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ロシアンブルーの正体(5)
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「…はよーございまーす」
いつもより少し遅い時間にやって来ると、長谷川は、すでにカウンターに立ち、仕込みをしていた
「あれ?お前今日プッシールームない日だろ。ない日はこっちも休みでいいって言ったじゃん」
「いや…」
ミナミが言い淀んでいると、察した長谷川が、「昨日のことか」と言った
「はい。あの子…アイナさんは、結局店に行ったんですか?」
氷を削る長谷川の手が、一瞬だけピクリと止まった
だが、すぐにまた作業に戻った
「昨日同伴がなかったナンバー2と3に迎えに来させたら、機嫌直して店に行ったよ。10万のボトル入れてった。半額だから強気だったな」
淡々と話しながらも辛そうなその表情に、ミナミは長谷川を誤解していたかもしれないと思った
「…長谷川さんとリンって、親戚だったんですね」
「血は繋がってないけどな」
「確認しておきたいんですが、リンが系列のホストクラブのオーナーってことはプッシールームのオーナーって…」
「リンだな」
ミナミは血の気が引く思いがした
リンがオーナーだからといって、態度を変えるつもりはないが、過去のやり取りを色々思い出すと恥ずかしくなる
思い出しては百面相しているミナミに、長谷川は、
「聞きたいことはそれだけ?今日は人手足りてるから、お前は帰って休めよ」
とつっけんどんに言った
長谷川からしてみても、秘密にしていたことがバレてしまったのだから、そういう態度をとりたくもなる
しかし、ミナミには本当に聞きたいことが別にあった
今までの質問は、前提条件の確認にすぎない
「もしかして、俺をここで雇ってくれたのって、リンに言われたからですか?」
長谷川がやっと顔を上げた
ひどく驚いてるようだった
「普通、そんな風に考えるか?ずいぶんリンのことをかいかぶってるんだな」
そう言うと、長谷川はニヒルに笑い、
「それは断じてないな。こっちだって慈善事業じゃないんだ。お前はここに来たとき荒れてはいたけど、顔もいいし、プッシールームでプレイヤーさせておくのは惜しいと思ったんだよ。ちょうどカフェを任せられそうな人間育てようと思ってたし」
「それなら、最初から使えそうなヤツでよかったじゃないですか。長谷川さんなら顔広いんだし、探せばいくらでもいるんじゃないんですか?」
「そうだなあ。さっきも言ったけど、やっぱり顔かな。俺の作りたいカフェのイメージにぴったりなんだよ、お前」
納得しきれないものがあったが、ミナミはここで引き下がろうと思った
自分の将来の道筋は立ててしまったし、いまさらこんなことで反古にはできない
ミナミが店を出ようと足を半歩後ろに下げたとき、長谷川が口を開いた
「でも、本当は後悔してる。俺はお前を放っておくべきだったんだ」
「え」
長谷川がミナミを見た
真っ黒な深い瞳が、ミナミの瞳を射抜いた
「血は繋がってなくても、俺とリンは似てるんだよ。だからよくわかる」
長谷川は熱に浮かされた時の、うわ言のように呟いた
ミナミが「何の話ですか」と言うと、ハッと我に帰り、氷を削る作業に没頭した
※※※※※※※※※※※
翌日も、リンはきちんと時間通りにバーに迎えに来た
ミナミから話すことは何もなかった
リンも無言で後ろを歩いている
そろそろ潮時だと思った
ストーカーまがいのことをした例の客は、あれからバーにもプッシールームにも来ていない
日が伸びたおかげで、明るいうちに移動できるようになったし、あとひと月ほどでプッシールームを辞めることになっている
「リン、明日から迎えに来なくていいから」
二人の間は約3メートル
届くか、届かないかくらいの声
リンには届いただろうか
ミナミがドキドキしながら待っていると、後ろから走るでも歩くでもない足音が近づいてきた
その足音が真後ろで止まった
そして、ミナミの手をギュッと握った
「何だよ…」
リンは、目を合わそうとはしなかった
手を握るだけで、指先ひとつ動かさない
これは…あれだ
…何だ?
ミナミは混乱した
混乱して、一番やってはいけないことをした
手を振り払って、振り返りもせずに逃げ出した
※※※※※※※※※※※※※
それからミナミが辞める日まで、リンとシフトが被ることはなかった
最後から二人目の客が帰った後、【マンチカン】のアヤメがミナミを送別会に誘ってくれた
深夜だから来れる人は限られているはずだが、半数以上のプレイヤーやスタッフが来てくれるという
ミナミはリンのことが気にかかって、「リンは?」とアヤメに聞いた
「リン君には聞いてません」
アヤメはさも当然とでも言うように答えた
それもそのはずで、リンは定例会にも、個人的な飲み会にも、一度も来たことがなかった
「だよね~」
ミナミは、リンとの個人的な関係をアヤメに悟られないよう、努めて明るく返した
いつもより少し遅い時間にやって来ると、長谷川は、すでにカウンターに立ち、仕込みをしていた
「あれ?お前今日プッシールームない日だろ。ない日はこっちも休みでいいって言ったじゃん」
「いや…」
ミナミが言い淀んでいると、察した長谷川が、「昨日のことか」と言った
「はい。あの子…アイナさんは、結局店に行ったんですか?」
氷を削る長谷川の手が、一瞬だけピクリと止まった
だが、すぐにまた作業に戻った
「昨日同伴がなかったナンバー2と3に迎えに来させたら、機嫌直して店に行ったよ。10万のボトル入れてった。半額だから強気だったな」
淡々と話しながらも辛そうなその表情に、ミナミは長谷川を誤解していたかもしれないと思った
「…長谷川さんとリンって、親戚だったんですね」
「血は繋がってないけどな」
「確認しておきたいんですが、リンが系列のホストクラブのオーナーってことはプッシールームのオーナーって…」
「リンだな」
ミナミは血の気が引く思いがした
リンがオーナーだからといって、態度を変えるつもりはないが、過去のやり取りを色々思い出すと恥ずかしくなる
思い出しては百面相しているミナミに、長谷川は、
「聞きたいことはそれだけ?今日は人手足りてるから、お前は帰って休めよ」
とつっけんどんに言った
長谷川からしてみても、秘密にしていたことがバレてしまったのだから、そういう態度をとりたくもなる
しかし、ミナミには本当に聞きたいことが別にあった
今までの質問は、前提条件の確認にすぎない
「もしかして、俺をここで雇ってくれたのって、リンに言われたからですか?」
長谷川がやっと顔を上げた
ひどく驚いてるようだった
「普通、そんな風に考えるか?ずいぶんリンのことをかいかぶってるんだな」
そう言うと、長谷川はニヒルに笑い、
「それは断じてないな。こっちだって慈善事業じゃないんだ。お前はここに来たとき荒れてはいたけど、顔もいいし、プッシールームでプレイヤーさせておくのは惜しいと思ったんだよ。ちょうどカフェを任せられそうな人間育てようと思ってたし」
「それなら、最初から使えそうなヤツでよかったじゃないですか。長谷川さんなら顔広いんだし、探せばいくらでもいるんじゃないんですか?」
「そうだなあ。さっきも言ったけど、やっぱり顔かな。俺の作りたいカフェのイメージにぴったりなんだよ、お前」
納得しきれないものがあったが、ミナミはここで引き下がろうと思った
自分の将来の道筋は立ててしまったし、いまさらこんなことで反古にはできない
ミナミが店を出ようと足を半歩後ろに下げたとき、長谷川が口を開いた
「でも、本当は後悔してる。俺はお前を放っておくべきだったんだ」
「え」
長谷川がミナミを見た
真っ黒な深い瞳が、ミナミの瞳を射抜いた
「血は繋がってなくても、俺とリンは似てるんだよ。だからよくわかる」
長谷川は熱に浮かされた時の、うわ言のように呟いた
ミナミが「何の話ですか」と言うと、ハッと我に帰り、氷を削る作業に没頭した
※※※※※※※※※※※
翌日も、リンはきちんと時間通りにバーに迎えに来た
ミナミから話すことは何もなかった
リンも無言で後ろを歩いている
そろそろ潮時だと思った
ストーカーまがいのことをした例の客は、あれからバーにもプッシールームにも来ていない
日が伸びたおかげで、明るいうちに移動できるようになったし、あとひと月ほどでプッシールームを辞めることになっている
「リン、明日から迎えに来なくていいから」
二人の間は約3メートル
届くか、届かないかくらいの声
リンには届いただろうか
ミナミがドキドキしながら待っていると、後ろから走るでも歩くでもない足音が近づいてきた
その足音が真後ろで止まった
そして、ミナミの手をギュッと握った
「何だよ…」
リンは、目を合わそうとはしなかった
手を握るだけで、指先ひとつ動かさない
これは…あれだ
…何だ?
ミナミは混乱した
混乱して、一番やってはいけないことをした
手を振り払って、振り返りもせずに逃げ出した
※※※※※※※※※※※※※
それからミナミが辞める日まで、リンとシフトが被ることはなかった
最後から二人目の客が帰った後、【マンチカン】のアヤメがミナミを送別会に誘ってくれた
深夜だから来れる人は限られているはずだが、半数以上のプレイヤーやスタッフが来てくれるという
ミナミはリンのことが気にかかって、「リンは?」とアヤメに聞いた
「リン君には聞いてません」
アヤメはさも当然とでも言うように答えた
それもそのはずで、リンは定例会にも、個人的な飲み会にも、一度も来たことがなかった
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ミナミは、リンとの個人的な関係をアヤメに悟られないよう、努めて明るく返した
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