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答えはこの胸に
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控え室を出る前に、何枚か自撮りをした。KEYの自撮りを見たい、と桃真が言っていたからだ。今までは苦手だったのに、桃真が望んでくれるなら挑戦したくなる。いちばんよく撮れたものを選んで、“今日はとある撮影がありました”とコメントを添えてインスタにアップする。
気をつけて帰るように、と今日も今日とて翠くんと前田さんに心配されながら外へ出る。もう夕方の時間だけど、まだうんざりするくらい暑い。とは言え、オレの胸は達成感でいっぱいだ。カメラの前での高揚感も、おさまりそうにない。そうするとやはり、あのコーヒーを飲みたくなるけれど――
桃真への想いを自覚してしまった。オレは、桃真が好きだ。オレを見る時の桃真の柔らかな表情だとか、こっそり触れてくれる指先だとか。知っているのはオレだけだったらいいのに、と感じていた。桃真の優しいところや、みんなに慕われているところにも憧れているのに。それは全部、桃真を好きだからだ。翠くんと恋人を演じる中で、それに気づいてしまった。
こんな心で桃真に会って、果たしてオレは冷静でいられるだろうか。落ち着いて、ちゃんと桃真の目を見ながらコーヒーを注文できるだろうか。このまま帰るか迷う。ああでも、やっぱり会いたい。
人波をすり抜けながらコーヒーショップへ到着すると、ガラス越しに桃真の姿が見えた。昨夜、今日はバイトだと言っていたからいるのは分かっていた。それなのに心臓は、まるで驚いたみたいに駆け足の鼓動を打つ。深呼吸を数回してから、よし、と気合を入れて入店する。
「いらっしゃいませ」
桃真のカウンターへ促された。目が合うと、そっとほほ笑んでくれた。いつもそうしてくれるのが嬉しくて、今日はまたとびきり感慨深い。緩む口元を堪えるのに必死だ。
「こんにちは。アイスのブレンドをひとつお願いします」
「アイスのブレンドをおひとつですね。店内のご利用でよろしかったですか?」
「はい」
「かしこまりました」
どうにかいつも通りに注文できた。きっと、多分。他の店員にレジを代わってもらった桃真が、コーヒーを作り始める。他の客の時にどうしているのかは分からないけれど、ここ最近はもうずっとオレのコーヒーは桃真が作ってくれている。
受け渡しのカウンターで待っていると、桃真がやってきた。手渡されたコーヒーを見ると、今日もペンギンくんが描いてある。よく見ると吹き出しつきで、その台詞にオレは静かに目を見張った。
「っ、“よくがんばりました”……」
「すみません。なんだか偉そうな言い方でしょうか」
どこか気まずそうに、桃真が眉を下げて笑う。そんなことはないと伝えたくて、オレはぶんぶんと首を横に振る。
表紙に抜擢されてから、喜びと共にずっと緊張を抱えていた。ついに当日を迎え、無事に撮影を終えることができた。そんな今日のオレに、桃真が添えてくれた言葉はあまりにもぴったりだ。心のすみずみまで沁みこんでいく感覚がする。
カップを両手で持ち、意を決して顔を上げる。
「あのっ! オレ、実は今日、新しい仕事をしてきたところで」
「そうなんですか?」
「はい。だからこれ、すごくすごく嬉しいです。ありがとうございます」
「よかった……そう言ってもらえて俺も嬉しいです。今日もお疲れ様でした」
どうしよう。やわらかく笑ってくれる桃真があまりにもかっこいい。恋をしていると気づいたら、ますます桃真が輝いて見える。そわそわと心が浮ついて、もっとなにか伝えたくなる。
「あ……あの、店員さんも、お疲れ様です。ここに来るの、オレにとってご褒美なんです。いつも美味しいコーヒー、ありがとうございます」
出過ぎた真似をしているだろうか。ただの客がこんなことを言うのはおかしいかもしれない。桃真の反応がこわくなって、顔が上げられない。
「えっと、今日はやっぱり持って帰ります! トレイ準備してもらったのにすみません」
「へ? あっ、お客様!」
カップを手に取り、ぺこりと頭を下げ足早に出口へ向かう。引き止めようとしてくれる声が聞こえたけれど、立ち止まる勇気はなかった。
コーヒーショップから角をふたつ曲がったところで、オレはようやく足を止めた。膝に片手をついて息を整える。
ご褒美だなんて、思い切ったことを言ってしまったかも。でも不思議と、後悔はしていない自分に気づく。それどころか、本当はもっと話したかったなと切なさすら胸にある。
クラスメイトとして出逢う前は、ほんのひと言でも言葉を交わせたら有頂天だったのに。友だちとしての自分に見せてくれるどこか子どもっぽい口ぶりや、あのスキンシップが無性に恋しい。コーヒーショップに訪れる客としてだけじゃなく、友だちとしても桃真に会いたい。
ああ、本当に桃真は特別なんだな。こんな欲張りな自分、知らなかった。ずっとひとりなんだと諦めてすらいたのに。桃真はオレに、様々な感情を見せてくれる。
「夏休み、はやく終わらないかな」
横断歩道の先には、夕陽のとろけそうなオレンジがまだまだ熱を孕んでいる。水平線に落ちたら夜の海でじゅわりと冷えて、早く秋を連れてきてくれたらいいのに。そうしたらまた毎日、桃真に会えるのに。
気をつけて帰るように、と今日も今日とて翠くんと前田さんに心配されながら外へ出る。もう夕方の時間だけど、まだうんざりするくらい暑い。とは言え、オレの胸は達成感でいっぱいだ。カメラの前での高揚感も、おさまりそうにない。そうするとやはり、あのコーヒーを飲みたくなるけれど――
桃真への想いを自覚してしまった。オレは、桃真が好きだ。オレを見る時の桃真の柔らかな表情だとか、こっそり触れてくれる指先だとか。知っているのはオレだけだったらいいのに、と感じていた。桃真の優しいところや、みんなに慕われているところにも憧れているのに。それは全部、桃真を好きだからだ。翠くんと恋人を演じる中で、それに気づいてしまった。
こんな心で桃真に会って、果たしてオレは冷静でいられるだろうか。落ち着いて、ちゃんと桃真の目を見ながらコーヒーを注文できるだろうか。このまま帰るか迷う。ああでも、やっぱり会いたい。
人波をすり抜けながらコーヒーショップへ到着すると、ガラス越しに桃真の姿が見えた。昨夜、今日はバイトだと言っていたからいるのは分かっていた。それなのに心臓は、まるで驚いたみたいに駆け足の鼓動を打つ。深呼吸を数回してから、よし、と気合を入れて入店する。
「いらっしゃいませ」
桃真のカウンターへ促された。目が合うと、そっとほほ笑んでくれた。いつもそうしてくれるのが嬉しくて、今日はまたとびきり感慨深い。緩む口元を堪えるのに必死だ。
「こんにちは。アイスのブレンドをひとつお願いします」
「アイスのブレンドをおひとつですね。店内のご利用でよろしかったですか?」
「はい」
「かしこまりました」
どうにかいつも通りに注文できた。きっと、多分。他の店員にレジを代わってもらった桃真が、コーヒーを作り始める。他の客の時にどうしているのかは分からないけれど、ここ最近はもうずっとオレのコーヒーは桃真が作ってくれている。
受け渡しのカウンターで待っていると、桃真がやってきた。手渡されたコーヒーを見ると、今日もペンギンくんが描いてある。よく見ると吹き出しつきで、その台詞にオレは静かに目を見張った。
「っ、“よくがんばりました”……」
「すみません。なんだか偉そうな言い方でしょうか」
どこか気まずそうに、桃真が眉を下げて笑う。そんなことはないと伝えたくて、オレはぶんぶんと首を横に振る。
表紙に抜擢されてから、喜びと共にずっと緊張を抱えていた。ついに当日を迎え、無事に撮影を終えることができた。そんな今日のオレに、桃真が添えてくれた言葉はあまりにもぴったりだ。心のすみずみまで沁みこんでいく感覚がする。
カップを両手で持ち、意を決して顔を上げる。
「あのっ! オレ、実は今日、新しい仕事をしてきたところで」
「そうなんですか?」
「はい。だからこれ、すごくすごく嬉しいです。ありがとうございます」
「よかった……そう言ってもらえて俺も嬉しいです。今日もお疲れ様でした」
どうしよう。やわらかく笑ってくれる桃真があまりにもかっこいい。恋をしていると気づいたら、ますます桃真が輝いて見える。そわそわと心が浮ついて、もっとなにか伝えたくなる。
「あ……あの、店員さんも、お疲れ様です。ここに来るの、オレにとってご褒美なんです。いつも美味しいコーヒー、ありがとうございます」
出過ぎた真似をしているだろうか。ただの客がこんなことを言うのはおかしいかもしれない。桃真の反応がこわくなって、顔が上げられない。
「えっと、今日はやっぱり持って帰ります! トレイ準備してもらったのにすみません」
「へ? あっ、お客様!」
カップを手に取り、ぺこりと頭を下げ足早に出口へ向かう。引き止めようとしてくれる声が聞こえたけれど、立ち止まる勇気はなかった。
コーヒーショップから角をふたつ曲がったところで、オレはようやく足を止めた。膝に片手をついて息を整える。
ご褒美だなんて、思い切ったことを言ってしまったかも。でも不思議と、後悔はしていない自分に気づく。それどころか、本当はもっと話したかったなと切なさすら胸にある。
クラスメイトとして出逢う前は、ほんのひと言でも言葉を交わせたら有頂天だったのに。友だちとしての自分に見せてくれるどこか子どもっぽい口ぶりや、あのスキンシップが無性に恋しい。コーヒーショップに訪れる客としてだけじゃなく、友だちとしても桃真に会いたい。
ああ、本当に桃真は特別なんだな。こんな欲張りな自分、知らなかった。ずっとひとりなんだと諦めてすらいたのに。桃真はオレに、様々な感情を見せてくれる。
「夏休み、はやく終わらないかな」
横断歩道の先には、夕陽のとろけそうなオレンジがまだまだ熱を孕んでいる。水平線に落ちたら夜の海でじゅわりと冷えて、早く秋を連れてきてくれたらいいのに。そうしたらまた毎日、桃真に会えるのに。
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