新宿プッシールーム

はなざんまい

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最後のスコテッィシュフォールド(2)

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「あと一人かあ…」

最後の30分休憩、ミナミは控え室のソファに横たわった

【最後の】とつけると、何もかもが愛しく感じた

「ここで、ミナミさんと話すのも今日で最後かと思うと寂しいですね」

【マンチカン】のアヤメも同じ気持ちらしい

「終わる頃に、九さんたちが来るって言ってましたよ」

最終日は平日の木曜で、休みのプレイヤーが多かったが、ミナミの勤務が終わったら、来れる人が集まって送別会を開いてくれるのだという

「リンは?」

「リン君には聞いてません」

「だよね~」



バーの客にプッシールームここまで尾けられて以来、【ロシアンブルー】のリンは、毎日のようにバーに迎えに来てくれた

結局その客は、プッシールームには二度と来なかったし、バーの方にも二度と顔を出すことはなかった

もう大丈夫だと確信に至るまでの約2か月、用心棒を務めてくれたリンに、お礼を言いたかった

※※※※※※※※※※

「ミナミ、最後の客、バーテンコスだってさ」

マサトが控え室に呼びに来た

「え…」

まさか、ここに来てバーテンのコスプレを指定されるとは思わなかった

あの日の恐怖が甦ってゾッとした

店での最後の客は、てっきり常連の誰かだと思っていた

予約は早い者勝ちだから仕方ないとはいえ、最後の最後があの薄気味悪い客で終わるのかと思うと、やりきれなかった



だが


ミナミはバーでの仕事を思い出した

理不尽な言いがかりをつけられたり、酔っぱらいのケンカに巻き込まれたり、ピアニストとの料金交渉でもめたり

きっと、まともに仕事をやっていれば、こんなことは日常茶飯事なのだろう

だからといって、我慢したり、泣き寝入りするつもりはない

プレイを支配するのは客じゃない、自分だ

相手が誰であれ、悔いのないプレイをするだけだ

そうすればきっと、何の憂いもなく、人生のリスタートを切れる

ミナミは己を奮い立たせ、【スコティッシュフォールド】のプレイルームに入った

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