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第1話 講師、新たな勇者と出会う
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「レン様! すぐに謁見の間にいらして下さい! 王様がお呼びです!」
自分の執務室で黙々と書類の整理をしていた僕の元に、息を切らした中年の男性が部屋の扉をぶち破らんばかりの勢いで開け放ちながら現れた。
シックな臙脂色の礼服を身に纏い、なかなか整った顔立ちをしているが、丸々と飛び出た腹と大分後退してまばらな禿山となった頭髪がかなり残念なことになっている人物である。随分と息を切らして額にてかてかとした汗を浮かべているのは、おそらく謁見の間から此処まで走ってきたからだろう。王様をお待たせさせないというその心意気は立派だが、もう少し自分の年齢を考えた方がいいと僕は思う。
僕は手にしていた羽根ペンを机の上に置いて、顔を上げた。
「一体何事ですか、ゴルド大臣。王様がお呼びなのは理解しましたが、そんなに慌てたりして」
「先程、宮廷魔道士たちが召喚の間から務めを終えて出てきました。新たな勇者様を召喚することに成功したのですよ!」
「……またですか?」
僕は眉を顰めた。
僕の記憶が正しければ、この国が前回勇者召喚の儀式を執り行ったのは丁度一ヶ月前だったと思う。古代の秘術とまで言われている勇者召喚の儀をこう立て続けに成功させられるのは凄いと思うけど、流石に一ヶ月で新しい勇者を召喚するのはちょっと早いような気がする。
まあ、理由は薄々予想は付いてるけど……一応、確認のために僕は尋ねてみた。
「……因みに、以前召喚した勇者殿はどうしたんですか?」
「それが……」
ゴルド大臣は懐から取り出した真っ白なハンカチで額の汗を拭いながら、微妙に気まずそうに答えた。
「アランド炭鉱で炭鉱夫たちの仕事の手伝いをしていたら、何でもそこで見つからないと言われていた新たな黒鉄鉱の鉱脈を偶然掘り当てたらしくて……それで何かに目覚めてしまったようで『鉱山王に俺はなる!』と宣言して勇者を辞めて炭鉱夫に転身してしまったと、元仲間だった冒険者たちが呆れておりました」
「…………」
魔物に殺されたわけじゃなかったのか……
まあ、生き甲斐を見つけたのは喜ばしいことだとは思うけど、何もそれを魔王討伐を目指す旅の途中に見出さなくてもいいんじゃって思う。
本当に、召喚勇者というのはゴーイングマイウェイな奴が多すぎる。
一応自分がこの世界に住んでいる多くの人間の期待と未来を背負っているんだということを、ちゃんと自覚してほしいものである。
僕は溜め息をついて席を立った。
「分かりました。すぐに謁見の間に向かいます。……その新たに召喚された勇者殿も、そこに?」
「ええ。今は王様とお話しておられます。若くてやる気に満ち溢れておられる方ですよ」
「まあ、やる気があるというのは良いことですね」
ゴルド大臣の言葉に答えながら、僕は彼を引き連れて執務室を出た。
……さて、今度の勇者は一体どんな人物なんだろう。
謁見の間に向かうまでの間、少しだけ僕自身のことを語ろう。
僕の名前はレン・タカナシ。此処ログリフト王国で召喚勇者専属の指導講師を行っている。
召喚勇者というのは、異世界から召喚された人間だからこの世界における常識を全く知らない。持っているのは自分が異世界から召喚された人間であるという認識だけだ。そんな彼らに、この世界で生きて行くための基本的な知識を教えて一人前の勇者に育て上げるのが僕の仕事なのである。
昔は、召喚した勇者を幾許かの旅に必要な資金を与えてすぐに旅立たせるのが当たり前だったらしい。しかしそれではこの世界で生きる術をまともに知らない勇者が街に出てすぐ魔物に殺されてしまうことが多かったため、それを防ぐために勇者を支援するための取り組みの一環として二年前に作られた役職なのだ。
この世界は何の予備知識もない異世界人が生きるには過酷過ぎる環境である。僕もかつては召喚勇者だったから、それはよく分かる。
僕は、名前を見れば分かるかもしれないが、日本からやって来た人間だ。
僕は三年前に、勇者としてこの国に召喚された。
僕も最初は真面目に勇者として頑張った。運動が苦手な体を懸命に動かして剣術の鍛錬をして、人よりも大分劣っている魔力で魔法を操る努力もしたのだ。
しかし、僕が勇者として召喚されて一年経ったある日。国からの命令で僕とパーティを組んでいた冒険者たちに宣告されたのである。「お前は剣の腕も魔法の腕も一般人以下だ。お前みたいな奴を勇者として扱って一緒に魔王討伐の旅に行かなきゃならないなんて我慢ならない」と。
遂には「パーティを解散しないならこの場で再起不能になるまで叩きのめして無理矢理追い出してやる」と脅されて、泣く泣く勇者稼業を引退させられる羽目になってしまったのである。
皆の申し出を受け入れたことで何とかこの国まで送り届けてもらうことができた僕は、事の経緯を包み隠さず王様に説明して、これからは一般人として暮らしていくことを告げた。
その時に王様から、僕が今までに培ってきた勇者としての知識と経験を生かして勇者専属の指導講師として此処で働いてみないかと誘われて、現在に至る──というわけだ。
僕には力も魔力もない。でも、一生懸命に頑張って学んで身に付けた勇者としての知識と、たった一年だけだけど勇者として活動している間に得た経験がある。それを生かして、第二第三の僕を生み出さないために、これからこの国に現れるであろう新たな勇者たちをしっかりと一人前に教育していこうと決めたのだ。
──話していたらあっという間だった。謁見の間に到着したよ。
僕は固く閉ざされている大きな扉をノックした。
「レンです。失礼致します」
観音開きの扉を両手でゆっくりと押し開く。
赤い絨毯が敷かれ、壁に国旗や盾などの観賞用の武器が飾られた眩い部屋の中央。そこに、椅子に腰掛けた王様と、彼が新たに召喚されたという勇者だろう──若くてそこそこ目鼻立ちが整った若者が佇んでいた。
若者は、ざっと見て身長は百七十センチくらいと、あまり長身ではない。中肉中背で、無駄な肉はないが筋肉もあまり付いていない、何とも微妙な体つきをしている。黒髪で、黒目。よく見ると右目の下に少し大きめのほくろがある。身に着けているものは白いTシャツと紺のジーンズっぽいズボンで、Tシャツの中央には大きく黒い殴り書きのような字で『変態参上!』と書かれていた。そういうデザインの服を普通に売っているという事実にも驚きだが、もう少し世間の目を考えて着る服を選べよ、と突っ込みたくなった。
黒髪黒目は典型的な日本人の特徴である。Tシャツに書かれてる字も日本語だし間違いない。この若者は僕と同じように日本から召喚されたのだ。
「おお、来たか、レン。御主を待っていたぞ」
王様は椅子から静かに立ち上がり、言った。
王様は今年で六十歳になると言っていたが、髪もまだ白髪がなく綺麗な金髪だし、髭も立派でなかなかダンディだ。まだ四十代前半らしいゴルド大臣の方が年上に見えるくらいである。
「この者が今日新たに召喚された勇者殿だ。名は……」
「渡来睦月です。初めまして」
ムツキは気さくに微笑んで右手を僕へと差し出してきた。
服装の趣味は変だけど、礼儀はちゃんとしてる人なんだな。
召喚勇者の中には、自分が選ばれし者なんだと豪語して傍若無人に振る舞う奴もいたからな……それと比較したら随分まともそうな印象である。
これなら、これからの関係作りにも期待が持てるかもしれない。
「御丁寧にどうも。レン・タカナシです」
僕は微笑み返して差し出された右手を握った。
「これから、貴方が一人前の勇者になれるように懇切丁寧に教えさせて頂きます。短い付き合いになるかもしれませんが、宜しくお願い致します」
「あ、別に鍛えてもらわなくても大丈夫ですよ! 俺、希望の戦士なんで! 一人でもすぐに強くなれますから!」
ムツキは僕と握手をしていた手を引っ込めると、白い歯を見せてぺかっと笑った。
僕の微笑が微妙に引き攣った。
「……はい?」
「ですから、俺は希望の戦士なので! この世界の神様の加護を受けてるので、死んだりしませんから! だから大丈夫です!」
「……えっと、その……」
まるで有名オンラインゲームに出てくる主人公を気取っているようなノリだ。
今もあのゲーム、サービス続いてるんだろうか……僕がまだ日本にいた三年前は人気絶頂だったけど、どうなんだろう。
ムツキは僕の目の前をすたすたと通り過ぎて扉の前まで行き、振り返って、言った。
「それじゃあ、早速レベル上げしてきます! 多分三十分もあればレベル五くらいにはなると思うんで!」
「レベル上げって……ちょっと、勇者さん?」
「行ってきます!」
僕の制止も何処吹く風。ムツキは勢い良く扉を開いて、颯爽と謁見の間から飛び出していった。
後に残された王様が、微妙に小首を傾げながらも口元に笑みを浮かべている。
「言っていることはいまいち理解できんが……やる気に溢れていてなかなか期待できそうな若者だな。彼が一人前の勇者として立派に育ってくれれば、必ずや魔王を討ち果たしてこの世界を平和に導いてくれるだろう」
「そうですな……今後が楽しみですな! 王様!」
ゴルド大臣も期待に満ちた眼差しで開かれたままの扉を見つめている。
僕は……その場に立ち尽くしたまま、胸中で頭を抱えていた。
……何か壮絶に嫌な予感がする。あの勇者、まともそうに見えたけど全然普通じゃなかった。
本当ならば今すぐ追いかけていって引き止めたかったが、あの足の早さは普通ではなかった。僕の体力と歩行速度では絶対に追いつけそうにないから、後を追うだけ無駄だ。
いきなり魔物に殺されました、なんてことにだけはならないでもらいたいところだが……
とりあえず、無事でいてほしいものだ。そう願わずにはいられなかった。
そして、僕が執務室で書類整理の仕事を再開して三十分後。
僕はゴルド大臣から、ある一報を受け取ることになる。
それは──ムツキが城下町の畑にあった案山子を素手で殴り壊して憲兵に現行犯逮捕されたという知らせだった。
自分の執務室で黙々と書類の整理をしていた僕の元に、息を切らした中年の男性が部屋の扉をぶち破らんばかりの勢いで開け放ちながら現れた。
シックな臙脂色の礼服を身に纏い、なかなか整った顔立ちをしているが、丸々と飛び出た腹と大分後退してまばらな禿山となった頭髪がかなり残念なことになっている人物である。随分と息を切らして額にてかてかとした汗を浮かべているのは、おそらく謁見の間から此処まで走ってきたからだろう。王様をお待たせさせないというその心意気は立派だが、もう少し自分の年齢を考えた方がいいと僕は思う。
僕は手にしていた羽根ペンを机の上に置いて、顔を上げた。
「一体何事ですか、ゴルド大臣。王様がお呼びなのは理解しましたが、そんなに慌てたりして」
「先程、宮廷魔道士たちが召喚の間から務めを終えて出てきました。新たな勇者様を召喚することに成功したのですよ!」
「……またですか?」
僕は眉を顰めた。
僕の記憶が正しければ、この国が前回勇者召喚の儀式を執り行ったのは丁度一ヶ月前だったと思う。古代の秘術とまで言われている勇者召喚の儀をこう立て続けに成功させられるのは凄いと思うけど、流石に一ヶ月で新しい勇者を召喚するのはちょっと早いような気がする。
まあ、理由は薄々予想は付いてるけど……一応、確認のために僕は尋ねてみた。
「……因みに、以前召喚した勇者殿はどうしたんですか?」
「それが……」
ゴルド大臣は懐から取り出した真っ白なハンカチで額の汗を拭いながら、微妙に気まずそうに答えた。
「アランド炭鉱で炭鉱夫たちの仕事の手伝いをしていたら、何でもそこで見つからないと言われていた新たな黒鉄鉱の鉱脈を偶然掘り当てたらしくて……それで何かに目覚めてしまったようで『鉱山王に俺はなる!』と宣言して勇者を辞めて炭鉱夫に転身してしまったと、元仲間だった冒険者たちが呆れておりました」
「…………」
魔物に殺されたわけじゃなかったのか……
まあ、生き甲斐を見つけたのは喜ばしいことだとは思うけど、何もそれを魔王討伐を目指す旅の途中に見出さなくてもいいんじゃって思う。
本当に、召喚勇者というのはゴーイングマイウェイな奴が多すぎる。
一応自分がこの世界に住んでいる多くの人間の期待と未来を背負っているんだということを、ちゃんと自覚してほしいものである。
僕は溜め息をついて席を立った。
「分かりました。すぐに謁見の間に向かいます。……その新たに召喚された勇者殿も、そこに?」
「ええ。今は王様とお話しておられます。若くてやる気に満ち溢れておられる方ですよ」
「まあ、やる気があるというのは良いことですね」
ゴルド大臣の言葉に答えながら、僕は彼を引き連れて執務室を出た。
……さて、今度の勇者は一体どんな人物なんだろう。
謁見の間に向かうまでの間、少しだけ僕自身のことを語ろう。
僕の名前はレン・タカナシ。此処ログリフト王国で召喚勇者専属の指導講師を行っている。
召喚勇者というのは、異世界から召喚された人間だからこの世界における常識を全く知らない。持っているのは自分が異世界から召喚された人間であるという認識だけだ。そんな彼らに、この世界で生きて行くための基本的な知識を教えて一人前の勇者に育て上げるのが僕の仕事なのである。
昔は、召喚した勇者を幾許かの旅に必要な資金を与えてすぐに旅立たせるのが当たり前だったらしい。しかしそれではこの世界で生きる術をまともに知らない勇者が街に出てすぐ魔物に殺されてしまうことが多かったため、それを防ぐために勇者を支援するための取り組みの一環として二年前に作られた役職なのだ。
この世界は何の予備知識もない異世界人が生きるには過酷過ぎる環境である。僕もかつては召喚勇者だったから、それはよく分かる。
僕は、名前を見れば分かるかもしれないが、日本からやって来た人間だ。
僕は三年前に、勇者としてこの国に召喚された。
僕も最初は真面目に勇者として頑張った。運動が苦手な体を懸命に動かして剣術の鍛錬をして、人よりも大分劣っている魔力で魔法を操る努力もしたのだ。
しかし、僕が勇者として召喚されて一年経ったある日。国からの命令で僕とパーティを組んでいた冒険者たちに宣告されたのである。「お前は剣の腕も魔法の腕も一般人以下だ。お前みたいな奴を勇者として扱って一緒に魔王討伐の旅に行かなきゃならないなんて我慢ならない」と。
遂には「パーティを解散しないならこの場で再起不能になるまで叩きのめして無理矢理追い出してやる」と脅されて、泣く泣く勇者稼業を引退させられる羽目になってしまったのである。
皆の申し出を受け入れたことで何とかこの国まで送り届けてもらうことができた僕は、事の経緯を包み隠さず王様に説明して、これからは一般人として暮らしていくことを告げた。
その時に王様から、僕が今までに培ってきた勇者としての知識と経験を生かして勇者専属の指導講師として此処で働いてみないかと誘われて、現在に至る──というわけだ。
僕には力も魔力もない。でも、一生懸命に頑張って学んで身に付けた勇者としての知識と、たった一年だけだけど勇者として活動している間に得た経験がある。それを生かして、第二第三の僕を生み出さないために、これからこの国に現れるであろう新たな勇者たちをしっかりと一人前に教育していこうと決めたのだ。
──話していたらあっという間だった。謁見の間に到着したよ。
僕は固く閉ざされている大きな扉をノックした。
「レンです。失礼致します」
観音開きの扉を両手でゆっくりと押し開く。
赤い絨毯が敷かれ、壁に国旗や盾などの観賞用の武器が飾られた眩い部屋の中央。そこに、椅子に腰掛けた王様と、彼が新たに召喚されたという勇者だろう──若くてそこそこ目鼻立ちが整った若者が佇んでいた。
若者は、ざっと見て身長は百七十センチくらいと、あまり長身ではない。中肉中背で、無駄な肉はないが筋肉もあまり付いていない、何とも微妙な体つきをしている。黒髪で、黒目。よく見ると右目の下に少し大きめのほくろがある。身に着けているものは白いTシャツと紺のジーンズっぽいズボンで、Tシャツの中央には大きく黒い殴り書きのような字で『変態参上!』と書かれていた。そういうデザインの服を普通に売っているという事実にも驚きだが、もう少し世間の目を考えて着る服を選べよ、と突っ込みたくなった。
黒髪黒目は典型的な日本人の特徴である。Tシャツに書かれてる字も日本語だし間違いない。この若者は僕と同じように日本から召喚されたのだ。
「おお、来たか、レン。御主を待っていたぞ」
王様は椅子から静かに立ち上がり、言った。
王様は今年で六十歳になると言っていたが、髪もまだ白髪がなく綺麗な金髪だし、髭も立派でなかなかダンディだ。まだ四十代前半らしいゴルド大臣の方が年上に見えるくらいである。
「この者が今日新たに召喚された勇者殿だ。名は……」
「渡来睦月です。初めまして」
ムツキは気さくに微笑んで右手を僕へと差し出してきた。
服装の趣味は変だけど、礼儀はちゃんとしてる人なんだな。
召喚勇者の中には、自分が選ばれし者なんだと豪語して傍若無人に振る舞う奴もいたからな……それと比較したら随分まともそうな印象である。
これなら、これからの関係作りにも期待が持てるかもしれない。
「御丁寧にどうも。レン・タカナシです」
僕は微笑み返して差し出された右手を握った。
「これから、貴方が一人前の勇者になれるように懇切丁寧に教えさせて頂きます。短い付き合いになるかもしれませんが、宜しくお願い致します」
「あ、別に鍛えてもらわなくても大丈夫ですよ! 俺、希望の戦士なんで! 一人でもすぐに強くなれますから!」
ムツキは僕と握手をしていた手を引っ込めると、白い歯を見せてぺかっと笑った。
僕の微笑が微妙に引き攣った。
「……はい?」
「ですから、俺は希望の戦士なので! この世界の神様の加護を受けてるので、死んだりしませんから! だから大丈夫です!」
「……えっと、その……」
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今もあのゲーム、サービス続いてるんだろうか……僕がまだ日本にいた三年前は人気絶頂だったけど、どうなんだろう。
ムツキは僕の目の前をすたすたと通り過ぎて扉の前まで行き、振り返って、言った。
「それじゃあ、早速レベル上げしてきます! 多分三十分もあればレベル五くらいにはなると思うんで!」
「レベル上げって……ちょっと、勇者さん?」
「行ってきます!」
僕の制止も何処吹く風。ムツキは勢い良く扉を開いて、颯爽と謁見の間から飛び出していった。
後に残された王様が、微妙に小首を傾げながらも口元に笑みを浮かべている。
「言っていることはいまいち理解できんが……やる気に溢れていてなかなか期待できそうな若者だな。彼が一人前の勇者として立派に育ってくれれば、必ずや魔王を討ち果たしてこの世界を平和に導いてくれるだろう」
「そうですな……今後が楽しみですな! 王様!」
ゴルド大臣も期待に満ちた眼差しで開かれたままの扉を見つめている。
僕は……その場に立ち尽くしたまま、胸中で頭を抱えていた。
……何か壮絶に嫌な予感がする。あの勇者、まともそうに見えたけど全然普通じゃなかった。
本当ならば今すぐ追いかけていって引き止めたかったが、あの足の早さは普通ではなかった。僕の体力と歩行速度では絶対に追いつけそうにないから、後を追うだけ無駄だ。
いきなり魔物に殺されました、なんてことにだけはならないでもらいたいところだが……
とりあえず、無事でいてほしいものだ。そう願わずにはいられなかった。
そして、僕が執務室で書類整理の仕事を再開して三十分後。
僕はゴルド大臣から、ある一報を受け取ることになる。
それは──ムツキが城下町の畑にあった案山子を素手で殴り壊して憲兵に現行犯逮捕されたという知らせだった。
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