【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜

星寝むぎ

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大切にしたい

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「ど、どした」
「あの、カラオケ」
「ああ、ほんと気にすんなって。別に、絶対行きたいってわけじゃなかったから」
「はい、でも……いつか一緒に行きたいっす、モモ先輩と」
「カラオケに?」
「っす。オレの心の準備ができたらって言うか……」
「もっと仲良くなったら? とか?」
「…………!」

 いつかの瀬名の言葉を真似てそう言うと、瀬名はまた顔を赤らめた。なんだか今日は、今までに見たことのない瀬名にたくさん出逢っている気がする。だが言ってから気づく。瀬名が言った“もっと仲良く”は、恋人になるという意味だった。

「あー、ごめん、今のな……」
「取り消しはなしっすよ」
「う……」

 形勢逆転だ。つい今しがたまで、こちらが助け舟を出していたはずなのに。イニシアティブが瀬名に移ったみたいだ。あっという間に指先が瀬名の手に包みこまれる。

「あ、ばか、近いって」
「嫌っすか?」
「嫌、じゃねえけど……」
「もっと仲良くなれたら、お願いします。カラオケ」
「…………」
「約束。いいっすか?」
「……そんな日が来たら、な」
「はは、やった」

 罪悪感がちくりと桃輔の胸を刺す。だってそんな日が来ることはない。自分が応えないからではなく、瀬名から離れていくのだ。

 今日はただ楽しめたらと思ってきたのに、墓穴を掘ってしまった。それを払拭したくて、瀬名の手を握り直して引っ張る。

「ほら、ゲーセン行くんだろ」
「はい。オレ結構得意なんすよ、クレーンゲーム」
「マジ? すげーじゃん。俺へたくそなんだよなあ」
「先輩が欲しいのあったら、オレが取ってあげます」

 瀬名の纏う雰囲気が、一瞬で元に戻って安堵する。得意げに顎を上げてみせる瀬名を肘で小突いて、戯れる。気安い間柄でいられる、こんな今が居心地いい。


 ショッピングモールを出て、駅までの道を歩く。時刻はもうすぐで18時になるところだ。思いのほかゲームセンターでたっぷりと遊んで、小腹が空いたということでドーナツを食べた。心と一緒に腹まで満ち足りている帰り道だ。

「瀬名ほんと上手いのな、クレーンゲーム」
「モモ先輩も結構上手でしたよ」
「瀬名のアドバイスありきだけどな」

 桃輔の手には、大きな袋がぶら下がっている。中にはゲームセンターで瀬名が獲得した大量のお菓子と、抱き枕にでもできそうなくらい大きい猫のぬいぐるみ。こんなにたくさんもらうのは気が引けるのに、先輩のために獲ったとあの犬みたいな顔で言われたら、断ることなんてできなかった。

 だが瀬名が獲ってくれたものの中でもいちばんのお気に入りは、この袋の中にはない。スマートフォンにぶら下がっている。もう何度も眺めている猫のぬいぐるみストラップをまた見ていると、隣の瀬名がくすりと笑った。

「めっちゃ気に入ってくれてますね」
「うん、すげーかわいい」
「よかった。オレも気に入ってます。先輩が獲ってくれたヤツだし、おそろいだし」

 そう言って、瀬名もスマートフォンを取り出す。そこにあるのは、桃輔のと同じものだ。

 桃輔のものは、瀬名が獲ってくれた。反対に瀬名のものは、アドバイスを貰いながら桃輔が獲った。たった2回で獲得した瀬名と違い、8回を要してしまったが。2つ下の後輩はなんでもスマートにできて、なんだかちょっと憎らしい気さえする。

「ちなみにそれ、俺の初ゲットだから」
「え、そうだったんすか!? うわー、先輩の初めてか」
「そう。大事にしろよな」

 わざと恩着せがましく、ニヤリと笑ってみせた。だが瀬名は目を丸くして、キラキラと目を輝かせ始める。

「うん。宝物にするっす」
「はは、それは大袈裟すぎ」
「なに言ってんすか、オレは至って真面目っすよ。おそろいなのも最高だし」
「そっか。うん、俺も大事にする」

 おそろいのぬいぐるみをポケットから揺らしながら、鈍行の電車に乗りこむ。桃輔の家は、急行の停まらない駅が最寄りだ。
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