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スコティッシュフォールド(4)
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次の日、あのバーのオーナーの男に言われた通り、2時間前にやって来たが、店は開いていなかった
(開いてねーのかよ!)
ミナミはビルの隙間から裏口を覗いた
昨日生ゴミを散乱させた場所は、きれいに片付けられていた
「おい、そこの不審者。通報するぞ」
振り返ると、男が手に買い物袋を提げて立っていた
「お前が来いって行ったんじゃん…」
「冗談だよ、ほら入れば?」
男はウォレットチェーンについている鍵で店のドアを開けた
「…うっす」
ミナミは少しだけ頭を下げて店に入った
店内は昨日のオシャレで落ち着いた雰囲気とは違って、薄暗く、殺風景だった
男はカウンターに買い物袋を置くと、店の奥に消えた
ミナミは店内を見渡した
カウンター席10、テーブル席3、ボックス席3
広すぎもせず、狭すぎもしない、ちょうどいい大きさの店だった
男がモップとバケツを手に戻ってきた
「モップとバケツはあっちのロッカーにあるから。バケツには洗剤入れて。終わったら、棚や窓の雑巾がけな。荷物は適当に置いて」
一方的に指示され、ミナミは憮然とした
男はミナミに道具を渡すと、一人でカウンターの中に入った
(これ、どうやんの…)
ミナミはローラーがついた四角いバケツを見下ろした
「わかんないことがあったら聞けよー」
タイミングよく声がかかった
ミナミはじっと男を見た
「これ…」
「そこのレバーを踏むんだよ。そうすっとローラーでモップの水を切れる」
ミナミは言われた通り、足元のレバーを踏んだ
こんなことすら、自分は他人に教えてもらわなければできないのかと憂鬱になった
昨日から、こんなことの繰り返しで、自信も自尊心もへし折れ、自分が自分でなくなっていくようだった
ミナミはレバーを踏みしめて、めいっぱい水を切った
「ん」
バーテンが、顎でカウンターの上に置いてある鍵を指した
「なんだよ?」
「ロッカーの中に服入ってっから着替えてきて」
男はいつの間にか髪をひとつに括っていた
何をしているのかと手元を見ると、フルーツを切っていた
きれいに飾り切りにされたものもあれば、乱雑に切られたものもある
それを別々のタッパーに入れた
ミナミはバックヤードに入った
バックヤードはそこそこ広く、休憩室も兼ねているらしかった
壁際に上下2段のロッカーが4列、中央にテーブルとパイプ椅子、テレビ、隅に段ボールが積み上げられていた
もらった鍵の番号のロッカーを開けると、昨晩男が着ていたような、白いワイシャツとベストと黒のスラックスが入っていた
「…嫌みかと思ったわ」
フロアに戻ったミナミは、男に文句を言った
スラックスが長すぎて、折るしかなかったのだ
せめて見た目だけでも、と内側に折った自分を褒めてあげたい
「悪くない」
男は、ミナミの全身を見てニヤリと笑った
その日はひたすらオーダー取り、サービング、テーブルの片付けとセッティング、皿洗いをやらされ、気がつくと2時間経っていた
「お疲れ。プッシールーム行ってこい」
なんだか顎で使われているようで癪だったが、すでに出勤予定時間の10分前だった
文句のひとつも言ってやりたかったが、ミナミは急いで着替えると、「お疲れ様です!」とだけ言って、バーを後にした
(開いてねーのかよ!)
ミナミはビルの隙間から裏口を覗いた
昨日生ゴミを散乱させた場所は、きれいに片付けられていた
「おい、そこの不審者。通報するぞ」
振り返ると、男が手に買い物袋を提げて立っていた
「お前が来いって行ったんじゃん…」
「冗談だよ、ほら入れば?」
男はウォレットチェーンについている鍵で店のドアを開けた
「…うっす」
ミナミは少しだけ頭を下げて店に入った
店内は昨日のオシャレで落ち着いた雰囲気とは違って、薄暗く、殺風景だった
男はカウンターに買い物袋を置くと、店の奥に消えた
ミナミは店内を見渡した
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男がモップとバケツを手に戻ってきた
「モップとバケツはあっちのロッカーにあるから。バケツには洗剤入れて。終わったら、棚や窓の雑巾がけな。荷物は適当に置いて」
一方的に指示され、ミナミは憮然とした
男はミナミに道具を渡すと、一人でカウンターの中に入った
(これ、どうやんの…)
ミナミはローラーがついた四角いバケツを見下ろした
「わかんないことがあったら聞けよー」
タイミングよく声がかかった
ミナミはじっと男を見た
「これ…」
「そこのレバーを踏むんだよ。そうすっとローラーでモップの水を切れる」
ミナミは言われた通り、足元のレバーを踏んだ
こんなことすら、自分は他人に教えてもらわなければできないのかと憂鬱になった
昨日から、こんなことの繰り返しで、自信も自尊心もへし折れ、自分が自分でなくなっていくようだった
ミナミはレバーを踏みしめて、めいっぱい水を切った
「ん」
バーテンが、顎でカウンターの上に置いてある鍵を指した
「なんだよ?」
「ロッカーの中に服入ってっから着替えてきて」
男はいつの間にか髪をひとつに括っていた
何をしているのかと手元を見ると、フルーツを切っていた
きれいに飾り切りにされたものもあれば、乱雑に切られたものもある
それを別々のタッパーに入れた
ミナミはバックヤードに入った
バックヤードはそこそこ広く、休憩室も兼ねているらしかった
壁際に上下2段のロッカーが4列、中央にテーブルとパイプ椅子、テレビ、隅に段ボールが積み上げられていた
もらった鍵の番号のロッカーを開けると、昨晩男が着ていたような、白いワイシャツとベストと黒のスラックスが入っていた
「…嫌みかと思ったわ」
フロアに戻ったミナミは、男に文句を言った
スラックスが長すぎて、折るしかなかったのだ
せめて見た目だけでも、と内側に折った自分を褒めてあげたい
「悪くない」
男は、ミナミの全身を見てニヤリと笑った
その日はひたすらオーダー取り、サービング、テーブルの片付けとセッティング、皿洗いをやらされ、気がつくと2時間経っていた
「お疲れ。プッシールーム行ってこい」
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文句のひとつも言ってやりたかったが、ミナミは急いで着替えると、「お疲れ様です!」とだけ言って、バーを後にした
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