【完結】君とカラフル〜推しとクラスメイトになったと思ったらスキンシップ過多でドキドキします〜

星寝むぎ

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脚光

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 コーヒーショップから離れ、近くのコンビニ前で足を止める。外壁にもたれ、深く息を吐く。体中どこもかしこも、さきほどの桃真とのやり取りに鼓動を打っている。胸元に手を当てる。暮れ始めた空に顔を上げ、目をつむる。冷たいコーヒーのカップを、火照った頬に当てる。本当に、桃真に応援していると言ってもらえたんだ。

 声をかけられたのは、そうして呼吸を落ち着けながらひたっていた時だった。

「あのー……」

 思いがけずそばに聞こえた声に、驚いて目を開く。するとすぐ目の前に、高校生と思われる女の子が立っていた。視線は確かにオレを捉えていて、何事だろうかと姿勢を正す。

「はい。えっと……?」
「もしかして、モデルのKEYくんですか?」
「えっ……」

 オレはまず、自身の耳を疑った。この人は本当に今、オレをKEYと呼んだのだろうか。マスクだってしているのに。今まで一度だって、街中でKEYだと気づかれたことはなかった。それこそ、ずっと見ていてくれたのだろう人は、桃真だけだった。

 どう答えたものかと戸惑っていると、沈黙は肯定と捉えられたらしい。女の子は声のボリュームをワントーン上げた。

「あ、あの! M's mode買いました!」

 その声は辺りに響いたようで、注目を集めてしまった。何事かと訝しむ人たちの視線が、オレと女の子に突き刺さる。

「あ……ありがとうございます。あの、ちょっと声を……」

 初めて声をかけてもらったのだ、応援してくれる人を大切にしたい。でもなんと言えばいいのだろう。あまり人と接してこなかった弊害か、上手い言葉が出てこない。こういう時、翠くんはどうしているんだっけ。そういった瞬間に居合わせたことはあるのに、混乱した頭では思い出せない。

「私、インスタも前から見てて! 本当にずっと応援してたんです!」
「そうなんですね。えっと……」

 しどろもどろとしている間に、周りに人が増えてきた。その内のひとりは「KEYじゃん!」と大声を上げて、誰かへと電話をかけ始めた。誰だか分からないけどとりあえず、といった風に、スマートフォンのカメラを向けてくる人もいる。

 小さな騒ぎは周囲へと伝染していって、軽く人だかりになってしまった。最初に声をかけてきた女の子はついに、オレの服の袖をつまんでくる。

 このままではまずい。通行人の迷惑になってしまう。意を決して、大きく息を吸う。

「あの、すみません! もう行かないといけないので……」

 不満げに眉を下げる女の子の手の中から、そっと腕を引く。囲んでいる人たちに頭を下げて、そこから走り出した。

 引き止める声はたくさん聞こえるけれど、振り返らずに進む。歩道を走り、角を曲がり、もう少し走って立ち止まる。膝に手をついて、荒い呼吸をくり返す。

 用事なんてないのに、嘘をついてしまった。罪悪感がじわりと生まれる。でも騒ぎになるよりよかったはずだ、と自分に言い聞かせる。

 また誰かにKEYだと気づかれるわけにはいかない。マスクをしていてもあんなことになったのだから、このままではまた同じことになるかもしれない。

 これ以上の変装なんてどうやって、と考えふと思い立つ。最強の変装方法を、オレは身につけているじゃないか。

 きょろきょろと辺りを見渡す。追ってくる人はさすがにいないようだ。道路側に背を向け、翠くんがセットしてくれた前髪を乱雑に崩す。黒いマスクは目立つから、外してしまうのがいいだろう。こうすればいつも通りの、ただの高校生のオレだ。

 これで間違いなく、KEYだと気づかれることはない。コーヒーカップを見ると、桃真が描いてくれたペンギンくんまで汗をかいたみたいに、水滴がしたたっている。まるで、この逃走に一緒に必死になってくれたみたいだ。天を仰いで安堵の息をつく。

 今はただ、桃真にだけ鼓動を打っていたかった。
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