新宿プッシールーム

はなざんまい

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スコティッシュフォールド(3)

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プッシールームは実入りがいい

ミナミは、昼間はカラオケ店でバイトをしているが、それだけではとても生活できない

彼女が出ていったことで、中目黒にある1LDKのマンションが、一夜にして不相応になものになった



「てか、遅刻する!ホントごめんなさいでした!もう行っていい?」

「調子いいなあ。お前、担当何?」

バーテン、もといオーナーの男が聞いた

「…来たりしねーだろうな?」

「いかねーから安心しろ。身分証の代わりみたいなもんだ」

「…スコティッシュフォールド」

「スコティッシュフォールド?確認するからちょっと待ってろ」

そう言うとオーナーの男はスマホを耳に当て、離れたところで電話をし出した

ミナミは聞き耳をたてた

「おう。なんかクルクルした猫ッ毛の、目が真ん丸くてでかい。中学生みたいな。え?28歳?あれで?見た目とかじゃねーよ。行動がやばいんだって」

行動とは、ゴミ箱を蹴っていたことだろう

さすがにいまは反省している

「ナンバー1にしては品性が足りねーよ。お前、ちゃんとしつけとけよな?体がエロい?かんけーねーから」

片方の話だけで、相手が何を話しているかわかり、いてもたってもいられなくなった


「確認取れた。お前、ミナミだな?」

「うす…てかこわっ!誰にかけたの?!」

「だから、オーナーだって」

プッシールームのオーナーなんて、ナンバー1のミナミですら会ったことがない

ミナミが立ち上がると、バーのオーナーの男はまだそれほどふかしていないタバコをもみ消した

「お前さ、これから出勤ある日は2時間前にココ寄れ。仕事させてやる」

「仕事?俺、外でウリはやんねーよ?」

「ちげーよ。まともな仕事就きたいんだろ?」

ミナミは口をつぐんだ

「ま、プッシールームあそこやめたら次は直で掘られる方に転職するしかないだろうな。今までの客を店から連れて独立すれば、結構稼げると思うけどな。まあ、まともに稼げる期間はあと2年ってとこだろうけど」

オーナーの男のミナミを見る目は、なぜか悲しげで険しかった

※※※※※※※※※※※

「よ!」

控え室で、【ロシアンブルー】のリンと鉢合わせた

「5分遅刻。指名客」

リンは、スマホから顔を上げずに言った

「それ、マサトさんにも言われたから」

ミナミはロッカーにバッグを突っ込むと、服を脱いで学ランに着替えた

【マサト】はプッシールームの雇われ店長兼受付兼黒服だ

オーナーから聞いたのか、ミナミが来るなり「お前何したの?」といつもの眠そうな顔で聞いてきた

「なーんもでーす」

マサトを適当にあしらって控え室に来たのに、今度は年下の同僚からも小言を言われる

今日はとことんツイてない日だと思った

ミナミは横目でリンを見た

この陰気な同僚は苦手だ

プッシールームで一番若くて勤務歴も短いのに、やたらと態度がでかく、ひとを見透かしたような喋り方をする

よくも悪くもミナミとは対局に位置した


腹立ち紛れにロッカーのドアを叩きつけるように閉め、ミナミはスコティッシュフォールドの部屋へ向かった


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