【完結】君とカラフル〜推しとクラスメイトになったと思ったらスキンシップ過多でドキドキします〜

星寝むぎ

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共犯者でも、盾にだって

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 昨日は人だかりから逃げ出した後、誰からも声をかけられることなく帰宅することができた。ひと息ついた後、M's modeエムズモードを写真に収めて、感謝の文と共にインスタへ投稿した。“いいね”もフォロワーもコメントも確認する度に増えていて、ひとつひとつ読まずにはいられなかった。

 それから、夕飯を食べながらも風呂に入っている時も、桃真とうまが言ってくれた『応援してます』のひと言を何度も思い返した。「顔がにやけてるぞ」と兄ちゃんに頬をつつかれた時は、心底恥ずかしかった。そんな顔をしている自覚は全くなかった。それでもそんな恥ずかしさは、すぐにどうだってよくなった。昨日持ち帰ったコーヒーカップも、もちろん綺麗に洗って部屋に飾ってあるからだ。翠くんのことを想い、嫉妬すると桃真は言っていたけれど。応援していると言ってくれたことも本当だから、それを大事にしたいと思っている。


 桃真のことを想ったり、インスタを見たり。なかなか寝つけずに迎えた朝だけど、球技大会だと思うとそわそわしていつもより早く家を出た。桃真が提案してくれた通り、体育の時間にたくさんパスの練習をしてきた。得点に貢献はできないかもしれない。それでも足を引っ張らず、どうにかやり切ってみたい。

 ひとり小さく頷き、リュックの紐を両手できゅっと握って教室に入った。いつもよりなんだか騒がしいのは、クラスメイトたちも球技大会に気合が入っているのかもしれない。そう思ったのも束の間、なぜかたくさんの声たちがピタリと収まった。どうしたのだろうと首を傾げた時にはもう、全員の視線がすべてオレへと向けられていた。

「え……な、なに?」

 状況はなにひとつ把握できないけど、オレの足は自ずと後ずさった。静まり返っていた声たちが、あちこちで密めきだす。なにかよくないことが起きている、それだけは分かる。

「桃真……」

 助けを求めるように、口の中で桃真の声をつぶやいた。気が動転してすぐに気づけなかったけど、桃真は教室の真ん中で女子たちに囲まれていた。目が合った瞬間、

希色きいろ!」

 と大声でオレを呼んだ。床を蹴るようにして、こちらに向かってくる。

「桃真、あの……」

 オレ、なにかしてしまったのかな。みんなの気を悪くさせるようなことを――怖いけど、確かめるしかない。桃真に尋ねようとした時、

望月もちづきくん!」

 と今度は女子の声がオレの名を呼んだ。

「うわっ。えっ、なっ、なに!?」

 そしてそのまま、近くにいた女子たちに取り囲まれてしまった。桃真がそばに来るより早かった。

 本当になにが起きているんだ? 察することすらできない。でもすぐに、状況を教えてくれる質問が飛んできた。

「ねえ。望月くんがモデルのKEYキーだって話、本当?」
「……っ!」

 まさかの質問に、オレは思わず絶句した。なんでそれを? 絶望の奥底に突き落とされたみたいだ。視界がぐわんと揺れ、周りの音もどこか遠くなった感覚に襲われる。

「おいお前らやめろ!」

 女子たちの向こうから、桃真が叫んでいる。でも誰ひとりとして、聞く耳を持たないみたいだ。いつもはあんなに、桃真と話す時は誰しもが嬉しそうなのに。 

「私、昨日渋谷に行ったんだよね。走ってる子がいてKEYじゃんって見てたら、前髪下ろしてさ。望月くんにすごく似てた」

 そう言ったのは、女子の野田のださんだ。

「…………」

 冷や水でも浴びたみたいに、血の気が引いていく。すぐに否定しなきゃと思うのに声が出ない。

 昨日、顔を隠す前に周りをちゃんと確認したはずだ。追ってくる人はいないか、って。ああ、でもそうか。クラスメイトがいるかどうかなんて、考えもしなかった。

「マジだったらやばくない!? KEYと同じクラスとか!」
「私めっちゃファンなんだけど……やばい」
「てかさ、望月くんの顔見せてもらったら一発じゃない?」
「それだ!」

 ひとりの女子が、さらに距離をつめてきた。驚く間もなく、前髪に手が伸びてくる。 

「っ、やめ……」

 まずい。咄嗟に後ずさろうとしたが、いつの間にか背後も囲まれていたことに気づく。どうしよう。KEYだと知られたくないのはもちろん、学校というこの場で顔を見られたくない。女みたいな顔、変なの――小学校の頃に浴びた嘲笑が、頭の中に響き渡る。

 絶対に、絶対にいやだ。もうあんな気分は味わいたくない。両手で頭を抱え、下を向いて抵抗する。今か今かと身構える。でも手は触れてこない。その代わりにオレの耳に届いたのは、桃真の声だった。

「お前ら、マジでいい加減にしろよ」

 恐る恐る顔を上げると、オレの前髪に触れようとした女子の手を、桃真が掴んでいた。鋭くとがった目が、女子を見下ろしている。でも、その女子も怯まない。

「なんで? ちょっと顔見るだけじゃん」
「希色の気持ちは無視か? 嫌がってんの、見れば分かんだろ」
「っ、それは……」

 桃真のそのひと言で、女子は動揺したようだ。言葉が続かない様子に、桃真が手を離した。そしてその手が今度は、オレに伸びてくる。手首をそっと握られ、桃真の元へと引き寄せられる。

「希色、ちょっと教室出よう」

 オレが頷いたのを確認して、扉のほうへ歩き出す。けれど教室を出る直前で、桃真は振り返った。

「今の話、変に噂とか広めんなよ。絶対に」

 釘を刺して、今度こそ教室を出た。
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