74 / 113
ロシアンブルーは寝たい(2)
しおりを挟む
二人は店を出て新宿方面に向かって歩き出した
「アットさん、秋葉原じゃなかったでしたっけ?」
「飯誘ったの俺なんだから送らせてよ」
「タクシーで帰るので、気にしなくてもいいですよ」
リンはスマホを取り出すと、タクシーの配車アプリを開いた
「できれば歩きで送りたいんだけど…」
「は?大久保ですよ?」
「歩けなくはないだろ?」
「そうですけど…」
それは【送る】と言えるのだろうか
昨日の夜からいままで、休みなく考え動いていた
明日にはまたマサトに会って話をしなければならない
正直、いまはただ泥のように眠りたかった
「歩ききる自信がないんで、そうなったら途中でタクシー拾いますけど…」
「それでいいよ」
リンは、スマホをポケットにしまって歩き出した
「さっきの話の続きだけど、あんた自身がそういう経験をしたから、歌詞を強烈に覚えていたってことはない?」
アットはリンを振り返るような格好で歩いた
「あいにく。語れるほどの恋愛経験ないですから」
リンは冷たく言いはなった
それは本当だ
複雑な家庭環境、父親の死、継母との確執、一人で生きていくためにしてきたこと
確かに一人だけ、好きになった人はいたけれど…
アットはと言えば、後ろ向きに歩きながら、リンから理想の答えを聞きたくてウズウズしているように見えた
それならば…
「そうですね。もしそうだとしたら、俺はずっと、その人【以外】の人を【以外】としてしかみられなくなるんでしょうね」
リンはそう言って立ち止まった
そこは、一昨日訪れたばかりの、新宿御苑沿いの散策路だった
リンは、拳を握りしめた
「そんな悲しい人生、俺はいやだ」
心の底から絞り出すような声だった
アットが後ろ向きに歩くのをやめた
ガツンとハンマーで頭を殴られたような気がした
リンは、あくびを噛み殺して、
「と思っているので、アットさんの仮説は間違っていると思います。それじゃあ約束通り、限界なのでタクシーで帰ります」
スマホを操作した
※※※※※※※※※※※※
アットの歌は、あくまで歌で、人生ではない
リンもそのことはきっとわかっているだろう
わかっていても、伝えたかった
誤解させたままでいたくなかった
まだ未来に希望しかないはずの歳若き青年に
アットはリンのスマホを持つ手をつかんだ
※※※※※※※※※※※※
アットをタクシーに同乗させたはいいものの、空腹が満たされた気持ちよさに車の揺れの心地よさが加わり、リンは一瞬で眠りに落ちた
アットは、リンが寝落ちしたのを見て、さっきの自分の行動を深く突っ込まれずに済んで、とりあえずホッとした
人恋しいわけでも、傷を舐め合いたいわけでもない
それはわかって欲しかった
だが、こんな流れの中では、とてもわかってもらえるとは思えない
だから時間がほしかった
「アットさん、秋葉原じゃなかったでしたっけ?」
「飯誘ったの俺なんだから送らせてよ」
「タクシーで帰るので、気にしなくてもいいですよ」
リンはスマホを取り出すと、タクシーの配車アプリを開いた
「できれば歩きで送りたいんだけど…」
「は?大久保ですよ?」
「歩けなくはないだろ?」
「そうですけど…」
それは【送る】と言えるのだろうか
昨日の夜からいままで、休みなく考え動いていた
明日にはまたマサトに会って話をしなければならない
正直、いまはただ泥のように眠りたかった
「歩ききる自信がないんで、そうなったら途中でタクシー拾いますけど…」
「それでいいよ」
リンは、スマホをポケットにしまって歩き出した
「さっきの話の続きだけど、あんた自身がそういう経験をしたから、歌詞を強烈に覚えていたってことはない?」
アットはリンを振り返るような格好で歩いた
「あいにく。語れるほどの恋愛経験ないですから」
リンは冷たく言いはなった
それは本当だ
複雑な家庭環境、父親の死、継母との確執、一人で生きていくためにしてきたこと
確かに一人だけ、好きになった人はいたけれど…
アットはと言えば、後ろ向きに歩きながら、リンから理想の答えを聞きたくてウズウズしているように見えた
それならば…
「そうですね。もしそうだとしたら、俺はずっと、その人【以外】の人を【以外】としてしかみられなくなるんでしょうね」
リンはそう言って立ち止まった
そこは、一昨日訪れたばかりの、新宿御苑沿いの散策路だった
リンは、拳を握りしめた
「そんな悲しい人生、俺はいやだ」
心の底から絞り出すような声だった
アットが後ろ向きに歩くのをやめた
ガツンとハンマーで頭を殴られたような気がした
リンは、あくびを噛み殺して、
「と思っているので、アットさんの仮説は間違っていると思います。それじゃあ約束通り、限界なのでタクシーで帰ります」
スマホを操作した
※※※※※※※※※※※※
アットの歌は、あくまで歌で、人生ではない
リンもそのことはきっとわかっているだろう
わかっていても、伝えたかった
誤解させたままでいたくなかった
まだ未来に希望しかないはずの歳若き青年に
アットはリンのスマホを持つ手をつかんだ
※※※※※※※※※※※※
アットをタクシーに同乗させたはいいものの、空腹が満たされた気持ちよさに車の揺れの心地よさが加わり、リンは一瞬で眠りに落ちた
アットは、リンが寝落ちしたのを見て、さっきの自分の行動を深く突っ込まれずに済んで、とりあえずホッとした
人恋しいわけでも、傷を舐め合いたいわけでもない
それはわかって欲しかった
だが、こんな流れの中では、とてもわかってもらえるとは思えない
だから時間がほしかった
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
6
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる