受) × 愛が重たい魔力過多な騎士団長(攻)】 利害の一致から始まる、勘違いと共依存のハッピーエンドBL。 ※主人公は攻めを「発電所」だと思っていますが、攻めは結婚する気満々です。

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

【完結】自称ワンコに異世界でも執着されている

水市 宇和香
BL
「たとえ異世界に逃げたとしたって、もう二度と逃さないよ」 アザミが高校二年生のときに、異世界・トルバート王国へ転移して早二年。 この国で二十代半ばの美形の知り合いなどいないはずだったが、 「キスしたら思いだしてくれる? 鳥居 薊くん」 その言葉で、彼が日本にいたころ、一度だけキスした同級生の十千万堂 巴波だと気づいた。 同い年だったはずのハナミは、自分より七つも年上になっていた。彼は王都から辺境の地ーーニーナ市まではるばる、四年間もアザミを探す旅をしていたらしい。 キスをした過去はなかったこととして、二人はふたたび友人として過ごすようになった。 辺境の地で地味に生きていたアザミの日常は、ハナミとの再会によって一変し始める。 そしてこの再会はやがて、ニーナ市を揺るがす事件へと発展するのだった…! ★執着美形攻め×内弁慶な地味平凡 ※完結まで毎日更新予定です!(現在エピローグ手前まで書き終わってます!おたのしみに!) ※感想や誤字脱字のご指摘等々、ご意見なんでもお待ちしてます! 美形×平凡、異世界、転移、執着、溺愛、傍若無人攻め、内弁慶受け、内気受け、同い年だけど年の差

【完結】君の手を取り、紡ぐ言葉は

綾瀬
BL
図書委員の佐倉遥希は、クラスの人気者である葉山綾に密かに想いを寄せていた。しかし、イケメンでスポーツ万能な彼と、地味で取り柄のない自分は住む世界が違うと感じ、遠くから眺める日々を過ごしていた。 ある放課後、遥希は葉山が数学の課題に苦戦しているのを見かける。戸惑いながらも思い切って声をかけると、葉山は「気になる人にバカだと思われるのが恥ずかしい」と打ち明ける。「気になる人」その一言に胸を高鳴らせながら、二人の勉強会が始まることになった。 成績優秀な遥希と、勉強が苦手な葉山。正反対の二人だが、共に過ごす時間の中で少しずつ距離を縮めていく。 不器用な二人の淡くも甘酸っぱい恋の行方を描く、学園青春ラブストーリー。 【爽やか人気者溺愛攻め×勉強だけが取り柄の天然鈍感平凡受け】

沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました

ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。 落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。 “番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、 やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。 喋れぬΩと、血を信じない宰相。 ただの契約だったはずの絆が、 互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。 だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、 彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。 沈黙が祈りに変わるとき、 血の支配が終わりを告げ、 “番”の意味が書き換えられる。 冷血宰相×沈黙のΩ、 偽りの契約から始まる救済と革命の物語。

姉の婚約者の心を読んだら俺への愛で溢れてました

天埜鳩愛
BL
魔法学校の卒業を控えたユーディアは、親友で姉の婚約者であるエドゥアルドとの関係がある日を境に疎遠になったことに悩んでいた。 そんな折、我儘な姉から、魔法を使ってそっけないエドゥアルドの心を読み、卒業の舞踏会に自分を誘うように仕向けろと命令される。 はじめは気が進まなかったユーディアだが、エドゥアルドの心を読めばなぜ距離をとられたのか理由がわかると思いなおして……。 優秀だけど不器用な、両片思いの二人と魔法が織りなすモダキュン物語。 「許されざる恋BLアンソロジー 」収録作品。

辺境の酒場で育った少年が、美貌の伯爵にとろけるほど愛されるまで

月ノ江リオ
BL
◆ウィリアム邸でのひだまり家族な子育て編 始動。不器用な父と、懐いた子どもと愛される十五歳の青年と……な第二部追加◆断章は残酷描写があるので、ご注意ください◆ 辺境の酒場で育った十三歳の少年ノアは、八歳年上の若き伯爵ユリウスに見初められ肌を重ねる。 けれど、それは一時の戯れに過ぎなかった。 孤独を抱えた伯爵は女性関係において奔放でありながら、幼い息子を育てる父でもあった。 年齢差、身分差、そして心の距離。 不安定だった二人の関係は年月を経て、やがて蜜月へと移り変わり、交差していく想いは複雑な運命の糸をも巻き込んでいく。

処理中です...