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第42話 ルミルーラ草採集依頼
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ルミルーラ草とは、マキシポーションというポーションの上位薬の材料となる薬草らしい。
ライムライム高原の中のごく限られた場所にしか生えていない貴重な植物で、市場では結構な高値で取引されているものなのだそうだ。
今までは冒険者ギルドが発行する薬草採集の仕事を引き受けた者たちがギルドに品物を納品してくれていたから仕入れることができていたのだが、とある問題が起きたせいで、最近はすっかり仕入れが途絶えてしまったという。
その問題というのが。
「ルミルーラ草が生えている場所に森豚が棲み付いてしまってね……危険だからって薬草採集に行く人がいなくなってしまったんだよ」
森豚とは猛獣の一種で、通常は森なんかの自然豊かな場所に棲んでいる生き物らしい。
森から滅多に出てくることがない生き物が、何故身を隠せる木がないような場所に棲み付いたのかは定かではない。しかしそいつのせいで、薬草を採ることができなくなってしまったのは紛れもない事実だった。
薬草採集の仕事を引き受けるのは戦うなどの荒事を得意としない者が多いため、彼らでは採集場所に居座った森豚を何とかすることは到底できなかった。
事を重く見た冒険者ギルドは一応森豚駆除の仕事を発行して任務に当たってくれる冒険者を募ってはいるものの、仕事を引き受けるかどうかは冒険者が判断することのため、すぐに事が解決するとは限らない。
人を募っている間にも、工房に残っているマキシポーションの在庫は減っていく。このままでは在庫が底をつき、商売にならなくなってしまう。
そこで主人は、俺たちを腕の立ちそうな旅人だと見込んで取引を持ちかけたのだという。
主人が提示した依頼の内容は、用意した麻袋一杯にルミルーラ草を採集して持ち帰ること。あくまで目的は薬草を得ることなので、万が一森豚に遭遇してもそれを駆除するかどうかはこちらの判断に任せるとのことだった。
何だか都合良く利用された感が否めないが、俺がトルネードカッターを欲しいと思ったのは紛れもない事実だし、猛獣の一匹くらい何とでもなるだろうと思ったので、俺は主人からの依頼を引き受けたのだった。
フォルテたちは奇妙なものを欲しがるんだなとでも言いたげな目で俺のことを見ていたが、俺のことを自分たちのリーダーだと思っているためか、特に文句を言ってくることはなかった。
ライムライム高原、北部。そこに、目的の薬草が生えている場所があった。
起伏が激しい大地は一面緑に覆われ、背の低い垣根のような樹木が点々と生えている。小さな白い花を咲かせており、顔を近付けるとほんのりと甘い香りがした。
此処に、問題のルミルーラ草が生えているわけだが……
俺は眉間に皺を寄せて、頭を掻いた。
……どれがそのルミルーラ草なんだ?
何分、此処は草が多すぎる。関係のない雑草が地面を覆い尽くしている状態なので、ぱっと見ただけだとどれが目的の薬草なのかが分からないのだ。
主人の話によると、ルミルーラ草は葉っぱから独特の匂いがするからすぐに分かるとのことだったのだが……
俺はあまり鼻が良い方じゃないからな。匂いを頼りにこの草原の中から目的の草を探すのは骨が折れそうだ。
こういう時は素直に、皆の力を当てにすることにしよう。
俺は足下に寄り添っているヴァイスの頭をぽんぽんと叩いて、言った。
「ヴァイス、ルミルーラ草っていう薬草を探したいんだけど、分かるか? 変わった匂いがする草なんだが、お前の自慢の鼻で見つけてくれよ」
「わうっ」
ヴァイスは尻尾を振りながら一声鳴いて、目の前の草むらに飛び込んでいった。
俺の言葉は理解してくれたようだが……果たしてヴァイスにはルミルーラ草と他の草との見分けは付くのだろうか。
まあ、変わった匂いがする草を探してくれって頼んだから、それがルミルーラ草じゃなかったとしても何かしら見つけて教えに来てくれるだろう。此処はヴァイスの持つ嗅覚に期待しよう。
俺は肩に下げているボトムレスの袋から、主人から預かってきた麻袋を取り出して広げた。
後方に立っているフォルテたちに、呼びかける。
「さあ、俺たちも探すぞ。できれば日が暮れる前には仕事を済ませて街に帰りたい」
「オレ、その薬草がどんなもんなのか知らねぇぞ。何か明確な特徴はねぇのか? 匂いだけじゃなくて、こういう見た目をしてるとかよ」
リュウガの言葉に答えたのはユーリルだった。
彼は右手で軽く円を描くような仕草をしながら、言った。
「ルミルーラ草は、別名『月袋草』と呼ばれている植物で、こういう丸くて袋みたいな形をした花を付けているのが特徴なんです。月の色をした袋みたいに見えるからそう名付けられたそうですよ」
袋みたいな形の花……ひょっとして、すずらんみたいな花なのだろうか。
匂いを特徴に挙げられるよりは、視覚的な特徴の方がまだイメージはしやすい。すずらんは日本人の俺にとっては馴染み深い花だし、多少は他の雑草との見分けも付けやすくなるだろう。
本当に、ユーリルは魔法はからっきしだけどこういう雑学はよく知ってるな。
彼は魔法使いよりも学者みたいな何かの研究者になった方がよほど才能を生かせるんじゃないかって思う。
もっとも、当の本人が頑なに魔法使いになるんだと意気込んでいるのをわざわざ諦めさせるつもりは俺にはないけどな。
よし、探そう。
俺たちは周辺に散ってルミルーラ草探しを開始した。
ルミルーラ草探しを始めて十分。
俺は草むらの中に落ちている奇妙なものを見つけて、足を止めた。
それは、一見すると泥のような物体だった。よもぎ餅のような色合いをしており、随分と水分を含んでいてべちゃべちゃとしている。
何か、嫌な臭いがする。汚れに汚れた下水の臭いというか、公園の公衆便所の臭いというか、とにかく臭いのだ。嗅いでいると何だか目が痛くなってきたので、俺は顔を顰めてそれの傍から離れた。
まるで、糞だな。臭いもそれっぽいし。
状態からして、これは此処に放置されてからまだ間もないことが分かる。
……そういえば、薬草探しに夢中でうっかり忘れかけていたが、此処には森豚がいるのだ。そいつの糞が落ちていても何ら不思議なことではない。
ひょっとして、これはそいつの……?
この糞、結構な量がある。バケツに換算したら多分三杯くらいになる。どう考えても、普通の動物が一回にする糞の量ではない。
何か、嫌な予感が……
俺は周辺を見回した。
そして──それを目撃してしまい、絶句した。
俺が立っている位置からは少し離れた、小高い丘になっている場所。
そこに、奴は佇んでいた。
ライムライム高原の中のごく限られた場所にしか生えていない貴重な植物で、市場では結構な高値で取引されているものなのだそうだ。
今までは冒険者ギルドが発行する薬草採集の仕事を引き受けた者たちがギルドに品物を納品してくれていたから仕入れることができていたのだが、とある問題が起きたせいで、最近はすっかり仕入れが途絶えてしまったという。
その問題というのが。
「ルミルーラ草が生えている場所に森豚が棲み付いてしまってね……危険だからって薬草採集に行く人がいなくなってしまったんだよ」
森豚とは猛獣の一種で、通常は森なんかの自然豊かな場所に棲んでいる生き物らしい。
森から滅多に出てくることがない生き物が、何故身を隠せる木がないような場所に棲み付いたのかは定かではない。しかしそいつのせいで、薬草を採ることができなくなってしまったのは紛れもない事実だった。
薬草採集の仕事を引き受けるのは戦うなどの荒事を得意としない者が多いため、彼らでは採集場所に居座った森豚を何とかすることは到底できなかった。
事を重く見た冒険者ギルドは一応森豚駆除の仕事を発行して任務に当たってくれる冒険者を募ってはいるものの、仕事を引き受けるかどうかは冒険者が判断することのため、すぐに事が解決するとは限らない。
人を募っている間にも、工房に残っているマキシポーションの在庫は減っていく。このままでは在庫が底をつき、商売にならなくなってしまう。
そこで主人は、俺たちを腕の立ちそうな旅人だと見込んで取引を持ちかけたのだという。
主人が提示した依頼の内容は、用意した麻袋一杯にルミルーラ草を採集して持ち帰ること。あくまで目的は薬草を得ることなので、万が一森豚に遭遇してもそれを駆除するかどうかはこちらの判断に任せるとのことだった。
何だか都合良く利用された感が否めないが、俺がトルネードカッターを欲しいと思ったのは紛れもない事実だし、猛獣の一匹くらい何とでもなるだろうと思ったので、俺は主人からの依頼を引き受けたのだった。
フォルテたちは奇妙なものを欲しがるんだなとでも言いたげな目で俺のことを見ていたが、俺のことを自分たちのリーダーだと思っているためか、特に文句を言ってくることはなかった。
ライムライム高原、北部。そこに、目的の薬草が生えている場所があった。
起伏が激しい大地は一面緑に覆われ、背の低い垣根のような樹木が点々と生えている。小さな白い花を咲かせており、顔を近付けるとほんのりと甘い香りがした。
此処に、問題のルミルーラ草が生えているわけだが……
俺は眉間に皺を寄せて、頭を掻いた。
……どれがそのルミルーラ草なんだ?
何分、此処は草が多すぎる。関係のない雑草が地面を覆い尽くしている状態なので、ぱっと見ただけだとどれが目的の薬草なのかが分からないのだ。
主人の話によると、ルミルーラ草は葉っぱから独特の匂いがするからすぐに分かるとのことだったのだが……
俺はあまり鼻が良い方じゃないからな。匂いを頼りにこの草原の中から目的の草を探すのは骨が折れそうだ。
こういう時は素直に、皆の力を当てにすることにしよう。
俺は足下に寄り添っているヴァイスの頭をぽんぽんと叩いて、言った。
「ヴァイス、ルミルーラ草っていう薬草を探したいんだけど、分かるか? 変わった匂いがする草なんだが、お前の自慢の鼻で見つけてくれよ」
「わうっ」
ヴァイスは尻尾を振りながら一声鳴いて、目の前の草むらに飛び込んでいった。
俺の言葉は理解してくれたようだが……果たしてヴァイスにはルミルーラ草と他の草との見分けは付くのだろうか。
まあ、変わった匂いがする草を探してくれって頼んだから、それがルミルーラ草じゃなかったとしても何かしら見つけて教えに来てくれるだろう。此処はヴァイスの持つ嗅覚に期待しよう。
俺は肩に下げているボトムレスの袋から、主人から預かってきた麻袋を取り出して広げた。
後方に立っているフォルテたちに、呼びかける。
「さあ、俺たちも探すぞ。できれば日が暮れる前には仕事を済ませて街に帰りたい」
「オレ、その薬草がどんなもんなのか知らねぇぞ。何か明確な特徴はねぇのか? 匂いだけじゃなくて、こういう見た目をしてるとかよ」
リュウガの言葉に答えたのはユーリルだった。
彼は右手で軽く円を描くような仕草をしながら、言った。
「ルミルーラ草は、別名『月袋草』と呼ばれている植物で、こういう丸くて袋みたいな形をした花を付けているのが特徴なんです。月の色をした袋みたいに見えるからそう名付けられたそうですよ」
袋みたいな形の花……ひょっとして、すずらんみたいな花なのだろうか。
匂いを特徴に挙げられるよりは、視覚的な特徴の方がまだイメージはしやすい。すずらんは日本人の俺にとっては馴染み深い花だし、多少は他の雑草との見分けも付けやすくなるだろう。
本当に、ユーリルは魔法はからっきしだけどこういう雑学はよく知ってるな。
彼は魔法使いよりも学者みたいな何かの研究者になった方がよほど才能を生かせるんじゃないかって思う。
もっとも、当の本人が頑なに魔法使いになるんだと意気込んでいるのをわざわざ諦めさせるつもりは俺にはないけどな。
よし、探そう。
俺たちは周辺に散ってルミルーラ草探しを開始した。
ルミルーラ草探しを始めて十分。
俺は草むらの中に落ちている奇妙なものを見つけて、足を止めた。
それは、一見すると泥のような物体だった。よもぎ餅のような色合いをしており、随分と水分を含んでいてべちゃべちゃとしている。
何か、嫌な臭いがする。汚れに汚れた下水の臭いというか、公園の公衆便所の臭いというか、とにかく臭いのだ。嗅いでいると何だか目が痛くなってきたので、俺は顔を顰めてそれの傍から離れた。
まるで、糞だな。臭いもそれっぽいし。
状態からして、これは此処に放置されてからまだ間もないことが分かる。
……そういえば、薬草探しに夢中でうっかり忘れかけていたが、此処には森豚がいるのだ。そいつの糞が落ちていても何ら不思議なことではない。
ひょっとして、これはそいつの……?
この糞、結構な量がある。バケツに換算したら多分三杯くらいになる。どう考えても、普通の動物が一回にする糞の量ではない。
何か、嫌な予感が……
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そこに、奴は佇んでいた。
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