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変化の季節(1)
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「ただの壮大な痴話喧嘩だったってこと?」
「セックスで仲直りとか、それでいいんですか」
ヒヤの引っ越しの相談に乗ってくれていた九とタカスギが、喧々囂々とわめいた
風俗店の常で、1年前と比べて、メンバーのほとんどが入れ替わっており、1年以上前から働いているのは、九、タキ、ヒヤ、コタロー、そして、清掃スタッフのタカスギだけとなっていた
今日は珍しく、その全員が出勤していた
「何?なんの話?」
プレーを終えたタキが、シャワーを終えて控え室にやってきた
「ヒヤとエチゼン、ヨリ戻したらしいよ」
紙パックのジュースを握りしめて九が言った
「別れる直前に仲直りしたんですう」
エチゼンとの別れ話が進んでるとヒヤから聞いたのは、アキラとエチゼンの一件があってすぐのことだった
事情を知っているタキは、エチゼンがどこまでヒヤに話したか気になったが、ヒヤの話しぶりからは、アキラやタキとのことは知らないようだった
相手がいるセンシティブな話を、恋人と言えど安易に話さないところがエチゼンらしく好感がもてた
一方、相談と称してすぐに他人にプライベートな話をしてしまうヒヤは、タキの価値観の範囲外の住民だった
「へえ…よかったね」
「とりあえず向こうに好きなひとができたとかではなかったので…」
ヒヤがエヘヘと笑った
ヒヤは本当にかわいいと思う
タキも、キレイと言われることは多いが、同時に『高圧的』とか『冷たそう』と言われることがある
自分の方が【イイ男】だとは思うが、ヒヤの親しみやすくて構いたくなる雰囲気は、自分には出せない
そして、そこがエチゼンのツボに入っているのだとしたら、タキに勝ち目などないのだ
「ヒヤ、変わったもんね~」
九がヒヤの頭に手を置いて立ち上がった
ヒヤは、頭を押さえて九を目で追いながら
「どんなところですか?」
と聞いた
九は客室乗務員の服に袖を通しながら
「うーん?自由になった感じ?前は危うさがあって怖かったけど、いまは安心して見ていられるよ」
「…えへへ」
思いがけない賛辞に、ヒヤは照れ臭そうに笑った
九とタカスギが出ていってしまうと、タキとヒヤが残された
「ヒヤくん、次は?」
「9時半から1時間で入ってます。タキさんは?」
「俺は10時からだから、突発で入らなかったらしばらく休憩」
話し相手の九がいなくなって暇になったのか、ヒヤは手にしていたスマホを弄りだした
タキだけが気まずさを感じている状態だった
「ねえ、ヒヤくん」
タキは思いきって口を開いた
「なんですか?」
ヒヤは律儀にスマホから顔を上げた
「九も言ってたけど、なんでそんなに変わったの?」
ヒヤは『なんでそんな質問をするのか』という顔をした
「この歳で変わるのって、大変じゃない?」
タキがさらに食い下がると、ヒヤはスマホを伏せて置いた
前のヒヤなら、他人が真剣かどうかすら、察することができなかったと思う
ヒヤは右斜め上を見上げて、
「多分なんですけど、コースケから真剣に別れ話を切り出された時に、別れるのは絶対にイヤだと思って、コースケを繋ぎとめるためには、今のままじゃダメだって思ったんですよね」
ヒヤはテーブルの角を手のひらで押して伸びをした
「それでがむしゃらに頑張ったら、自分が悩んでいたりこだわっていたことが全部バカらしくなっちゃったというか…さっき九さんが『自由になったみたい』って言ってたけど、そのことだろうなって。コースケの気持ちが戻ってきたのはほんとラッキーなだけで…俺は出ていく直前まで、ダメだと思ってたから…」
ヒヤの声が震え出した
出ていく直前の恐怖を思い出したのもしれない
「俺は、こんなに人に優しくされたの初めてだったんです。自分が変わらなきゃって思って行動に移せたのも、真剣に人生に向き合えるようになったのも、コースケのお陰なんです」
ヒヤが目を細めてタキを見た
※※※※※※※※※※※
ヒヤがプレイルームに行ってしまうと、タキはひとりぼっちになった
控え室のドアの隙間からマサトの背中を伺う
マサトはイヤホンで音楽を聴きながら、雑誌を繰っていた
タキはスマホを取り出した
しばらく呼び出し音に耳を傾ける
『はい』
「ごめん、いま家?」
『はい。タキさんは?』
「仕事中だけど、みんな出ちゃったから」
『そうなんですね』
電話の相手の声は、どこかキレがなかった
「さっき、ヒヤから話を聞いて」
『あ…』
「気にしなくていいよ。ダメ元だったし」
『すみません』
「ヒヤ、本当に変わったね」
『はい。俺も嬉しいです』
「ヒヤのこと、悪く言ってごめんね」
『いえ…本当のことなので…』
電話の向こうで相手が笑った
「じゃあ…またゲームの方で」
『はい。今後ともよろしくお願いします』
相手は、何か特別なことを言うでもなく、タキより先に電話を切った
タキは長い息を吐いた
「セックスで仲直りとか、それでいいんですか」
ヒヤの引っ越しの相談に乗ってくれていた九とタカスギが、喧々囂々とわめいた
風俗店の常で、1年前と比べて、メンバーのほとんどが入れ替わっており、1年以上前から働いているのは、九、タキ、ヒヤ、コタロー、そして、清掃スタッフのタカスギだけとなっていた
今日は珍しく、その全員が出勤していた
「何?なんの話?」
プレーを終えたタキが、シャワーを終えて控え室にやってきた
「ヒヤとエチゼン、ヨリ戻したらしいよ」
紙パックのジュースを握りしめて九が言った
「別れる直前に仲直りしたんですう」
エチゼンとの別れ話が進んでるとヒヤから聞いたのは、アキラとエチゼンの一件があってすぐのことだった
事情を知っているタキは、エチゼンがどこまでヒヤに話したか気になったが、ヒヤの話しぶりからは、アキラやタキとのことは知らないようだった
相手がいるセンシティブな話を、恋人と言えど安易に話さないところがエチゼンらしく好感がもてた
一方、相談と称してすぐに他人にプライベートな話をしてしまうヒヤは、タキの価値観の範囲外の住民だった
「へえ…よかったね」
「とりあえず向こうに好きなひとができたとかではなかったので…」
ヒヤがエヘヘと笑った
ヒヤは本当にかわいいと思う
タキも、キレイと言われることは多いが、同時に『高圧的』とか『冷たそう』と言われることがある
自分の方が【イイ男】だとは思うが、ヒヤの親しみやすくて構いたくなる雰囲気は、自分には出せない
そして、そこがエチゼンのツボに入っているのだとしたら、タキに勝ち目などないのだ
「ヒヤ、変わったもんね~」
九がヒヤの頭に手を置いて立ち上がった
ヒヤは、頭を押さえて九を目で追いながら
「どんなところですか?」
と聞いた
九は客室乗務員の服に袖を通しながら
「うーん?自由になった感じ?前は危うさがあって怖かったけど、いまは安心して見ていられるよ」
「…えへへ」
思いがけない賛辞に、ヒヤは照れ臭そうに笑った
九とタカスギが出ていってしまうと、タキとヒヤが残された
「ヒヤくん、次は?」
「9時半から1時間で入ってます。タキさんは?」
「俺は10時からだから、突発で入らなかったらしばらく休憩」
話し相手の九がいなくなって暇になったのか、ヒヤは手にしていたスマホを弄りだした
タキだけが気まずさを感じている状態だった
「ねえ、ヒヤくん」
タキは思いきって口を開いた
「なんですか?」
ヒヤは律儀にスマホから顔を上げた
「九も言ってたけど、なんでそんなに変わったの?」
ヒヤは『なんでそんな質問をするのか』という顔をした
「この歳で変わるのって、大変じゃない?」
タキがさらに食い下がると、ヒヤはスマホを伏せて置いた
前のヒヤなら、他人が真剣かどうかすら、察することができなかったと思う
ヒヤは右斜め上を見上げて、
「多分なんですけど、コースケから真剣に別れ話を切り出された時に、別れるのは絶対にイヤだと思って、コースケを繋ぎとめるためには、今のままじゃダメだって思ったんですよね」
ヒヤはテーブルの角を手のひらで押して伸びをした
「それでがむしゃらに頑張ったら、自分が悩んでいたりこだわっていたことが全部バカらしくなっちゃったというか…さっき九さんが『自由になったみたい』って言ってたけど、そのことだろうなって。コースケの気持ちが戻ってきたのはほんとラッキーなだけで…俺は出ていく直前まで、ダメだと思ってたから…」
ヒヤの声が震え出した
出ていく直前の恐怖を思い出したのもしれない
「俺は、こんなに人に優しくされたの初めてだったんです。自分が変わらなきゃって思って行動に移せたのも、真剣に人生に向き合えるようになったのも、コースケのお陰なんです」
ヒヤが目を細めてタキを見た
※※※※※※※※※※※
ヒヤがプレイルームに行ってしまうと、タキはひとりぼっちになった
控え室のドアの隙間からマサトの背中を伺う
マサトはイヤホンで音楽を聴きながら、雑誌を繰っていた
タキはスマホを取り出した
しばらく呼び出し音に耳を傾ける
『はい』
「ごめん、いま家?」
『はい。タキさんは?』
「仕事中だけど、みんな出ちゃったから」
『そうなんですね』
電話の相手の声は、どこかキレがなかった
「さっき、ヒヤから話を聞いて」
『あ…』
「気にしなくていいよ。ダメ元だったし」
『すみません』
「ヒヤ、本当に変わったね」
『はい。俺も嬉しいです』
「ヒヤのこと、悪く言ってごめんね」
『いえ…本当のことなので…』
電話の向こうで相手が笑った
「じゃあ…またゲームの方で」
『はい。今後ともよろしくお願いします』
相手は、何か特別なことを言うでもなく、タキより先に電話を切った
タキは長い息を吐いた
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