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ロシアンブルーの正体(3)
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「あ、私もこの子知ってるー!死んじゃったオーナーの義理の息子くんだあ。いま何してんの?」
キリヤの客の女も会話に加わった
「あ、バイト…」
「なんだあ。お店継がなかったんだ。継いだらセレブになれたのに」
女はなぜか自分のことのように残念がった
「こいつには無理だろ」
キリヤが鼻で笑った
「じゃあいま、誰がオーナーしてるの?」
「なんか、こいつの代理人とかいうおっさん」
「え?代理人?」
「そう言ってた」
「え?!じゃあ、いずれ息子くんの物になるんじゃない?」
キリヤが動揺するそぶりを見せた
「それはねーだろ?な?」
リンの心に、にわかに嗜虐心が芽生えた
自分でも、驚くほど冷たい感情が渦巻いていた
リンが黙ったままうつむいていると、キリヤが焦りだした
時に、沈黙は雄弁より信憑性があるものだ
「お前がオーナーになるとか、嘘だろ?」
リンは顔を上げてキリヤを見据えた
「嘘じゃない、と言ったらどうしますか?もしかしたら現にオーナーかもしれませんよ?」
一触即発、という空気が漂った
そこを無理やりこじ開けたのは、客の女だった
「ね、ね、私、渋谷の【マイン】って店で働いてるアイナです。よかったらお店に来て~」
そう言って素早く名刺を取り出し、リンに渡した
ピリピリとした雰囲気が一度霧散した
「おい、こいつはホストじゃねーよ」
「ホストじゃなくてもいいんですぅ。お金さえあれば、ね?」
そう言うと、アイナはリンの腕に自分の腕を絡ませた
「は?アイナ、てめぇ…」
キリヤの矛先がアイナに向いた
リンは危険を察知し、我に返った
キリヤが、アイナの肩を押して傘の外に追い出し、右手を振りかざした
「ちょちょちょちょーっと待った」
裏口から飛び出してきたミナミが、よろけるアイナを支えて自分の傘に入れた
「ホストがそれやっちゃまずいよ。てか、おにーさん、そんな短気でよくホストやれてるね?!向いてないと思うよ」
やっと状況を理解できたアイナがガタガタと震え出した
リンはとりあえずアイナを引っ張ってバーの中に押し込んだ
「てめーら…」
それを見て、一層逆上したキリヤの怒りの矛先が、ミナミとリンに向けられた
さっきより危機的状況のはずなのに、リンの体の震えは収まっていた
リンはミナミの横顔を見た
小柄でかわいい顔立ちなのに、自分より強そうな相手にも立ち向かうことができる
やっぱりミナミにはかなわないと思った
「ミナミさんが余計なこと言うから益々状況悪くなったじゃん。どうしてくれんの」
こんな軽口も飛び出してくる
リンは驚きでいっぱいだった
新しい自分、新しい願望が、ミナミといるとどんどん溢れてくる
キリヤが傘を捨てて、ミナミに殴りかかろうとした
その時、バーのドアが開いて長谷川が出てきた
キリヤは一瞬誰かわからず固まっていた
刹那のタイムラグの後、キリヤは「オーナー?!」と言って、背筋を伸ばした
「キリヤ、今日は店来なくていいから」
「え…でも同伴…」
「同伴相手に手を上げようとしたホストをこのままにしておくわけにはいかないでしょ。アイナちゃんはうちの太客だよ?他の客とのコネもあるし、お前が辞めたくらいじゃ損失回収できないから」
長谷川が冷たく尖った声で、キリヤを刺した
キリヤは呆然自失としていた
雨が、彼の髪と肩を黒く染めていった
長谷川は店に戻ろうとして足を止め、振り返らずに
「あ、今日はじゃなくて、今日からだった」
と言って店の中に入っていった
キリヤの客の女も会話に加わった
「あ、バイト…」
「なんだあ。お店継がなかったんだ。継いだらセレブになれたのに」
女はなぜか自分のことのように残念がった
「こいつには無理だろ」
キリヤが鼻で笑った
「じゃあいま、誰がオーナーしてるの?」
「なんか、こいつの代理人とかいうおっさん」
「え?代理人?」
「そう言ってた」
「え?!じゃあ、いずれ息子くんの物になるんじゃない?」
キリヤが動揺するそぶりを見せた
「それはねーだろ?な?」
リンの心に、にわかに嗜虐心が芽生えた
自分でも、驚くほど冷たい感情が渦巻いていた
リンが黙ったままうつむいていると、キリヤが焦りだした
時に、沈黙は雄弁より信憑性があるものだ
「お前がオーナーになるとか、嘘だろ?」
リンは顔を上げてキリヤを見据えた
「嘘じゃない、と言ったらどうしますか?もしかしたら現にオーナーかもしれませんよ?」
一触即発、という空気が漂った
そこを無理やりこじ開けたのは、客の女だった
「ね、ね、私、渋谷の【マイン】って店で働いてるアイナです。よかったらお店に来て~」
そう言って素早く名刺を取り出し、リンに渡した
ピリピリとした雰囲気が一度霧散した
「おい、こいつはホストじゃねーよ」
「ホストじゃなくてもいいんですぅ。お金さえあれば、ね?」
そう言うと、アイナはリンの腕に自分の腕を絡ませた
「は?アイナ、てめぇ…」
キリヤの矛先がアイナに向いた
リンは危険を察知し、我に返った
キリヤが、アイナの肩を押して傘の外に追い出し、右手を振りかざした
「ちょちょちょちょーっと待った」
裏口から飛び出してきたミナミが、よろけるアイナを支えて自分の傘に入れた
「ホストがそれやっちゃまずいよ。てか、おにーさん、そんな短気でよくホストやれてるね?!向いてないと思うよ」
やっと状況を理解できたアイナがガタガタと震え出した
リンはとりあえずアイナを引っ張ってバーの中に押し込んだ
「てめーら…」
それを見て、一層逆上したキリヤの怒りの矛先が、ミナミとリンに向けられた
さっきより危機的状況のはずなのに、リンの体の震えは収まっていた
リンはミナミの横顔を見た
小柄でかわいい顔立ちなのに、自分より強そうな相手にも立ち向かうことができる
やっぱりミナミにはかなわないと思った
「ミナミさんが余計なこと言うから益々状況悪くなったじゃん。どうしてくれんの」
こんな軽口も飛び出してくる
リンは驚きでいっぱいだった
新しい自分、新しい願望が、ミナミといるとどんどん溢れてくる
キリヤが傘を捨てて、ミナミに殴りかかろうとした
その時、バーのドアが開いて長谷川が出てきた
キリヤは一瞬誰かわからず固まっていた
刹那のタイムラグの後、キリヤは「オーナー?!」と言って、背筋を伸ばした
「キリヤ、今日は店来なくていいから」
「え…でも同伴…」
「同伴相手に手を上げようとしたホストをこのままにしておくわけにはいかないでしょ。アイナちゃんはうちの太客だよ?他の客とのコネもあるし、お前が辞めたくらいじゃ損失回収できないから」
長谷川が冷たく尖った声で、キリヤを刺した
キリヤは呆然自失としていた
雨が、彼の髪と肩を黒く染めていった
長谷川は店に戻ろうとして足を止め、振り返らずに
「あ、今日はじゃなくて、今日からだった」
と言って店の中に入っていった
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