【完結】君とカラフル〜推しとクラスメイトになったと思ったらスキンシップ過多でドキドキします〜

星寝むぎ

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 翠くんの名前を教室で耳にすることは、以前から度々あったけれど。KEYの名前が出てきたのは初めてだ。また体がびくりと跳ねてしまった。

 クラスの女子とは誰ひとり、一度だって会話をしたことはない。モデルの自分のこととは言え話題に上がっていて、褒められているのが変な感じだ。

「希色? 平気か?」

 桃真の声に、ハッと顔を上げる。そこでようやく、深く俯いていたことに気づく。どうやら心配をさせてしまったみたいだ。

「うん、平気。なんでもないよ」
「……なあ、希色も見た? 女子たちが喋ってるヤツ」

 桃真からもM's  modeの話題が出て、ドキッと胸が鼓動を打つ。喜びと、どう感じただろうかとの緊張が入り混じる。

「うん、見たよ」
「ふうん。俺も」
「…………?」

 桃真の纏う雰囲気が、急に冷たくなった気がする。声のトーンが明らかに低くなったし、横顔はなんだか怒っているようにも見える。

「……桃真? えっと、日比谷翠かっこよかったね?」
「…………」

 横目でちらりとオレを映し、かと思えばすぐに逸らされてしまう。なぜ急にそんな態度になったのか、ちっとも分からない。かと思えば座ったままの椅子を引きずって、オレにぴたりとくっついてきた。机の下でそっと手を握られ、グッと顔が寄せられる。

「へ……と、桃真? あの、どうかし……」

 桃真はさらに、指同士を絡めるように握り直した。それを思い知らせるような、ゆったりとした手つきで。桃真の手の中にある、指先が火照る。間近から放たれる桃真の瞳の光が頬に当たって、ぴりぴりする。

 今日の桃真はやっぱり、いつも以上にスキンシップが激しい気がする。

「俺はさ、KEYがいいと思った」
「っ、え?」
「日比谷翠も、まあ……でもKEYの表情、すげーよかったと思う」
「……ほ、ほんとに?」

 KEYのことを桃真がそんなに褒めてくれるのは、初めてのことだ。顔が一気に熱くなる。思わず顔を逸らすと、繋いでいる手の甲を撫でられた。指先が跳ねたら、更にきゅっと握られる。

「うん。すげーかっこよかった。希色は? そう思わない?」

 尋常じゃないくらい、心臓が速い鼓動を打つ。自分の体が自分のものじゃないみたいで、呼吸も浅くなる。

 桃真は翠くんのファンなのに、こんなにKEYにも目を向けてくれたなんて。しかも、“かっこいい”と言ってくれた。モデルを始めてかわいいと褒められることはあっても、かっこいいだなんてほとんど言われたことがなかった。そうなりたいとずっと思っていた。他でもない、憧れた桃真がそう言ってくれている。どうしよう。

「……ん、そう、だね。よく撮れてるなって、思うかな」

 やっとの思いで、ようやくそれだけ答えることができた。まぶたの裏がじんわりと熱い。もしオレがもっと勇気のある人間だったら、もっと自信を持てていたら。桃真に抱きついていたかもしれない。

「ん、だよな」

 桃真はどこか満足げに頷いた。でもすぐに、今度は悲しそうな顔をする。眉がしゅんと下がってしまった。

「桃真?」
「んー……なあ希色、あのふたりってさ。もしかして、マジで付き合ってたりすんのかな」
「え?」
「KEYと……日比谷翠」

 本当はこんなこと口にしたくはなかった、といった様子で苦々しく桃真はそう言った。思いがけないその言葉に、オレは目を見開く。

「それはないよ!」

 即座に断言する。でもすぐに冷静になった。オレが言い切るのはおかしい。

「と、思う!」

 慌ててそうつけ加える。すると桃真は、

「そっか。まあ、そりゃそうだよな」

 と笑顔を見せた。桃真は翠くんのファンだから、やはりそこは気になるところなのだろうか。オレなんかのとってつけたような言葉で、ずいぶんと安心してくれたようだ。

「急に変なこと言ってごめんな。……なあ希色、今日なんか予定ある?」
「なにもないよ」
「マジ? じゃあ、帰るのもうちょっと待ってもらってもいい?」
「うん。なんかあった?」
「んー? ううん。ただ、もうちょっとこうしてたいなあと思って。いい?」

 桃真はそう言って、オレの机に頬をくっつけた。オレを見上げながらほほ笑んで、繋いでいる手をゆったりとしたリズムできゅっきゅっと握ってくる。

 ああ、もう。桃真はどうしてこういうことをするのだろう。人の気も知らないで。甘酸っぱい音が胸の中で何度も何度も弾けて、言葉にならないまま頷くことしかできない。

「やった。ありがと希色」

 桃真にKEYのことも推してほしい。それだけじゃなく、オレと同じ気持ちで好きになってほしくなる。もしも両想いになれたなら、どんなに幸せな心地がするだろう。
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