51 / 113
アメリカンカール(1)
しおりを挟む
滋はいわゆる『スーパーモデル』の部類に入る
年齢は28歳
マサトの2つ下になる
二人の出会いは中学で、マサトが中3、滋が中1の時、部活棟でいじめられていた滋を、マサトが助けたのがきっかけだ
滋は、当時から首が細くて長いのを『キリン』だの『首長竜』だの言われてからかわれた
その時にはすでに、モデルの端くれみたいな仕事をしていたから、首が長くてきれいであることの必要性はわかっていたが、モデル業界では当たり前にあるべき姿で、誰に褒められるわけでもなかった
自分に必要な【資産】であっても、中学生が、日々の生活の大半を占める学校という場で、毎日のようにいじられ罵られると、自分の価値が地の底まで落ちるように感じる
そんなときに、自分を助けてくれなおかつ「首が長くてきれいだ」と言ってくれたマサトを、誰が好きにならずにいられるだろうか
滋はあっという間に恋に落ち、以来15年以上、マサトに信頼を寄せている
別れる転機は幾度もあった
でもその度に、見えない力に引き戻されてきた
5年前のあの夜もそうだった
滋はショーの後、クラブを貸しきって開かれた打ち上げに参加した
そこにいた、実業家だか経営者の男に色々飲まされて、気づいた時はホテルのベッドの上だった
滋は動揺して、たまたま着信があったマサトからの電話を取ってしまった
『おはよう。体調は大丈夫?』
「マサト…!マサト…!」
滋のただならない様子に、なんとか場所だけ聞き出したマサトは、慌ててホテルに向かった
駆けつけた先にいた滋は、目こそ腫れていたものの、よく見る二日酔い明けの姿だった
「昨日の夜、電話かけたときはマネージーの城田さんが出て、滋が体調崩したからこのホテルに泊まらせますって言ってたぞ。だからそんなに動揺しなくても…」
マサトはベッドの上で震える滋の頭を撫でながら言った
だが、マサトの言葉を聞いた瞬間、滋は誰かに計られたことを確信した
「昨日、城田さんは打ち上げにいなかった…」
滋を撫でるマサトの手が止まった
すぐに婦人科に駆け込んで診てもらったが、膣内はきれいとのことだった
念のためアフターピルを処方してもらった滋は、数日、副反応で辛そうだった
そんな出来事があったにも関わらず、季節はめぐる
マサトと滋は、表面上は前と変わらず仲のいい恋人同士だった
だが、少なくともマサトは、ずっと心に釣り針のようなものが引っ掛かっていて、滋の顔を見るたびにその痛みを飲み込んでいた
それはとても正常な精神状態とは言えなかった
滋を殺して自分も死のう、と何度も思った
3か月くらい経ったある日、久々に外でデートをしていると、滋がふいに立ち止まった
後ろを歩いていた人たちが、怪訝な顔を向けて二人を追い越していった
「滋?」
滋の顔を覗き込むと、夏だというのに氷のように真っ白だった
元から色白ではあるが、血の気がなく、蒼白
一瞬で何かがあったのだと察した
「あの人…」
滋が震える指で前方を指差した
そこにいたのは、高校生くらいの男の子を連れた黒いスーツの中年男性だった
ネクタイが真っ黒だから葬式か何かの帰りかもしれない
「私に、お酒をたくさん勧めて来たひと」
マサトは滋をその場に残し、とっさに男の元に走った
だが、マサトがたどり着くより先に、迎えに来た車が二人の横に止まった
間に合わないと悟ったマサトは、慌ててスマホのカメラを男に向けた
結局男は、マサトに気づかぬまま、車に乗って走り去ってしまった
マサトは立ち止まって、肩で息をした
手元のスマホには、不鮮明な男の横顔が映っていた
年齢は28歳
マサトの2つ下になる
二人の出会いは中学で、マサトが中3、滋が中1の時、部活棟でいじめられていた滋を、マサトが助けたのがきっかけだ
滋は、当時から首が細くて長いのを『キリン』だの『首長竜』だの言われてからかわれた
その時にはすでに、モデルの端くれみたいな仕事をしていたから、首が長くてきれいであることの必要性はわかっていたが、モデル業界では当たり前にあるべき姿で、誰に褒められるわけでもなかった
自分に必要な【資産】であっても、中学生が、日々の生活の大半を占める学校という場で、毎日のようにいじられ罵られると、自分の価値が地の底まで落ちるように感じる
そんなときに、自分を助けてくれなおかつ「首が長くてきれいだ」と言ってくれたマサトを、誰が好きにならずにいられるだろうか
滋はあっという間に恋に落ち、以来15年以上、マサトに信頼を寄せている
別れる転機は幾度もあった
でもその度に、見えない力に引き戻されてきた
5年前のあの夜もそうだった
滋はショーの後、クラブを貸しきって開かれた打ち上げに参加した
そこにいた、実業家だか経営者の男に色々飲まされて、気づいた時はホテルのベッドの上だった
滋は動揺して、たまたま着信があったマサトからの電話を取ってしまった
『おはよう。体調は大丈夫?』
「マサト…!マサト…!」
滋のただならない様子に、なんとか場所だけ聞き出したマサトは、慌ててホテルに向かった
駆けつけた先にいた滋は、目こそ腫れていたものの、よく見る二日酔い明けの姿だった
「昨日の夜、電話かけたときはマネージーの城田さんが出て、滋が体調崩したからこのホテルに泊まらせますって言ってたぞ。だからそんなに動揺しなくても…」
マサトはベッドの上で震える滋の頭を撫でながら言った
だが、マサトの言葉を聞いた瞬間、滋は誰かに計られたことを確信した
「昨日、城田さんは打ち上げにいなかった…」
滋を撫でるマサトの手が止まった
すぐに婦人科に駆け込んで診てもらったが、膣内はきれいとのことだった
念のためアフターピルを処方してもらった滋は、数日、副反応で辛そうだった
そんな出来事があったにも関わらず、季節はめぐる
マサトと滋は、表面上は前と変わらず仲のいい恋人同士だった
だが、少なくともマサトは、ずっと心に釣り針のようなものが引っ掛かっていて、滋の顔を見るたびにその痛みを飲み込んでいた
それはとても正常な精神状態とは言えなかった
滋を殺して自分も死のう、と何度も思った
3か月くらい経ったある日、久々に外でデートをしていると、滋がふいに立ち止まった
後ろを歩いていた人たちが、怪訝な顔を向けて二人を追い越していった
「滋?」
滋の顔を覗き込むと、夏だというのに氷のように真っ白だった
元から色白ではあるが、血の気がなく、蒼白
一瞬で何かがあったのだと察した
「あの人…」
滋が震える指で前方を指差した
そこにいたのは、高校生くらいの男の子を連れた黒いスーツの中年男性だった
ネクタイが真っ黒だから葬式か何かの帰りかもしれない
「私に、お酒をたくさん勧めて来たひと」
マサトは滋をその場に残し、とっさに男の元に走った
だが、マサトがたどり着くより先に、迎えに来た車が二人の横に止まった
間に合わないと悟ったマサトは、慌ててスマホのカメラを男に向けた
結局男は、マサトに気づかぬまま、車に乗って走り去ってしまった
マサトは立ち止まって、肩で息をした
手元のスマホには、不鮮明な男の横顔が映っていた
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
6
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる