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共犯者でも、盾にだって
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教室の前に到着すると、急に足が竦んできた。呼吸が浅くなり、また手が震えだす。
「希色、深呼吸しろ。なあ、無理しなくてもいいと思うぞ」
桃真が背中に手を当ててくれた。さすってくれるリズムに合わせ、深呼吸をする。
「うん、ありがとう。でも、決めたから」
「そっか。俺は絶対に味方だからな」
「うん」
意を決して、教室に入る。クラスメイトたちの視線が余すことなく全員分、一気にオレに集まった。川合くんと佐々木くんが、オレたちのところへ駆け寄ってくる。
「土屋の言った通り、クラス以外のヤツには誰も言ってないよ」
「さんきゅ。助かる」
佐々木くんが伝えてくれた内容に、ひとまず安堵する。でも、やっぱり怖い。さっきは「決めたから」なんて言ったけど、どうしたって悪い結末ばかりが頭を支配している。でも今も桃真の手はオレの背中にあって、このまま進んでも後ずさっても、きっと支えていてくれる。そう信じられることが、確かに大きな力になっている。
「あ、あの、さっきのこと、ですけど……」
制服のシャツをぎゅっと握りこむ。
「野田さんの言った通り、です。オレは……KEYという名前で、モデルをしています」
屋上の前で桃真と話して、オレは真実を伝える決意をした。共犯者になる、とまで言ってくれた桃真と、前に進んでみたいと思った。
「ええっ!」
「マジ!?」
「ねえやばいんだけど!」
途端に教室中が色めき立った。耳をつんざくような、高く鋭い声があちこちから上がる。そばにいる川合くんと佐々木くんも、驚いているのが分かる。思わず跳ねた肩に手を添えてくれた桃真が、みんなを見渡して口を開いた。
「なあ、騒がないでやってくれ。頼む。希色、すげー勇気出して話してるから」
桃真のそのひと声で、本当に教室が静まり返った。桃真の人望があってこそだ。
「あ、あのー。顔見たいんだけど……」
声のボリュームは下げてくれたけど、ひとりの女子が手を挙げつつそう言った。ああ、きた。他の女子たちもそれに続いたり、頷いている。オレはごくりと息を飲む。
絶対にこういう流れになるだろうと踏んでいた。顔を出してこその仕事をしているのだ、当然だと思う。それでも――
「ご、ごめんなさい。それはしたくないです」
にじり寄ってきていた女子たちの足が止まる。つまんなそうなため息がどこからか聞こえてきた。でも、非難されることになってでも、心を守る最後の砦は、どうか残させてほしい。
「昔、顔のことで色々あって……仕事を通して素顔を知られていると分かっていても、学校で顔を出すのは、怖い、です。だから、ごめんなさい。あと……オレがKEYだってこと、このクラスだけの秘密にしてもらえませんか」
クラスの中が、ふたたびざわつき始める。なにを無茶なことを、と思われているのだろう。
「オレ、2年になってはじめて、学校が楽しくなりました。今日の球技大会も、スポーツ苦手なのに実は楽しみで……体育祭とか文化祭とかも、もしかしたら今年は楽しいのかもって。あ……もちろん、クラスのはじっこでいいんです。こんな前髪で気味悪いだろうし、そもそも存在感ないし。でもそれでもいいから、仕事のことは関係なく今までのオレのままで、ここにいたくて……ワガママ言ってるって分かってます。それでも……お願いします」
そこまで言って、オレは頭を下げた。ぎゅっと握りこんだ手のひらに、爪がギリギリと刺さる。聞き入れてもらえるかは、正直難しいと思っている。クラスにモデルをしているヤツがいる、しかもこんな根暗なヤツが……だなんて、恰好の話のネタになるだろうから。
クラスメイトからは、なんの返事もない。やはりダメか。諦めかけた時、桃真がオレの横に立った。
「俺からも頼む。希色の望み、聞いてやってほしい。お願いします」
あろうことか、桃真まで頭を下げた。オレのためにそんなこと、しなくていいのに。咄嗟に止めようとしたけれど、桃真は勝ち気な笑顔でこちらを見ていた。そしてオレの手をぎゅっと握ってくる。泣きそうになって、慌ててくちびるを噛む。すると今度は、なんと川合くんと佐々木くんも桃真に続いた。
「俺からも。望月、ほんといいヤツなんだよ。頼む」
「俺も! 望月、すげー頑張って今こうしてるんだと思う。お願いします!」
ふたりの姿に、オレの涙腺はいよいよ決壊してしまった。
ああ、もうこれで十分なのかもしれない。もしも学校中にバレて騒ぎになっても、この3人がいてくれるのだから、それだけで。
教室の床にぽとりと落ちた涙を見ながらそう思った時、視界にひとりの足が映った。
「望月くん、顔、上げて?」
野田さんだ。ゆっくりと顔を上げると、彼女は申し訳なさそうな顔をして俯きがちに立っていた。
「ごめんなさい。昨日望月くんを見かけたからって、騒いじゃって。KEYだってこと、本当は内緒にしておくはずだったんだよね?」
「それは……」
「償いにもならないかもしれないけど、私もう言わないよ。誰にも。信じられないかもしれないけど、約束する」
「野田さん……」
野田さんは野田さんで、こうなったことを悔やんでいるのかもしれない。もっと軽い気持ちで、単に「KEYなの?」と聞いてみただけだったのだろう。気負わせてしまったと申し訳なくすら思っていると、野田さんと仲のいい女子たちが彼女の腕に勢いよく手を絡めた。
「私も! ぜーったいに言わない!」
「私もー! みんなもそうだよね?」
その問いかけを皮切りに、教室のあちこちから肯定する声が上がりはじめた。
「希色、深呼吸しろ。なあ、無理しなくてもいいと思うぞ」
桃真が背中に手を当ててくれた。さすってくれるリズムに合わせ、深呼吸をする。
「うん、ありがとう。でも、決めたから」
「そっか。俺は絶対に味方だからな」
「うん」
意を決して、教室に入る。クラスメイトたちの視線が余すことなく全員分、一気にオレに集まった。川合くんと佐々木くんが、オレたちのところへ駆け寄ってくる。
「土屋の言った通り、クラス以外のヤツには誰も言ってないよ」
「さんきゅ。助かる」
佐々木くんが伝えてくれた内容に、ひとまず安堵する。でも、やっぱり怖い。さっきは「決めたから」なんて言ったけど、どうしたって悪い結末ばかりが頭を支配している。でも今も桃真の手はオレの背中にあって、このまま進んでも後ずさっても、きっと支えていてくれる。そう信じられることが、確かに大きな力になっている。
「あ、あの、さっきのこと、ですけど……」
制服のシャツをぎゅっと握りこむ。
「野田さんの言った通り、です。オレは……KEYという名前で、モデルをしています」
屋上の前で桃真と話して、オレは真実を伝える決意をした。共犯者になる、とまで言ってくれた桃真と、前に進んでみたいと思った。
「ええっ!」
「マジ!?」
「ねえやばいんだけど!」
途端に教室中が色めき立った。耳をつんざくような、高く鋭い声があちこちから上がる。そばにいる川合くんと佐々木くんも、驚いているのが分かる。思わず跳ねた肩に手を添えてくれた桃真が、みんなを見渡して口を開いた。
「なあ、騒がないでやってくれ。頼む。希色、すげー勇気出して話してるから」
桃真のそのひと声で、本当に教室が静まり返った。桃真の人望があってこそだ。
「あ、あのー。顔見たいんだけど……」
声のボリュームは下げてくれたけど、ひとりの女子が手を挙げつつそう言った。ああ、きた。他の女子たちもそれに続いたり、頷いている。オレはごくりと息を飲む。
絶対にこういう流れになるだろうと踏んでいた。顔を出してこその仕事をしているのだ、当然だと思う。それでも――
「ご、ごめんなさい。それはしたくないです」
にじり寄ってきていた女子たちの足が止まる。つまんなそうなため息がどこからか聞こえてきた。でも、非難されることになってでも、心を守る最後の砦は、どうか残させてほしい。
「昔、顔のことで色々あって……仕事を通して素顔を知られていると分かっていても、学校で顔を出すのは、怖い、です。だから、ごめんなさい。あと……オレがKEYだってこと、このクラスだけの秘密にしてもらえませんか」
クラスの中が、ふたたびざわつき始める。なにを無茶なことを、と思われているのだろう。
「オレ、2年になってはじめて、学校が楽しくなりました。今日の球技大会も、スポーツ苦手なのに実は楽しみで……体育祭とか文化祭とかも、もしかしたら今年は楽しいのかもって。あ……もちろん、クラスのはじっこでいいんです。こんな前髪で気味悪いだろうし、そもそも存在感ないし。でもそれでもいいから、仕事のことは関係なく今までのオレのままで、ここにいたくて……ワガママ言ってるって分かってます。それでも……お願いします」
そこまで言って、オレは頭を下げた。ぎゅっと握りこんだ手のひらに、爪がギリギリと刺さる。聞き入れてもらえるかは、正直難しいと思っている。クラスにモデルをしているヤツがいる、しかもこんな根暗なヤツが……だなんて、恰好の話のネタになるだろうから。
クラスメイトからは、なんの返事もない。やはりダメか。諦めかけた時、桃真がオレの横に立った。
「俺からも頼む。希色の望み、聞いてやってほしい。お願いします」
あろうことか、桃真まで頭を下げた。オレのためにそんなこと、しなくていいのに。咄嗟に止めようとしたけれど、桃真は勝ち気な笑顔でこちらを見ていた。そしてオレの手をぎゅっと握ってくる。泣きそうになって、慌ててくちびるを噛む。すると今度は、なんと川合くんと佐々木くんも桃真に続いた。
「俺からも。望月、ほんといいヤツなんだよ。頼む」
「俺も! 望月、すげー頑張って今こうしてるんだと思う。お願いします!」
ふたりの姿に、オレの涙腺はいよいよ決壊してしまった。
ああ、もうこれで十分なのかもしれない。もしも学校中にバレて騒ぎになっても、この3人がいてくれるのだから、それだけで。
教室の床にぽとりと落ちた涙を見ながらそう思った時、視界にひとりの足が映った。
「望月くん、顔、上げて?」
野田さんだ。ゆっくりと顔を上げると、彼女は申し訳なさそうな顔をして俯きがちに立っていた。
「ごめんなさい。昨日望月くんを見かけたからって、騒いじゃって。KEYだってこと、本当は内緒にしておくはずだったんだよね?」
「それは……」
「償いにもならないかもしれないけど、私もう言わないよ。誰にも。信じられないかもしれないけど、約束する」
「野田さん……」
野田さんは野田さんで、こうなったことを悔やんでいるのかもしれない。もっと軽い気持ちで、単に「KEYなの?」と聞いてみただけだったのだろう。気負わせてしまったと申し訳なくすら思っていると、野田さんと仲のいい女子たちが彼女の腕に勢いよく手を絡めた。
「私も! ぜーったいに言わない!」
「私もー! みんなもそうだよね?」
その問いかけを皮切りに、教室のあちこちから肯定する声が上がりはじめた。
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