新宿プッシールーム

はなざんまい

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猫たちの罠

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目が覚めたら、そこはだった

姉を殺害して手にいれた不動産のひとつで、かつては姉が住んでいた部屋だ

ベッドからガラス張りの洗面所とバスルームが見える

こんなラブホテル紛いの部屋を、姉が気に入っていた理由はわからないが、おかげでハセはAV撮影や売春用の部屋として貸し出し、少なくない売り上げを得られている



(俺は確かホテルにいたはず…)

連れの男もいなくなっていた

長谷川を何度も脅して、口説いてもらった極上の男

「おい!クロタキ!どこだ!」

ハセは大声で叫んだが、返事はなかった

ハセはベッドから起き上がろうとしたが、手足が拘束されていて動かない

「なんだ?!これ…おい!誰かいるのか?!」

もちろん誰からも返事はない

その時、リビングの方から物音がした

「おい!誰かいるのか?!」

ドアノブがカチリと鳴ってゆっくりと下りた

ハセはドアを凝視した

ゆっくりと開いたドアから顔を出したのは姉の華だった

「な…」

ハセは逃げようともがいた

だが、華はどんどん近づいてくる

『直之…なんで芳賀に私を殺させたの』

「…姉貴…なんで…」

逃げたくても、手足に枷でもはめられたように動かない

『なんで私を殺したの?』

ついに華がベッド脇までやってきた

生前と変わらず、若々しく美しかったが、その変化のなさがより一層不気味さを際立たせた

「どうして…」

『直之…今度はあなたの番よ…』

※※※

「こっわっ!!!」

ラップトップのモニターを見ていた一同が悲鳴を上げた

ハセの枕元で、VRを操作しているのはコタローである

マサトに頼まれて、VRで部屋を再現した

実物の部屋は見たことなかったが、資料は意外なところにあった

「まさかヒヤさんの作品に、この部屋が使われているなんて」

トワがVRの出来に感心しながら言った

「オレが持ってたの!リンくんの間取り図見たときにピンと来たんだよね」

自慢げに語る鮭児を、一同が冷ややかな目で見た


コタローがハセの視線やセリフに合わせて華のアバターを動かした

「声もこわいなー…てかこの声もしかして…」

タキの呟きにコタローが、「アキラ」と答えた

おそらく生前の華とは似ても似つかないであろうアキラの声を思い出して、タキは苦笑いをした

「悪かった!俺が悪かった!拘置所にいるなら俺に疑いはかけられないと思ったんだ!」

ハセがベッドの上で暴れた
いまや、華の顔が、目前まで近づいてきて、ハセの目を覗き込んでいる

『それで長谷川と芳賀を使ったのね…』

ハセはついに目をつむった

「そう!そうだ!やり方はあいつらに任せた!実際にやった方を俺の右腕にするからと。そしたら芳賀がやったんだ。だから俺は芳賀に俺の事業を全部預けて、長谷川にはリンガキのお守りをさせたんだ。最悪長谷川はガキと共に切ればいいと思ってー」

『やっぱり、リンのモノにも手を出したのね』

「でも結局長谷川がヘマしたからー」



【あんなにリンには手を出すなと言ったのに!】

※※※

コタローの手が止まった

「どうした?」

タキがコタローの異変に気づいて声をかけた

「失神したっぽい」

見ると、ハセは失禁したまま意識を失っていた

「よし。録音はできてる?」

タキが確認すると、コタローがうなずいた

「でも」

「何?」

撤収を始めていた皆がコタローに注目した

「最後のセリフはなかった…はず」

「は?」

「アキラに頼んでないし、俺も入力してない」

その場にいた皆の顔から血の気が引いた

「それってつまり?」

皆同じ答えを予測していた

「…華、ホンモノ」

コタローだけが顔色ひとつ変えずに言った


※※※※※※※※※※※

リンとマサトは、いつもプッシールームのいざこざに対応してくれている曽根刑事を通して、新宿署に注射器とハセの証言を提出した



「本当に行くんですか?」

リンが長谷川に聞いた

「最初からそのつもりだったからな」


リンは迎えに来た曽根に向かって
「長谷川さんも罪に問われるんでしょうか」
と聞いた

「犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪には問われる可能性はありますね」

曽根の答えを受けて、今度は長谷川が

「リンはどうなりますか?」

「知らないで置いただけなら罪には問われない。それもお前が証言するんだろ?」

「はい」

長谷川の目に迷いはなかった

曽根は、そんな長谷川を見てうなずき、
「芳賀とハセ、キリヤも逮捕された。これで俺も肩の荷が下りたよ」
と言って伸びをした


リンはずっと気になっていたことを思いきって聞いてみた

「曽根さんは、継母ハハとどういう関係だったんでしょうか」

今なら聞いてもいい気がした

「どういうって?」

「昔の知り合いというだけで、こんなに便宜を図ってもらえるものなんでしょうか」

曽根はリンを見て、「君が思っているようなことはないけど、未練があったのは確かだよ」と笑った

曽根は、目尻と口元に皺をいっぱい作って笑うひとだった


「マサト」

二人のやり取りを眺めていたマサトに、長谷川が声をかけてきた

「はい?」

「前にお前が言ったんだよな。『総取り』って。おまえの言う通り、俺は全部ほしくなったんだ。ハセあいつの店、リンの義叔父という立場、ミナミの居場所、ヒヤやタキや九が安心して働ける場所。そのなかにはお前も入っていた。もちろん滋さんも」

「わかってます。あんた人がすぎるんだもん。全部抱え込まなくてもよかったんだ」

「いつか償おうと思ってた。遅くなったけど、悪かったな」

「仕方ないですよ」

リンとの話を終えた曽根が、今度はマサトと長谷川の話が終わるのを待っていた

「すみません。いま行きます」

そう言って長谷川は曽根に伴われて車に乗った


長谷川が行ってしまうと、マサトが、「トワさんのお願いも叶えないとな」と言った

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