新宿プッシールーム

はなざんまい

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最後のスコティッシュフォールド(1)

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ミナミが辞めるにあたって、【スコティッシュフォールド】のプレイルームは【ソマリ】に変更されることになった

【スコティッシュフォールド】の客たち、特にミナミの常連客たちは、ミナミが辞める日まで、暇を見つけては通ってくれた

中には予約でいっぱいなのに、当日キャンセルを狙って、一晩待ってくれた者もいた

ミナミは、自分の客たちはもっと淡白で、餞別に1回くらいは来ても、すぐに別のプレイヤーに乗り換えるか、他の店に流れていくと思っていた

※※※※※※※※※※

「そりゃあよかったな」

掛け持ちしているバーのバーテン兼オーナーの長谷川が、グラスを拭きながら言った

プッシールームを辞めた後は、長谷川が新しく開くカフェに、ミナミはマネージャーとして雇ってもらえることになったのだ


以前、働いていたカラオケ店を辞め、プッシールームの出勤前に毎日4時間バーで働くこと約半年

開店準備から接客、調理、お酒作りなど、いまは、ミナミ一人いれば、店を回せるようになっていた


「いざ、最後になると、ちょっと寂しい気もするけど…」

ミナミはモップの水を切って逆さまに立たせると、排水をトイレに捨てた


プッシールームでの勤務は今日で本当に最後となる

ああいう店だから、壮行会とか、お別れイベントなどはなく、淡々と最後の客を見送って終わりになる

寂しいが、それでいいとミナミは思った

「長谷川さんには、本当にお世話になりました。これからもよろしくお願いします」

ミナミは改めて長谷川に頭を下げた

「お前が頑張ったからだろ」

長谷川はそっけなく言うと、またグラス拭きに戻った

※※※※※※※※※※

「ミナミちゃん、本当に、本当に辞めちゃうの?」

最後から二人目の客が、ベルトを締めながら聞いた

客の動きに合わせて、ミナミもJKコスの胸元のリボンを直した

「うん、ごめんね」

「さみしいよー」

客が仕切りのガラスに近寄ってきた

ミナミも四つ這いで近づいて、ガラス越しにキスをした

本当ならオプション料金だが、今日は好きにしていい、とマサトから言われていた

「いつでも戻ってきていいんだからね?」

「でも、トオノさん、もうアメショに浮気したって聞いたよ?」

トオノ、と呼ばれた客は、ミナミの最上客だった

その客を、他ならぬ【アメショ】の九きゅうに渡せるなら、悔いはない

「店ここに通うのはやめられないからなあ…」

トオノは頭を掻いた

「でもミナミちゃんが戻ってきたら、俺もすぐにスコティッシュに戻ってくるから」

トオノが再びガラスに唇を近づけてきた



『もう、スコティッシュは無くなるんです』



その一言は言えなかった

ミナミはガラスに押し付けられたトオノの唇を指でなぞってからキスをした
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