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羽根が生えたって本気で思った
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瀬名は今や彼氏で、桜輔は双子の兄弟だ。本当に気に入って聴いてくれているのは伝わっているが、それでもやはり贔屓目はあるだろう。
「前にDMで言ったことあるんすけど、ユーチューブにもあげてみませんか? あそこは動画に特化してるから、強いはずです」
「あー、いや……」
「それはマストだよね。あとは、投稿時間もちゃんと考えたほうがいい。モモ、いつも動画撮れたらすぐに投稿してるでしょ? 時間とか気にせず」
「う……」
「編集ももっと力入れたいっすよね。定点もいいけどMVっぽく撮ったり、タイトル入れたりとか」
「それ、すごくいいと思う。あとは宣伝として、他のSNSもやろう」
「いいっすね。オレ、協力ならなんでもします!」
「俺もそのつもりだよ」
「ちょ、ちょっと待った!」
ふたりの指摘は全部もっともだ。ユーチューブへの投稿も、考えたことがなかったわけじゃないけれど。
他人と比べられることを恐れ、見て見ぬふりをしてきた。だが、そうも言ってられないとも思い始めていた。まだ誰にも打ち明けていないが、本格的に音楽の道へ挑戦したいと考え始めているからだ。初めてのオリジナル楽曲を完成させることができて、奏でたい音楽が次々に溢れてきている。
この想いをふたりに伝えてしまおうか。決意を持って顔を上げれば、瀬名と桜輔が勝ち気な笑みを浮かべていた。ああ、なんて心強いのだろう。
「……俺さ、実は、音楽をちゃんとやりたいって考えてた。だから、瀬名と桜輔が……アンミツとcherryもだな。真剣に考えてくれてて、すげー嬉しい。自分ひとりじゃできなかったこと、ふたりがいたらできるのかもな」
「モモ先輩!」
「わっ、ちょ、瀬名!」
照れくさいながらも言い切ったら、思わずといった様子で瀬名が抱きついてきた。桜輔の前で、と慌てたが、瀬名の肩の向こうに微笑んでいる桜輔が見える。自分にはお構いなく、と言いたげな見守る態度がありがたいような、余計に居心地が悪いような。妙な気持ちでいると、桜輔が立ち上がって瀬名の肩をポンとたたく。先ほどまでとは打って変わって、なにか目論んでいるような意味深な笑みを覗かせている。
「ねえ水沢くん、俺もモモのことハグしたいなあ」
「は? 桜輔お前なに言って……」
「ちょっと桜輔先輩、今はオレに譲ってくださいよ」
「いやまずは俺じゃない? 悪いけど、こっちは母親のお腹の中から一緒なんだよね」
「ちょ、年月マウントやめてください。絶対敵わないじゃん」
「……ふ。あははっ」
「モモ先輩?」
「モモ?」
桜輔はただ瀬名をおちょくっているだけだ。だが瀬名はそんなことには気づかず、真っ向から受け取ってしまう。今真剣な話をしていたのにな、となんだか拍子抜けしてしまう。するとふたりがきょとんとした顔をするから、ますます笑うのをやめられない。
「あー、笑ったー」
ひとしきり笑ったら、改めてふたりに感謝を伝えたくなった。
「あのさ、瀬名、ありがとうな。お前に出逢えてよかった」
「モモ先輩……」
まずは、と瀬名をまっすぐに見る。眉間をくしゅっと寄せる瀬名の髪を撫でる。
桜輔へ抱いてきた劣等感は、ずいぶんと膨れ上がっていた。だからだったのだろう、まっすぐ向けてくれていた瀬名の気持ちも、まさか本当に自分のことだとはにわかには信じられなかった。それでも腐らず想い続けてくれていた瀬名に、恋心は今も大きくなり続けている。
続いて、桜輔に視線を移す。
「桜輔も……今までその、色々ごめん。本当は俺も思ってる、大事な兄弟だって」
「モモ……」
まともに会話することすら拒んできた間だって、桜輔はどうしようもない弟をしっかり見てくれていた。今では真面目なだけではない、こんなふざけたこともしかけてくる。そういえば、そういう兄だったな。じゃれるのが大好きで懐っこくて、いつもいつも一緒だった。それが好きだった。
これから先、趣味だった音楽が歩む道になる。その道には、瀬名と桜輔のあたたかな手が添えられている。
今までみたいにはしない。音楽は絶対に手放さない。もう比べられることから逃げない。なにがあったってこれが俺だ、と力強く立っていたい。そういられる気がする。このふたりと出逢えたからだ。どこまでも飛べる、そう思える。
今度は二人の顔を交互に見て、強く頷いてみせた。
「俺、頑張るよ。絶対に諦めない」
「っ、モモ先輩……すげーかっこいいっす!」
「モモ~! モモは自慢の弟だよ、今までもこれからも」
こみ上げてしまった涙ごと笑えば、瀬名も鼻を啜って、桜輔はその手で髪を撫でてきた。おまけのように瀬名も髪をかき混ぜられ、最後にはふたりまとめるように桜輔が抱きついてくる。
「はは、なんか……すげー幸せかも」
ついそんな言葉をもらしたら、瀬名も桜輔もそうだねと笑った。
「前にDMで言ったことあるんすけど、ユーチューブにもあげてみませんか? あそこは動画に特化してるから、強いはずです」
「あー、いや……」
「それはマストだよね。あとは、投稿時間もちゃんと考えたほうがいい。モモ、いつも動画撮れたらすぐに投稿してるでしょ? 時間とか気にせず」
「う……」
「編集ももっと力入れたいっすよね。定点もいいけどMVっぽく撮ったり、タイトル入れたりとか」
「それ、すごくいいと思う。あとは宣伝として、他のSNSもやろう」
「いいっすね。オレ、協力ならなんでもします!」
「俺もそのつもりだよ」
「ちょ、ちょっと待った!」
ふたりの指摘は全部もっともだ。ユーチューブへの投稿も、考えたことがなかったわけじゃないけれど。
他人と比べられることを恐れ、見て見ぬふりをしてきた。だが、そうも言ってられないとも思い始めていた。まだ誰にも打ち明けていないが、本格的に音楽の道へ挑戦したいと考え始めているからだ。初めてのオリジナル楽曲を完成させることができて、奏でたい音楽が次々に溢れてきている。
この想いをふたりに伝えてしまおうか。決意を持って顔を上げれば、瀬名と桜輔が勝ち気な笑みを浮かべていた。ああ、なんて心強いのだろう。
「……俺さ、実は、音楽をちゃんとやりたいって考えてた。だから、瀬名と桜輔が……アンミツとcherryもだな。真剣に考えてくれてて、すげー嬉しい。自分ひとりじゃできなかったこと、ふたりがいたらできるのかもな」
「モモ先輩!」
「わっ、ちょ、瀬名!」
照れくさいながらも言い切ったら、思わずといった様子で瀬名が抱きついてきた。桜輔の前で、と慌てたが、瀬名の肩の向こうに微笑んでいる桜輔が見える。自分にはお構いなく、と言いたげな見守る態度がありがたいような、余計に居心地が悪いような。妙な気持ちでいると、桜輔が立ち上がって瀬名の肩をポンとたたく。先ほどまでとは打って変わって、なにか目論んでいるような意味深な笑みを覗かせている。
「ねえ水沢くん、俺もモモのことハグしたいなあ」
「は? 桜輔お前なに言って……」
「ちょっと桜輔先輩、今はオレに譲ってくださいよ」
「いやまずは俺じゃない? 悪いけど、こっちは母親のお腹の中から一緒なんだよね」
「ちょ、年月マウントやめてください。絶対敵わないじゃん」
「……ふ。あははっ」
「モモ先輩?」
「モモ?」
桜輔はただ瀬名をおちょくっているだけだ。だが瀬名はそんなことには気づかず、真っ向から受け取ってしまう。今真剣な話をしていたのにな、となんだか拍子抜けしてしまう。するとふたりがきょとんとした顔をするから、ますます笑うのをやめられない。
「あー、笑ったー」
ひとしきり笑ったら、改めてふたりに感謝を伝えたくなった。
「あのさ、瀬名、ありがとうな。お前に出逢えてよかった」
「モモ先輩……」
まずは、と瀬名をまっすぐに見る。眉間をくしゅっと寄せる瀬名の髪を撫でる。
桜輔へ抱いてきた劣等感は、ずいぶんと膨れ上がっていた。だからだったのだろう、まっすぐ向けてくれていた瀬名の気持ちも、まさか本当に自分のことだとはにわかには信じられなかった。それでも腐らず想い続けてくれていた瀬名に、恋心は今も大きくなり続けている。
続いて、桜輔に視線を移す。
「桜輔も……今までその、色々ごめん。本当は俺も思ってる、大事な兄弟だって」
「モモ……」
まともに会話することすら拒んできた間だって、桜輔はどうしようもない弟をしっかり見てくれていた。今では真面目なだけではない、こんなふざけたこともしかけてくる。そういえば、そういう兄だったな。じゃれるのが大好きで懐っこくて、いつもいつも一緒だった。それが好きだった。
これから先、趣味だった音楽が歩む道になる。その道には、瀬名と桜輔のあたたかな手が添えられている。
今までみたいにはしない。音楽は絶対に手放さない。もう比べられることから逃げない。なにがあったってこれが俺だ、と力強く立っていたい。そういられる気がする。このふたりと出逢えたからだ。どこまでも飛べる、そう思える。
今度は二人の顔を交互に見て、強く頷いてみせた。
「俺、頑張るよ。絶対に諦めない」
「っ、モモ先輩……すげーかっこいいっす!」
「モモ~! モモは自慢の弟だよ、今までもこれからも」
こみ上げてしまった涙ごと笑えば、瀬名も鼻を啜って、桜輔はその手で髪を撫でてきた。おまけのように瀬名も髪をかき混ぜられ、最後にはふたりまとめるように桜輔が抱きついてくる。
「はは、なんか……すげー幸せかも」
ついそんな言葉をもらしたら、瀬名も桜輔もそうだねと笑った。
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