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大切にしたい
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「瀬名んちの最寄りってどこだっけ。同じ電車でよかったのか?」
「オレは学校の最寄りと同じっす」
「あ、そうなん? 家あの辺なんだ」
「ですね。徒歩圏内です」
「へえ、近いのいいな。てか、じゃあ急行でよかったんじゃん。乗る前に聞けばよかったな、ごめん」
「大丈夫っす。先輩ともっと一緒にいたいから、普通に一緒のに乗るつもりだったし」
「お前……恥ずかしいな」
「えー? あざす」
「全然褒めてないけど?」
ドアの近くに立ちながら、周りの迷惑にならないようにと小声で会話する。そんなことすらいつもと違うなと感じ取って、逐一大事に思えるのは新鮮だ。
妙なことを言う瀬名の腹にそっとパンチを当てれば、距離を詰められる。
「だって、恥ずかしいってことは意識してくれたってことっすよね」
「は……?」
「オレが先輩を“そういう意味”で好きだってこと、ちゃんと忘れないでいてくれてるんだなって」
「……うるせ」
「はは。ちなみに先輩はどこで降りるんですか?」
「俺はここからあと4駅のとこ」
「じゃあ先輩のほうが降りるの先っすね」
「そうだな」
そこからはお互いに、なにも話さなくなった。ただ電車に揺られて、夕焼けに染まりはじめる町を興味もないのに眺めて。
そうしていると4駅なんてあっという間だった。じきに到着だと車内アナウンスが入る。
「瀬名、今日めっちゃ楽しかった。ありがとな」
「こちらこそです。また会えますか?」
「夏休み中に?」
「はい」
「バイトのシフト確認して、あとで連絡する」
電車が停止し、ドアが開く。じゃあなと手を振ると、瀬名はまたあのしゅんと眉を下げた顔をする。帰ったらすぐに、連絡を入れよう。そう思ったのだが――
「やっぱ無理、今一緒にいたいです」
「へ……いやいや」
「だめっすか?」
「だめっすかってお前、電車行っちゃったじゃん!」
ドアが閉まる寸前、瀬名はホームに降り立ってしまった。呆然とする桃輔をよそに、瀬名は平然とした顔をしている。
「モモ先輩の家、門限あります?」
「……いや、特にないけど」
「じゃあもうちょっとだけ。公園とかで喋るのどうっすか? あ、この辺にあります? 公園」
「…………」
「先輩?」
「ふ、あははっ! 瀬名ってほんと、面白え」
「えー、そんな笑うとこ?」
まさかこんなことになるとは思ってもみなかった。こみ上げてくる笑いをどうにか抑えたくても、なかなかうまくいかない。だって、こんなヤツ初めてなのだ。
自由奔放で、けれどまっすぐで。そんな根のいい人間に懐かれて、嫌なはずがなかった。胸の中が目映い光でいっぱいになっている。
不服そうにくちびるを尖らせる瀬名の頭に、少しかかとをあげて手を乗せる。わしゃわしゃと犬にするように撫でると、瀬名はくすぐったそうに肩を竦めた。
「強引だよな、瀬名って。まあそんなの最初からだけど」
「う……すみません」
「嫌とは言ってないだろ」
「え」
「ほら、行くぞ。公園ならすぐそこにある」
一緒の電車から降りた人たちは、すでに改札を抜けた頃だろう。周りに自分たち以外誰もおらず、夕焼けのホームに声がよく通る。
「なあ瀬名、負けたほうがジュース奢りでどうだ?」
「へ? 奢るのはいいっすけど、なんの勝負……」
「お先!」
ニヤリと笑ってみせてから、一気に走り出した。気分が高揚しているのだと、自分でよく分かる。
「あ、先輩ずりい! 待って!」
「待たなーい! 公園がゴールな!」
ふたりして競うように改札を出て、公園へ入った。遊具で遊ぶ子どもたちの姿はひとりもない。
「はあっ、俺の勝ち、だな」
「くっそ……色々ずるい気がするんすけど」
「まあそれはそう」
勝負はタッチの差で桃輔の勝ち。だがそれも無理はない。先に走り出したのはもちろん、公園の場所を瀬名は知らないのだから。桃輔の後をついてくるしかなかった。
息を整える瀬名を横目に、公園内の自動販売機に小銭を入れる。瀬名はさっきコーヒーを飲んでいたが、走った後だからと水を2本購入した。
「はい、水」
「え。負けたのオレっすよ」
「いいんだよ、走って楽しかったし。これ、いっぱいもらったし。お礼」
「ええ、そんなんよかったのに……いいんすか?」
「うん。なあ、あそこのベンチ座ろ」
「あざす、じゃあいただきます」
「オレは学校の最寄りと同じっす」
「あ、そうなん? 家あの辺なんだ」
「ですね。徒歩圏内です」
「へえ、近いのいいな。てか、じゃあ急行でよかったんじゃん。乗る前に聞けばよかったな、ごめん」
「大丈夫っす。先輩ともっと一緒にいたいから、普通に一緒のに乗るつもりだったし」
「お前……恥ずかしいな」
「えー? あざす」
「全然褒めてないけど?」
ドアの近くに立ちながら、周りの迷惑にならないようにと小声で会話する。そんなことすらいつもと違うなと感じ取って、逐一大事に思えるのは新鮮だ。
妙なことを言う瀬名の腹にそっとパンチを当てれば、距離を詰められる。
「だって、恥ずかしいってことは意識してくれたってことっすよね」
「は……?」
「オレが先輩を“そういう意味”で好きだってこと、ちゃんと忘れないでいてくれてるんだなって」
「……うるせ」
「はは。ちなみに先輩はどこで降りるんですか?」
「俺はここからあと4駅のとこ」
「じゃあ先輩のほうが降りるの先っすね」
「そうだな」
そこからはお互いに、なにも話さなくなった。ただ電車に揺られて、夕焼けに染まりはじめる町を興味もないのに眺めて。
そうしていると4駅なんてあっという間だった。じきに到着だと車内アナウンスが入る。
「瀬名、今日めっちゃ楽しかった。ありがとな」
「こちらこそです。また会えますか?」
「夏休み中に?」
「はい」
「バイトのシフト確認して、あとで連絡する」
電車が停止し、ドアが開く。じゃあなと手を振ると、瀬名はまたあのしゅんと眉を下げた顔をする。帰ったらすぐに、連絡を入れよう。そう思ったのだが――
「やっぱ無理、今一緒にいたいです」
「へ……いやいや」
「だめっすか?」
「だめっすかってお前、電車行っちゃったじゃん!」
ドアが閉まる寸前、瀬名はホームに降り立ってしまった。呆然とする桃輔をよそに、瀬名は平然とした顔をしている。
「モモ先輩の家、門限あります?」
「……いや、特にないけど」
「じゃあもうちょっとだけ。公園とかで喋るのどうっすか? あ、この辺にあります? 公園」
「…………」
「先輩?」
「ふ、あははっ! 瀬名ってほんと、面白え」
「えー、そんな笑うとこ?」
まさかこんなことになるとは思ってもみなかった。こみ上げてくる笑いをどうにか抑えたくても、なかなかうまくいかない。だって、こんなヤツ初めてなのだ。
自由奔放で、けれどまっすぐで。そんな根のいい人間に懐かれて、嫌なはずがなかった。胸の中が目映い光でいっぱいになっている。
不服そうにくちびるを尖らせる瀬名の頭に、少しかかとをあげて手を乗せる。わしゃわしゃと犬にするように撫でると、瀬名はくすぐったそうに肩を竦めた。
「強引だよな、瀬名って。まあそんなの最初からだけど」
「う……すみません」
「嫌とは言ってないだろ」
「え」
「ほら、行くぞ。公園ならすぐそこにある」
一緒の電車から降りた人たちは、すでに改札を抜けた頃だろう。周りに自分たち以外誰もおらず、夕焼けのホームに声がよく通る。
「なあ瀬名、負けたほうがジュース奢りでどうだ?」
「へ? 奢るのはいいっすけど、なんの勝負……」
「お先!」
ニヤリと笑ってみせてから、一気に走り出した。気分が高揚しているのだと、自分でよく分かる。
「あ、先輩ずりい! 待って!」
「待たなーい! 公園がゴールな!」
ふたりして競うように改札を出て、公園へ入った。遊具で遊ぶ子どもたちの姿はひとりもない。
「はあっ、俺の勝ち、だな」
「くっそ……色々ずるい気がするんすけど」
「まあそれはそう」
勝負はタッチの差で桃輔の勝ち。だがそれも無理はない。先に走り出したのはもちろん、公園の場所を瀬名は知らないのだから。桃輔の後をついてくるしかなかった。
息を整える瀬名を横目に、公園内の自動販売機に小銭を入れる。瀬名はさっきコーヒーを飲んでいたが、走った後だからと水を2本購入した。
「はい、水」
「え。負けたのオレっすよ」
「いいんだよ、走って楽しかったし。これ、いっぱいもらったし。お礼」
「ええ、そんなんよかったのに……いいんすか?」
「うん。なあ、あそこのベンチ座ろ」
「あざす、じゃあいただきます」
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