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アメショとノラ猫(6)
しおりを挟む騒動から3か月が過ぎた
トワは、あれからネットTVの討論番組やYouTuberとのコラボ企画に呼ばれることが増え、収入が月100万を越えるようになった
来月にはプライベート写真集とムック本を出すことになっている
写真集には一枚だけ九との2ショット写真が掲載されていている
事前発表はないが、発売されて話題になれば、売り切れは必至だろう
九は相変わらず、プッシールームで働いている
オーナーやマサト、何よりも常連客のお陰で、騒動前と変わらず働けているらしい
元々トワにとって、モデル業は小遣い稼ぎみたいなものだった
たが、九と付き合いだしてから考えが変わった
この収入がいつまでも続かないことはわかっている
だから余裕がある今のうちに、次の道筋をつかんでおきたいと思った
九と生きていきたいから
※※※※※※※※※※※
九とトワは、日本橋室町の美術館で開催されているギュスターヴ・モロー展に来ていた
「これ、いいな。九に似てる」
モデル業のいいところは、平日にも休みがあることだ
人気の企画展で、土日は混雑していると聞いていたが、平日のその日は空いていて、スムーズに見て回ることができた
「そう?生首持ってて、怖いんだけど」
「きれいだよ」
「じゃあこの生首はトワね」
九が笑った
「それでもいいよ」
トワは今日、首を差し出すくらいの気持ちでここに来た
九に言いたいことがあった
いつになるかはわからないが、言い出すのにいいタイミングは、どこかできっとあると思っている
その時、同じ部屋にいた別の客たちが、一斉に次の部屋に移動し、一瞬だけ二人きりになった
トワはこの時をおいてほかにないと思った
「俺、家業を継ぐよ。九にもついてきてほしい」
九は、トワのその言葉を聞いても絵から目を離さなかった
そして、「反社はちょっとなー」と言って笑うと、トワの手をそっと握った
「俺の夢、聞いてくれる?」
「何?」
「プッシールーム3号店の雇われ店長になりたいの。だからヤクザは手伝えないけど…」
九が背伸びしてトワの肩に顎をのせた
「それでもよければ、いいよ」
トワは九を抱き締めて、その肩に顔を埋めた
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