天使のお迎え〜転生BLに憧れる僕の、美しい義兄弟から愛される生活〜

星寝むぎ

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彗星が落ちてくる

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 ほほ笑んだ彗が、杏樹の頭をそっと撫でる。混乱していた心がいくらか落ち着いて、でも彗に触れられていることにドキドキして。そうしてようやく、目の前に流星夜野がいるのだという現実がじわじわと染みこんでくる。居た堪れなくなってきて、杏樹は俯いてしまう。

「鈴原? どうした?」
「いや、なんか急に恥ずかしくなってきて……」
「恥ずかしい?」
「だ、だって僕……夜野先生本人に、感想を語ってたってことだよね? すごく夢中で話してた気がする……」
「ああ、うん。だな。直接感想聞けるなんて初めてだし、しかも鈴原からだし。内心めっちゃテンション上がってた。鈴原、細かいところまで読みこんでくれてるから。すげー嬉しかった」
「うう、忘れてください……」
「それは無理。俺にとって、鈴原の感想は宝ものだから。なあ鈴原、こっち向いて?」
「それは……僕も無理、です」
「ふ、なんだそれ。かわいい。でも、頼む。鈴原」
「わっ」

 耳元で名前を呼ばれたかと思ったら、額同士が重ねられた。ソファの上にあった少しの隙間がなくなって、そっと抱き寄せられている。

「彗、くん……近いよ」
「だめ?」
「だめ、じゃないけど。恥ずかしい」
「うん、俺も。でもこうしてたい。鈴原がイヤならやめる」
「イヤなわけじゃ……でも、ドキドキしすぎて身が持たないよ」
「そっか。じゃあ、このままドキドキしてて」
「そんな……」

 彗がそっと額を揺らして、前髪同士が混ざる。肌が触れ合って、火照った熱まで伝わりそうだ。至近距離に彗の美しい顔があるのもどうにかなりそうで、目をぎゅっとつむってしまう。

「前にさ、鈴原に力もらってるって言ったじゃん?」

 やわらかな声で、彗がそう問うてくる。

 そのことならよく覚えている。緊張いっぱいで面接を受けて、その場で採用だと言ってもらえて帰った日のことだ。彗が淹れてくれたコーヒーを飲んで、流星夜野の話をした後だった。力を分けられた覚えなんて、全くないけれど。

「うん」
「あの時、前からそうだって言ったの、小説のことなんだ」
「え?」

 確かに彗は、前からそうなのだと言っていた。それこそ全く身に覚えがなかったけれど、どういう意味だか聞くことは叶わずじまいだった。

「鈴原さ、高校生の頃から、投稿サイトでも小説読むようになったって言ってたよな」
「うん」
「あれ、実は知ってた。BL読んでたことも。知らない振りしてごめん」
「え……え!? 嘘……なんで……」

 あまりの衝撃に、杏樹の体はびくんと跳ねた。なぜ、という二文字が頭の中を駆け巡る。

「俺さ、周りに流されず静かに本を読んでる鈴原に、憧れてたんだと思う。俺も読書が好きだけど、だせぇとか言われそうでダチには言えなかったから。だけどいつの間にか、本じゃなくてスマホを見てる時間が増えてるなあって気になってて。鈴原のクラスのヤツに用があって行った時……ごめん、どうしても気になって後ろから覗き見した。あ、小説読んでんだ、って分かってなんかホッとして。タイトル必死に覚えて、すぐ検索したらBLだった。……って、言葉にするとマジでやばいヤツだよな。ストーカーじゃん、本当にごめん。引いた? よな」

 少しハスキーに揺れる彗の声に、懺悔が入り混じって響く。衝撃はまだそのままなほどに驚いているけれど。彗が懸念するような感情は抱いていない。離れようとする彗を、シャツをつまんで引き止める。

「引いたりなんてしてないよ。大丈夫」
「鈴原……」
「他の人に見られてたらどうなってたか分からないけど……彗くんだから」

 彗の体から力が抜けるのが分かった。杏樹も安堵しつつ、恐る恐る尋ねる。
「でも、彗くんのほうこそ引かなかった? その、男がBL読んでて」
「それはない。むしろそれきっかけに、俺も読み始めたし。自分でも書いてみたいって思ったのは、その後。そしたらすげー楽しくて。だから、鈴原がいなかったら、流星夜野もいない。鈴原に前から力もらってる、っていうのはそういうこと。小説書いてない自分とか、もう想像つかないくらい人生の一部だよ。実は、小説家目指してる」
「彗くん……」

 彗はどこか照れくさそうに、ふわりと笑った。まるで花がほころんだみたいだ。あまりの美しさに、頭がくらくらする。それに自分をきっかけに小説を書き始めただなんて、彗が流星夜野だと知ったのと同じくらいの驚きだ。
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