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ブルージーも唄えない
1
「今日から俺も教室で昼飯食う」
「え……どうした!?」
「モモ?」
体育祭が終わって、土日を挟んで迎えた月曜日。昼休み、森本と尾方にそう宣言すると、大袈裟なくらいに目を大きく見開かれた。ついムッとするが、それも仕方がないとよく分かっている。昼休みを屋上前で過ごすのは、入学してからずっと続く習慣だったから。
「別に……もうすぐ卒業だし、教室でも食っとこうかな、みたいな?」
「みたいな、って……いや俺らは一緒に食えんの嬉しいけどさ。瀬名くんは? いいのか?」
「あー……うん、だいじょう……」
「おーい、笹原ー」
大丈夫、と言いかけたところで、クラスの女子に名前を呼ばれた。何事かと声のしたほうを見ると、教室の前の入り口のところに瀬名の姿があった。反射的に体が強張って、思わず目を逸らしてしまった。桃輔は無意識に、くちびるを強く噛む。
「いや瀬名くん来てんじゃん」
「言ってなかったん?」
「…………」
瀬名からは、あれから何度も連絡が入っている。メッセージは軽く10通を超え、通話のコールも何度も鳴っていた。だがそのメッセージを開くことも、通話に応じることも一切していない。こわくてできなかった。
「なあ、瀬名くんもここで食えばいいんじゃね?」
「っ、それは、無理」
「……なんだか知らねえけど、俺言ってくるわ。モモはここで食うらしいって。それでいいんだよな?」
「ごめん、助かる……」
合わせる顔がなく俯いていると、尾方が気を利かせてくれた。入り口のほうへと向かう尾方の一歩一歩ごとに、胸が強張る。
説明してくれている尾方の声は薄らと届いてくるが、瀬名の声は聞こえない。終わったらしい会話に恐る恐る顔を上げると、背中を丸めて帰っていく瀬名が見えた。ああさせてしまったのは、自分のせい。罪悪感に苛まれるが、どうしてやることもできない。
「瀬名くん、分かったって。ライン見て、連絡ほしいって言ってたぞ」
「……ん」
「どうしたんだよモモ~、喧嘩でもした?」
「喧嘩っつうか……俺が全部悪い。もう俺は関わらないほうが、アイツは幸せになれんだよ」
「なんだそれ……そんな深刻な話? なにがあったか聞かないほうがいいヤツ?」
「……ん、ごめん」
「そっか……分かった」
瀬名への恋情を痛いくらいに自覚するほど、とんでもないことをしてしまったのだなとそればかりを考える。こんな風に胸をいっぱいにして、瀬名は桜輔を好きなのだ。悪戯心なんてうっかり働かせて、人違いだとすぐに教えなかったから。瀬名は約半年という貴重な時間を、無駄にしてしまった。
手を繋ぐのもキスがしたいと勇気を振り絞ってねだってみるのも、瀬名にとって桜輔としたかったことなのに。いつか返す、なんて決意とも呼べない逃げ道を作って、瀬名から奪ってしまった。そんな自分が瀬名のためにできることなんて、消えること以外にあるわけがない。
「よし! じゃあ、飯食うか!」
「だな。そうだ、モモ知ってたか? 森本のヤツ、最近コロッケパンにハマってそればっか食ってんだぞ」
「へえ。知らなかった」
「モモも今度食ってみろよ、すげー美味いから」
「でもさ、そんなに毎日食ったらさすがに飽きね? 俺見てるだけなのに、もう飽きた」
「全然飽きねー!」
森本と尾方に気を使わせて悪いと思う反面、その優しさがひしひしと身に沁みる。失恋した、とそれだけのことが言えずにいるのに、そっとしておいてくれるのがどれほどありがたいか。飲みこみ切れない涙を見られたくなくて、弁当をゆっくり開くふりをしてそっと鼻を啜った。
「え……どうした!?」
「モモ?」
体育祭が終わって、土日を挟んで迎えた月曜日。昼休み、森本と尾方にそう宣言すると、大袈裟なくらいに目を大きく見開かれた。ついムッとするが、それも仕方がないとよく分かっている。昼休みを屋上前で過ごすのは、入学してからずっと続く習慣だったから。
「別に……もうすぐ卒業だし、教室でも食っとこうかな、みたいな?」
「みたいな、って……いや俺らは一緒に食えんの嬉しいけどさ。瀬名くんは? いいのか?」
「あー……うん、だいじょう……」
「おーい、笹原ー」
大丈夫、と言いかけたところで、クラスの女子に名前を呼ばれた。何事かと声のしたほうを見ると、教室の前の入り口のところに瀬名の姿があった。反射的に体が強張って、思わず目を逸らしてしまった。桃輔は無意識に、くちびるを強く噛む。
「いや瀬名くん来てんじゃん」
「言ってなかったん?」
「…………」
瀬名からは、あれから何度も連絡が入っている。メッセージは軽く10通を超え、通話のコールも何度も鳴っていた。だがそのメッセージを開くことも、通話に応じることも一切していない。こわくてできなかった。
「なあ、瀬名くんもここで食えばいいんじゃね?」
「っ、それは、無理」
「……なんだか知らねえけど、俺言ってくるわ。モモはここで食うらしいって。それでいいんだよな?」
「ごめん、助かる……」
合わせる顔がなく俯いていると、尾方が気を利かせてくれた。入り口のほうへと向かう尾方の一歩一歩ごとに、胸が強張る。
説明してくれている尾方の声は薄らと届いてくるが、瀬名の声は聞こえない。終わったらしい会話に恐る恐る顔を上げると、背中を丸めて帰っていく瀬名が見えた。ああさせてしまったのは、自分のせい。罪悪感に苛まれるが、どうしてやることもできない。
「瀬名くん、分かったって。ライン見て、連絡ほしいって言ってたぞ」
「……ん」
「どうしたんだよモモ~、喧嘩でもした?」
「喧嘩っつうか……俺が全部悪い。もう俺は関わらないほうが、アイツは幸せになれんだよ」
「なんだそれ……そんな深刻な話? なにがあったか聞かないほうがいいヤツ?」
「……ん、ごめん」
「そっか……分かった」
瀬名への恋情を痛いくらいに自覚するほど、とんでもないことをしてしまったのだなとそればかりを考える。こんな風に胸をいっぱいにして、瀬名は桜輔を好きなのだ。悪戯心なんてうっかり働かせて、人違いだとすぐに教えなかったから。瀬名は約半年という貴重な時間を、無駄にしてしまった。
手を繋ぐのもキスがしたいと勇気を振り絞ってねだってみるのも、瀬名にとって桜輔としたかったことなのに。いつか返す、なんて決意とも呼べない逃げ道を作って、瀬名から奪ってしまった。そんな自分が瀬名のためにできることなんて、消えること以外にあるわけがない。
「よし! じゃあ、飯食うか!」
「だな。そうだ、モモ知ってたか? 森本のヤツ、最近コロッケパンにハマってそればっか食ってんだぞ」
「へえ。知らなかった」
「モモも今度食ってみろよ、すげー美味いから」
「でもさ、そんなに毎日食ったらさすがに飽きね? 俺見てるだけなのに、もう飽きた」
「全然飽きねー!」
森本と尾方に気を使わせて悪いと思う反面、その優しさがひしひしと身に沁みる。失恋した、とそれだけのことが言えずにいるのに、そっとしておいてくれるのがどれほどありがたいか。飲みこみ切れない涙を見られたくなくて、弁当をゆっくり開くふりをしてそっと鼻を啜った。
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