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3匹の雄ネコ(1)
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隼敦人は、バンド仲間から『アット』と呼ばれている
というか、彼がリーダー兼ギターボーカルを務めるバンド名前も『@./』という厨2臭のする名前なのだが、事実、中2の時につけたのだから誰も責められない
そんな彼は縁があって、秋葉原にある何でも屋で働いている
何でも屋の定義とはこうも広義なのかと思うくらい、様々な仕事が依頼される
アットは最初、この近所の何でも屋の主人から、バンドのサポートの依頼を押し付けられただけだった
それがあれよあれよという間にペット探しや別れさせ屋紛いのことをさせられ、最近では近所の探偵事務所からもヘッドハンティングの話を持ちかけられているくらい腕が上がった
だが、アットの本職はあくまでバンドであり、26歳になったいまでもそれは変わらない
一応デビューもしているし、ライブをやれば客足もそこそこ、フェスなら3、4番目にでかいステージにブッキングされる
音楽好きなら名前は聞いたことがある、くらいの知名度を、もう3年くらい維持している
決して誇れるものではない、とは思っている
それでもアットがバンドを続けていられるのは、ファンと、同じ志を持つメンバーがいるからで…
「青い!青いよ!アットくん!」
その日も、スタジオ入りまでの時間、何でも屋の事務所にいた
店主の万屋鮭児は、アットの5歳上の兄の友人だ
といっても家が近いため、アットのこともよく知っている、幼馴染みみたいなものだ
鮭児が青いと騒いでいるのは、パソコン修理中に画面が真っ青になったことでテンパっているからだ
その時、アットのスマホが鳴った
「マサト?何?」
電話の相手はバンドのベース担当のマサトだった
『ちょっと仕事頼みたくてさー』
マサトがこっちの仕事を依頼してくるのは初めてだ
アットはスマホを持つ手を変えた
『いまから送る画像の男調べてほしいんだ。その写真は六本木で土曜の夕方4時頃撮った。喪服を着て、高校生くらいの男の子を連れてた』
「高校生?このコか?」
1枚だけ、若そうな男の子の顔が見切れてる写真があった
『車は黒のセダン。写真あるだろ?』
アットはダウンロードした画像から開いていった
「これね。ナンバーもしっかり写ってるじゃん。お前も何でも屋になれるんじゃね?」
マサトは、アットの冗談には反応しなかった
「手がかりはこれだけ?」
アットが何気なく聞くと、電話の向こうで息を飲む気配がした
『手がかりになるかはわからないんだけど、3か月くらい前に、六本木の【TEATRO】っていうクラブ貸しきってファッションショーの打ち上げに参加してる』
「ファッションショーってことは、滋さんがらみか?」
すぐに沈黙が返ってきた
アットは(しまった)と感じた
「大丈夫、滋さんの情報までは必要ない。悪かったな」
『あ、ああ。じゃあ、頼むな』
「おう。じゃあ後でな」
そうだ
そもそも今日は7時からスタジオ入りなのだから、あと2時間もすれば直接会える
他のメンバーには知られたくない話なのか、それとも相当急いでいるのか…
アットはギターを担いで店を出た
スタジオ入りまで六本木に寄るくらいの時間はある
アットは早速、マサトから聞いたクラブに行ってみることにした
店は1階のワンフロア
大きめなハコだ
アットがビルを張っていると、一人の男性が、ビルの隙間に入っていき、裏口とみられる油汚れのついた鉄製のドアに鍵を差し込んだ
「すみませ~ん。テアトロって店ここですか?」
男がドアを開けるか開けないかのタイミングで声をかけた
「入り口は表側だけど、オープンはまだだよ」
「そうなんですね~。でもどうにかして入りたいんだけど…」
「あ?」
男はその時初めて、アットのことを【ヤバイヤツ】だと認識したようだった
だがアットは、男が答えている間に距離を詰め、すでにドアに足を挟んだ状態だった
「聞きたいことがあるだけなんで、ちょっとナカ、いいですか?」
アットは親指で店内を示すと、男の肩をつかんで引きずり込んだ
「ケ、ケーサツ呼ぶぞ?!」
薄暗い店内で解放された男が、上ずった声で叫んだ
「ケーサツっすか?呼んで大丈夫な仕事してます?大丈夫?」
こういう時のアットは何かが乗り移ったかのように不気味になる
言い回し、たたずまい、目付き、オーラ…
まるで本物のようだ
実際自分も、ボーダーラインの上に立ってると思うことが幾度となくあった
アットのただならぬ気配に、男はたじろいで、ポケットから取り出したスマホを取りこぼした
スマホが、フロアをむなしく滑っていく
「ホラー映画並みの怖がり方するなあ。自分で死亡フラグ立ててどうすんの」
アットは男に近づくと、腰を屈めて男の顔を覗き込んだ
「話聞きたいだけ。OK?」
男は歯の根が噛み合わず、ガタガタと震えながら首を縦に振った
※※※※※※※※※※※※※※
スタジオに着くと、ガラス張りの狭い喫煙スペースで、マサトがタバコを吸っている姿が見えた
アットはノックして、自分もその狭いスペースに身体を滑り込ませた
「喫煙スペースは厳禁じゃないの?ボーカルさん?」
「俺の喉より大事なことなんだろ?」
「もう突き止めたのかよ?」
アットは1枚の紙をマサトに渡した
「ここは空気がよどんでんなあ」
それだけ言うと、アットはすぐに喫煙スペースから出ていった
紙には【長谷川公博】と書かれていた
というか、彼がリーダー兼ギターボーカルを務めるバンド名前も『@./』という厨2臭のする名前なのだが、事実、中2の時につけたのだから誰も責められない
そんな彼は縁があって、秋葉原にある何でも屋で働いている
何でも屋の定義とはこうも広義なのかと思うくらい、様々な仕事が依頼される
アットは最初、この近所の何でも屋の主人から、バンドのサポートの依頼を押し付けられただけだった
それがあれよあれよという間にペット探しや別れさせ屋紛いのことをさせられ、最近では近所の探偵事務所からもヘッドハンティングの話を持ちかけられているくらい腕が上がった
だが、アットの本職はあくまでバンドであり、26歳になったいまでもそれは変わらない
一応デビューもしているし、ライブをやれば客足もそこそこ、フェスなら3、4番目にでかいステージにブッキングされる
音楽好きなら名前は聞いたことがある、くらいの知名度を、もう3年くらい維持している
決して誇れるものではない、とは思っている
それでもアットがバンドを続けていられるのは、ファンと、同じ志を持つメンバーがいるからで…
「青い!青いよ!アットくん!」
その日も、スタジオ入りまでの時間、何でも屋の事務所にいた
店主の万屋鮭児は、アットの5歳上の兄の友人だ
といっても家が近いため、アットのこともよく知っている、幼馴染みみたいなものだ
鮭児が青いと騒いでいるのは、パソコン修理中に画面が真っ青になったことでテンパっているからだ
その時、アットのスマホが鳴った
「マサト?何?」
電話の相手はバンドのベース担当のマサトだった
『ちょっと仕事頼みたくてさー』
マサトがこっちの仕事を依頼してくるのは初めてだ
アットはスマホを持つ手を変えた
『いまから送る画像の男調べてほしいんだ。その写真は六本木で土曜の夕方4時頃撮った。喪服を着て、高校生くらいの男の子を連れてた』
「高校生?このコか?」
1枚だけ、若そうな男の子の顔が見切れてる写真があった
『車は黒のセダン。写真あるだろ?』
アットはダウンロードした画像から開いていった
「これね。ナンバーもしっかり写ってるじゃん。お前も何でも屋になれるんじゃね?」
マサトは、アットの冗談には反応しなかった
「手がかりはこれだけ?」
アットが何気なく聞くと、電話の向こうで息を飲む気配がした
『手がかりになるかはわからないんだけど、3か月くらい前に、六本木の【TEATRO】っていうクラブ貸しきってファッションショーの打ち上げに参加してる』
「ファッションショーってことは、滋さんがらみか?」
すぐに沈黙が返ってきた
アットは(しまった)と感じた
「大丈夫、滋さんの情報までは必要ない。悪かったな」
『あ、ああ。じゃあ、頼むな』
「おう。じゃあ後でな」
そうだ
そもそも今日は7時からスタジオ入りなのだから、あと2時間もすれば直接会える
他のメンバーには知られたくない話なのか、それとも相当急いでいるのか…
アットはギターを担いで店を出た
スタジオ入りまで六本木に寄るくらいの時間はある
アットは早速、マサトから聞いたクラブに行ってみることにした
店は1階のワンフロア
大きめなハコだ
アットがビルを張っていると、一人の男性が、ビルの隙間に入っていき、裏口とみられる油汚れのついた鉄製のドアに鍵を差し込んだ
「すみませ~ん。テアトロって店ここですか?」
男がドアを開けるか開けないかのタイミングで声をかけた
「入り口は表側だけど、オープンはまだだよ」
「そうなんですね~。でもどうにかして入りたいんだけど…」
「あ?」
男はその時初めて、アットのことを【ヤバイヤツ】だと認識したようだった
だがアットは、男が答えている間に距離を詰め、すでにドアに足を挟んだ状態だった
「聞きたいことがあるだけなんで、ちょっとナカ、いいですか?」
アットは親指で店内を示すと、男の肩をつかんで引きずり込んだ
「ケ、ケーサツ呼ぶぞ?!」
薄暗い店内で解放された男が、上ずった声で叫んだ
「ケーサツっすか?呼んで大丈夫な仕事してます?大丈夫?」
こういう時のアットは何かが乗り移ったかのように不気味になる
言い回し、たたずまい、目付き、オーラ…
まるで本物のようだ
実際自分も、ボーダーラインの上に立ってると思うことが幾度となくあった
アットのただならぬ気配に、男はたじろいで、ポケットから取り出したスマホを取りこぼした
スマホが、フロアをむなしく滑っていく
「ホラー映画並みの怖がり方するなあ。自分で死亡フラグ立ててどうすんの」
アットは男に近づくと、腰を屈めて男の顔を覗き込んだ
「話聞きたいだけ。OK?」
男は歯の根が噛み合わず、ガタガタと震えながら首を縦に振った
※※※※※※※※※※※※※※
スタジオに着くと、ガラス張りの狭い喫煙スペースで、マサトがタバコを吸っている姿が見えた
アットはノックして、自分もその狭いスペースに身体を滑り込ませた
「喫煙スペースは厳禁じゃないの?ボーカルさん?」
「俺の喉より大事なことなんだろ?」
「もう突き止めたのかよ?」
アットは1枚の紙をマサトに渡した
「ここは空気がよどんでんなあ」
それだけ言うと、アットはすぐに喫煙スペースから出ていった
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