新宿プッシールーム

はなざんまい

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エチゼンの暴走(1)

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夏に入った

【猫の涙の色】のアニメは、深夜枠で放送されるやいなや、アニメファンの間で好評を博した

ゲームのリリースは、スケジュールの関係上、アニメ終了後となったが、目処が経ったことで、最終的になぜか開発責任者となったエチゼンは、ホッと胸を撫で下ろした


その日、エチゼンは、アニメの方のアキラのクランクアップをお祝いするため、タキを誘ってスタジオを訪れた


原作者が行けば、声優やスタッフも気合いが入るし、アキラにも箔がつく

ましてやタキはあれだけの美形だ

演者じゃなくとも士気が上がった

「タキさん、ゲームの方の収録の時も激励よろしくお願いしますね」

エチゼンが耳打ちすると、タキが「もちろん。エチゼンの頼みなら」と言ってくれた




「アキヨシさん、クランクアップです」

助監督の言葉で、レコーディングブースやミキシングルームから拍手が上がった

レコーディングブースでは、アキラが監督から花束を受け取っていた


「アニメ出演はまだ2作目にも関わらず、主人公の妻という重要な役処を演じることができて、とても幸せでした」

アキラは目に涙をいっぱいに溜めながらも、堂々と挨拶をした

「男のという扱いづらい僕を起用してくださった、監督と助監督に感謝申し上げます」


エチゼンは隣に立つタキを見た
タキもまた、鼻の頭を赤くしてアキラを見つめている



“扱いづらい”

それは確かに世間の評価として多少なりともあるだろう

いまだに偏見が存在するのを、エチゼンも間近で見てきた

それでも皆、堂々と胸を張って生きているのだ


エチゼンの目から涙がこぼれた


タキがそれに気づいて、ハンカチを渡してくれた

アイロンがきれいにかかった、白くていい匂いのするハンカチだった


「タキさん!エチゼンさん!」

皆からお祝いの言葉をもらったアキラが、やっとエチゼンたちの方にやって来た

「アキラさん!すごいよかったです!」

エチゼンが手を差し出すと、アキラは照れ臭そうに握り返した


その時、アキラの袖の端に、できたばかりの赤い腫れを見つけた

エチゼンは、ヒヤと付き合い始めてから手首を見る癖がついた

ヒヤが自殺未遂をしないかどうか、常に警戒する必要があったからー




「…アキラさん、ちょっといいですか?」


エチゼンはアキラの手を取って廊下に出た

※※※※※※※※※※※

一部始終を見ていたタキは、二人が出ていったあと、壁の花になってため息をついた

正確に言えば、壁の高嶺の花である


監督とプロデューサーに挨拶して帰ろうかと逡巡していると、

「あれ、滋さんの結婚式の時にいたキレーなひと」

と声をかけられた

「あ…」

そこにいたのは滋の結婚式で知り合った、俳優の諏訪緑人すわりょくとだった


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