新宿プッシールーム

はなざんまい

文字の大きさ
100 / 113

変化の季節(2)

しおりを挟む
そのボックス席にはいつも【reservation予約席】の札が置かれている

その客が来るのは月に1回か2回だというのに、いつ何時フラッとやって来ても対応できるよう、常に【reserve】してあるのだ



その日は、ひと月ぶりに札が外された



「はせがわーあの件どーなった?」

ハセがおしぼりでひよこを作りながら言った
すでにツレの分のおしぼりで、2匹のひよこを作り上げていた


「権利関係と税金関係の手続きで年内いっぱいかかりそうですが、売り上げは報告している通りなので…」

カフェの売り上げは、丸々ハセのところにいくようになった

経費などのやりくりは、長谷川が間に入って調整をしているため、ミナミは知らない

「ふーん。ところでさ、俺知らなかったんだけど、ここの店長、アイナと付き合ってるんだって?」

「俺は存じ上げませんが…」

「雑誌の写真、見たことあると思ったら、前にプッシールームガキの店にいたヤツだよな?存じ上げないなんてことあるか?」



ついに来たか、と長谷川は思った

どこから突っ込まれるのだろうか

カフェは自分とミナミの宝物で、子供で命だ

ミナミはどう思っているのかは知らないが、長谷川はそう思っている

とはいえ、店は所詮、本当の子供ではないのだから最悪手放せばいい


だが、ミナミ本人に害が及ぶようなことがあれば、自分が何をしてしまうか自分でもわからない


長谷川は何も答えずに、頭を下げてその場を離れた



長谷川が戻ってくると、カウンターに座っていた客が声をかけてきた

「予約のお客さん、ついにいらしたんですね」



その客を見た長谷川は、動揺が悟られないよう努めて冷静に答えた


「タキさん、お一人で来るのは初めてですよね?」

タキはマティーニで1杯で上機嫌になっていた


タキは以前、ミナミに連れられてこの店に来たことがあった

長谷川の正体はもちろん知らない


「ちょっと失恋しまして、人との待ち合わせの前に一杯飲みたかったんですよね」 

「タキさんを振るなんてとんでもない男ですね」


言った後、即座に『しまった』と思った


これではまるで、タキがゲイだと知っているかのようだ

ハセの急訪のせいで頭が働いていないのが、自分でもわかった



意外にもタキは勘ぐったりはせず、
「やっぱりバレてましたか」
と笑った


「ゲイ同士だとお互い感づいたりするんですが、マスターはノンケですよね?ここも普通のバーだし」


「そうですが、タキさんは男性から見ても、惚れそうになるくらいキレイですからね」

「マスターに言われると悪い気しないな。でも性格は悪いんでモテないんですよね」

「そんな風にはとても…ところで、今日はどうして?」

長谷川はハセのテーブルを盗み見た
まだこちらを気にしている様子がないが、これからタキとバッティングすると厄介だ

タキに自分の立場かバレるのも困るし、ハセにタキのことがバレてもいいことはないだろう

「実は知り合いとの待ち合わせに使わせてもらいました。そろそろ来ると思うんですが…」

そんな話をしていると、オークのドアがちょうど開いて、サングラスとキャップをつけた、長身でスタイルのいい男性が現れた

「あ、来ました。不特定多数のひとがあまり来ない隠れ家的な店って、ここしか知らなくて」

店内を見回していた男性は、タキに気がつくと、小走りでタキの隣にやって来た

「お待たせしました」
「マスターが話し相手になってくれたから」
「ありがとうございます」

男性は、長谷川に軽く頭を下げて椅子に座った

「せっかくだから1杯飲みますか?」
「じゃあ生で」
「ここのマスターのカクテルおいしいから、苦手じゃなければオススメですよ」
「じゃあ、タキさん選んでくれます?」


男性は持っているもの、立ち居振舞い、雰囲気からしてただ者ではなく、タキと並んでいても遜色ない、お似合いのカップルに見えた

タキは男性のために【バラライカ】を頼んだ

バラライカのカクテル言葉は『恋は焦らず』だ

タキは知っていて頼んだのだろうか
長谷川はタキと男性を見比べた


男性が羽織っていた薄手のパーカーを脱いだ

「あれ?こんなにがっちりしてたっけ?」

タキが男性の腕を触った

「役作りで急ピッチで仕上げました」
「刑事の役だっけ?」
「はい」
「はまり役。観に行きますね」
「あ、だったらプレミアム試写会に招待するから…」


男性は長谷川からバラライカを受けとると、タキと乾杯した

会話の内容から芸能関係者ということがわかる

若手俳優の諏訪緑人に似ているように思うが、サングラスをしているからはっきりとはわからない

どちらにしろ、お似合いのカップルにしか見えない


「マスターお会計お願いします」

男性が飲み終わると、タキが声をかけた

「俺が出しますよ」

男性が財布を出そうとするタキを遮った

「今日は僕が誘ったから」

「次回に繋げたいんですよ、わかりませんか」

男性のその一言が決め手となって、タキが折れた


二人が出ていき、カウンターの中から席を片付けていると、いつの間にかハセが目の前に立っていた

「今日はこれで帰るわ」

「お構いできませんで」

「酒が飲めればなんでもいーよ」

この日、ハセは、お気に入りのウイスキーのボトルを入れて飲んでいた

ツレと静かに話し込んでいたから邪魔ではなかったが、そこに存在しているだけで威圧感と不安が拭えなかった



「そういえば、さっきまでここにいた客」

ハセがタキが座っていた席を指差した
長谷川は思わず手の動きを止めた

「あれも確か、ガキの店にいた…確かペルシャ猫…」

ハセが長谷川を見てニヤリと笑った
長谷川はその顔を見なかったことに決めた

「…ただのお客さんですよ。それに正しくは男性です」

「わかってるって。でもあんな上物はそうそういねーからな。実物は写真より数倍いい」

長谷川の言葉などまるで聞いていない





「一度寝てみてーな」




ハセの病気はいつ発症するかわからない

長谷川は首を横に振った

「いくらハセさんでも…」

「風俗店で働いていてできないはないだろ。ゲイなんだし。金なら払うぜ?」

ハセはツレに財布を出させ、カウンターに1万円札をばらまいた

「前金」

ハセはそう言って、店を出ていった




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...