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カラフルデイズ
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「みど兄、希色に近すぎ」
四人で声を潜めつつ談笑していると、仕事を終えた桃真がやってきた。空いている席から椅子を持ってきて、翠くんとオレの間に押しこんでくる。
「桃真。お疲れ様」
「さんきゅ。希色もお疲れ」
「あれ、桃真はコーヒーないの?」
「みんな飲み終わる頃だろうと思って」
「そっか。オレのでよかったら飲む? 飲みかけだしもうぬるくなっちゃったけど、桃真が作ったの美味しいよ」
「じゃあひとくち貰う」
カップを差し出すと、オレの手ごと掴まれてしまった。ドキドキしつつ、飲みやすいようにと手から力を抜く。口をつけながら上目にオレを見て、桃真がほほ笑む。
憧れで推しで、特別な友だちで……それから、恋人で。ひとりとひとりなのに、様々な関係で桃真と繋がっている。このコーヒーショップは、それをより強く感じられる特別な場所になった。苦いはずのコーヒーが最近はなんだか、腹に落ちてくる頃には甘い気さえする。
「ねえねえ、佐々木くん川合くん。このふたりって、学校でもこの感じなんだって?」
「ですね、もはやデフォっすよ。もうつっこむのも諦めたよな。本人たちが楽しそうだし」
「それなー。土屋がこんなに誰かに構ってんのはめっちゃ新鮮っすけど、友だちとしては嬉しいっていうか。よく笑うようになったし」
「なるほどね」
「てか俺、さっきからめっちゃ気になってるんすけど……土屋、日比谷さんのこと“みど兄”って呼びませんでした?」
「ああ、うん。俺と桃真はいとこだから」
「……え?」
「はぁ!? いとこ!?」
川合くんの大きな声に、慌てた顔をした佐々木くんが川合くんの背を叩いた。川合くんはハッとしたように口を手で覆う。その気持すごく分かるよ、とオレはただただ頷く。翠くんはと言えばケラケラと笑って、そんなに気を使わないでいいよとふたりに笑顔を向けている。
三人が仲良くなったみたいで、なんだかオレまで嬉しい。眺めていると、桃真がこちらを見ていることに気づく。目が合えば「楽しいな」とニッと笑って、頭を撫でてくれた。
ああ、この時間を大事に思っているのは自分だけじゃないんだ。当たり前かもしれないそんなことに、オレはそっと息を飲む。だってオレには、高校の三年間をひとりで過ごすと決意した、中三の冬があるから。改めて四人の顔を見渡すと、なんだか胸がいっぱいになってきた。鼻がツンと痛んで、視界がぼやけだす。それを見逃さないのは、やはり桃真だ。
「希色? どうした?」
「桃真にはちょっと話したことあるけど……オレ、高校なんていつ辞めてもいいって思ってたんだ」
桃真だけじゃなく翠くん、川合くんと佐々木くんもオレを見ている。伝えたいと思った気持ちを、ここにいるみんなは絶対に受け取ってくれる。そう信じられる自分に出逢えたことは、オレにとって奇跡だ。
「小学生の頃、友だちだと思ってた子から、顔が女みたいだって冷やかされたんだ。他のみんなもそれに乗っかって、からかわれて……あっという間にコンプレックスになって、中学もずっと辛かった。だから前髪伸ばして顔を隠して、同級生が誰も行かない高校を選んだ。それで誰とも関わらなかったら、もう傷つかずに済むって思ったから。でも……オレ今、すごく楽しい」
「希色……」
「桃真が友だちになろうって言ってくれてなかったら、こんな今、絶対になかったよ。だから、ありがとう。みんなの顔見てたらなんか、感動しちゃって。みんなに聞いてほしくなった」
モデルをしていると明かしても、顔を隠す理由は伝えたことがなかった。小学生の自分が、胸の奥底で顔を上げて笑ってくれた気がする。
堪えきれずに鼻を啜ると、桃真の大きな手に頬を包まれた。優しい親指が、にじんだ涙をさらってゆく。開ける視界に映るのは、みんなのやわらかな顔で。泣き顔を恥ずかしく思う暇もなく、手が次々に伸びてきて髪をかき混ぜられてしまった。
「う、うわ、ちょ、みんな! ボサボサになっちゃう!」
「望月~これからも学校楽しもうな!」
「土屋もいいけど、俺らとも遊ぶんだからな」
「えへへ、うん。よろしくお願いします」
川合くんと佐々木くんが手を掲げてくれて、ハイタッチをする。ふと翠くんを見ると、その瞳がうるうると潤んでいる。翠くんのそんな顔は初めて見た。
「なんだろこの気持ち、希色はもはや息子かもしんない。桃真ちょっとどいて、希色ハグするから」
「却下。みど兄は希色に触りすぎ」
「はあ? 桃真にだけは言われたくないけど!?」
「はいはい、うるさい」
たわむれたり、途切れることなくおしゃべりをしたり、時には言い合いをしてみたり。オレの目の前に広がる世界は、あたたかくて賑やかだ。でもそうか、オレもこの輪の、確かにひとつのピースなんだ。そんなことを考えていたら、また涙が滲んできてしまった。どうにも今日は涙もろい。バレないようにと願っても、やっぱり桃真にはお見通しで。鏡みたいに泣きそうな顔をした桃真が、こちらを覗きこんでくる。
「希色? また泣けてきちゃった?」
指先をきゅっと握りこまれて、オレもそっと握り返す。
「うん……オレ、すごく幸せだなって思って」
桃真が色づけたカラフルな世界で、オレはとびきりの幸せ者だ。
四人で声を潜めつつ談笑していると、仕事を終えた桃真がやってきた。空いている席から椅子を持ってきて、翠くんとオレの間に押しこんでくる。
「桃真。お疲れ様」
「さんきゅ。希色もお疲れ」
「あれ、桃真はコーヒーないの?」
「みんな飲み終わる頃だろうと思って」
「そっか。オレのでよかったら飲む? 飲みかけだしもうぬるくなっちゃったけど、桃真が作ったの美味しいよ」
「じゃあひとくち貰う」
カップを差し出すと、オレの手ごと掴まれてしまった。ドキドキしつつ、飲みやすいようにと手から力を抜く。口をつけながら上目にオレを見て、桃真がほほ笑む。
憧れで推しで、特別な友だちで……それから、恋人で。ひとりとひとりなのに、様々な関係で桃真と繋がっている。このコーヒーショップは、それをより強く感じられる特別な場所になった。苦いはずのコーヒーが最近はなんだか、腹に落ちてくる頃には甘い気さえする。
「ねえねえ、佐々木くん川合くん。このふたりって、学校でもこの感じなんだって?」
「ですね、もはやデフォっすよ。もうつっこむのも諦めたよな。本人たちが楽しそうだし」
「それなー。土屋がこんなに誰かに構ってんのはめっちゃ新鮮っすけど、友だちとしては嬉しいっていうか。よく笑うようになったし」
「なるほどね」
「てか俺、さっきからめっちゃ気になってるんすけど……土屋、日比谷さんのこと“みど兄”って呼びませんでした?」
「ああ、うん。俺と桃真はいとこだから」
「……え?」
「はぁ!? いとこ!?」
川合くんの大きな声に、慌てた顔をした佐々木くんが川合くんの背を叩いた。川合くんはハッとしたように口を手で覆う。その気持すごく分かるよ、とオレはただただ頷く。翠くんはと言えばケラケラと笑って、そんなに気を使わないでいいよとふたりに笑顔を向けている。
三人が仲良くなったみたいで、なんだかオレまで嬉しい。眺めていると、桃真がこちらを見ていることに気づく。目が合えば「楽しいな」とニッと笑って、頭を撫でてくれた。
ああ、この時間を大事に思っているのは自分だけじゃないんだ。当たり前かもしれないそんなことに、オレはそっと息を飲む。だってオレには、高校の三年間をひとりで過ごすと決意した、中三の冬があるから。改めて四人の顔を見渡すと、なんだか胸がいっぱいになってきた。鼻がツンと痛んで、視界がぼやけだす。それを見逃さないのは、やはり桃真だ。
「希色? どうした?」
「桃真にはちょっと話したことあるけど……オレ、高校なんていつ辞めてもいいって思ってたんだ」
桃真だけじゃなく翠くん、川合くんと佐々木くんもオレを見ている。伝えたいと思った気持ちを、ここにいるみんなは絶対に受け取ってくれる。そう信じられる自分に出逢えたことは、オレにとって奇跡だ。
「小学生の頃、友だちだと思ってた子から、顔が女みたいだって冷やかされたんだ。他のみんなもそれに乗っかって、からかわれて……あっという間にコンプレックスになって、中学もずっと辛かった。だから前髪伸ばして顔を隠して、同級生が誰も行かない高校を選んだ。それで誰とも関わらなかったら、もう傷つかずに済むって思ったから。でも……オレ今、すごく楽しい」
「希色……」
「桃真が友だちになろうって言ってくれてなかったら、こんな今、絶対になかったよ。だから、ありがとう。みんなの顔見てたらなんか、感動しちゃって。みんなに聞いてほしくなった」
モデルをしていると明かしても、顔を隠す理由は伝えたことがなかった。小学生の自分が、胸の奥底で顔を上げて笑ってくれた気がする。
堪えきれずに鼻を啜ると、桃真の大きな手に頬を包まれた。優しい親指が、にじんだ涙をさらってゆく。開ける視界に映るのは、みんなのやわらかな顔で。泣き顔を恥ずかしく思う暇もなく、手が次々に伸びてきて髪をかき混ぜられてしまった。
「う、うわ、ちょ、みんな! ボサボサになっちゃう!」
「望月~これからも学校楽しもうな!」
「土屋もいいけど、俺らとも遊ぶんだからな」
「えへへ、うん。よろしくお願いします」
川合くんと佐々木くんが手を掲げてくれて、ハイタッチをする。ふと翠くんを見ると、その瞳がうるうると潤んでいる。翠くんのそんな顔は初めて見た。
「なんだろこの気持ち、希色はもはや息子かもしんない。桃真ちょっとどいて、希色ハグするから」
「却下。みど兄は希色に触りすぎ」
「はあ? 桃真にだけは言われたくないけど!?」
「はいはい、うるさい」
たわむれたり、途切れることなくおしゃべりをしたり、時には言い合いをしてみたり。オレの目の前に広がる世界は、あたたかくて賑やかだ。でもそうか、オレもこの輪の、確かにひとつのピースなんだ。そんなことを考えていたら、また涙が滲んできてしまった。どうにも今日は涙もろい。バレないようにと願っても、やっぱり桃真にはお見通しで。鏡みたいに泣きそうな顔をした桃真が、こちらを覗きこんでくる。
「希色? また泣けてきちゃった?」
指先をきゅっと握りこまれて、オレもそっと握り返す。
「うん……オレ、すごく幸せだなって思って」
桃真が色づけたカラフルな世界で、オレはとびきりの幸せ者だ。
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