新宿プッシールーム

はなざんまい

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ロシアンブルーは寝たい(1)

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今夜はこれ以上、マサトに時間をとってもらうわけにはいかないと思い、リンが帰ろうとすると、ライブを終えたアットに声をかけられた


「もう帰るの?」
「すみません。お先に失礼します」
「経営者ってやっぱり忙しいんだなー」
「いえ、そういうわけでも…」
「えっ!?」




罪悪感にさいなまれて、リンは観念した


「嘘です。気分がのらないだけです。俺、ひどいですよね。マサトさんには散々お世話になってるのに」
「いやあ、昨日今日と色々あったんだろうから…」


リンが黙っていると、
「俺ら、これから仲間内で軽く飲んで帰ろうって言ってるんだけど、お前も来る?」

リンは九やミナミの方を見た
パートナーを伴っているメンバーは皆帰るようだった

イコールタキと九を除く全員だ

九はトワが待っているだろうし、タキだって、話さないだけで店とは関係ないところにパートナーがいて、これからその人の元に帰るのかもしれない


リンの身に、突如寂しさが襲ってきた


「…じゃあ、1杯だけ…」




アットのいう仲間内とは、バンドメンバーのドラムとキーボードのことだった

彼らは本当に1杯だけ呑むと、お互いを支え合いながら千鳥足で帰っていった

アットが残ったリンに話しかけた

「お前、家どこ?」
「大久保です」
「じゃあどうにでもなるな。ラーメンでも食いにいくか?」

まだいくのか、と思ったが、早朝から静岡で刑務所を張り込んでいた上に、昼も移動しながらでまともなものを食べていない

二次会でも食べ物にはほとんど手をつけられなかった

空きっ腹に酒を入れたせいで、変な気持ち悪さがあり、食事をすれば収まるのは明白だった



アットは、四ッ谷のラーメン屋にリンを連れていった

散々飲んだであろうに、アットは店ではこってりめに分類される塩とんこつラーメンを頼んだ

「さっき、鮭児のこと褒めてたけど、ああいうの、タイプ?」
「どうでしょう。ミステリアスで素敵だとは思うけど、付き合うのは苦労しそうですよね」
「若いのに、よくわかってんな」

リンは、噛めば噛むほど麺の味が変化するちぢれ麺に感動した

「ここの麺、うまいだろ」
「はい」

二人はしばらくズルズルと麺をすすった

二人の食べるペースはほぼ同じだった

【長谷川】がリンの代理人から外れた後、リンは慣れない経営に奔走し、1食に5分かければいい方という日々が続いていた

自ずと食べるスピードが速くなったわけだが、アットもそれに負けていない


「アットさんって、もしかして鮭児さんのこと好きです?」

二次会の喫煙スペースで、リンが鮭児のことを褒めたとき、アットが見せた表情が気になっていた


「え?ああ、でも鮭児にはとっくにフラれてるんだよなー」

「そうなんですか?」

「だいぶ前、それこそマサトがプッシールームの店長始めた頃だよ。鮭児は俺の兄貴のことが好きだったんだ。でも、兄貴は興味がなさそうだったから、俺がずっと口説いてたんだけど…」


アットはスープを飲み干すと、静かに丼を置いた


「結局、自分に負けて、他の人と寝ちゃったんだよな。そしたら鮭児のことが本当に好きだったかどうかわからなくなっちゃって」

「他の人のことを好きになっちゃったんですか?」

「違う違う。でも、それがきっかけで、タガが外れたんだろうな。色んなヤツと寝て、鮭児への気持ちをごまかしているうちに、本当に好きかどうかわからなくなったんだ。一応コクったけど、それ見透かされてフラれた」



リンは、二次会で彼らが演奏した2曲目の歌詞を思い浮かべた




「…【最後は結局君以外だったけど】…」


アットは驚いてリンを見た

「それ…」

「二次会で演奏しましたよね?【breaking dawnブレイキングドーン】っていう…」

「…うん、俺が作ったから…」

「なるほど。それであのストーリー性…」

リンは一人で納得して、一人でうなずいている

「あんたが覚えてくれているとは思わなかったな」

「印象深い歌詞だから。一度聞いたら覚えちゃいますよ」

「俺はそうは思わないけど」

「…」

アットは、リンの沈黙のわけを知りたくなった

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