三十路の魔法使い

高柳神羅

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第51話 魔法王国ファルティノン

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 翌日。日の出と共に目覚めた俺たちは、簡単な朝飯を食べて腹を満たしてから空の旅を再開した。
 因みに朝飯はキャベツやピーマンなどの野菜と妖異の肉を焼肉のタレを絡めて炒めた野菜炒めと、醤油と出汁で味付けをした溶き卵のスープだ。アルマヴェイラには昨日と同じように山盛りのリンゴを出してやった。皆朝っぱらから食いっぷりが良くて、見てて思わず微笑ましくなったよ。
 アルマヴェイラの背に乗り、一路東へ。幾つもの森や川、山を越え、太陽が天頂近くにまで昇った頃。
 遂に、俺たちは目的地であるその場所の上空へと到着した。

 広大な草原。その中に築かれたその街は、真上から見るとかなり特徴的な形をしていた。
 水路が引かれているのだろうか、此処からでもはっきりと存在が分かるラインによって形成された六個の三角形。その形は敢えてそのように設計してあるのだと言わんばかりに正確な正三角形を形作っている。それが円陣を組むように丸く並んでおり、三角形に囲まれた中心部には正六角形の敷地がある。その丁度中央には何やら巨大な建物が建っているのが見えるが……城だろうか、神殿だろうか、それは此処からでは分からない。
 この街の形に、俺は思わず呟いていた。
「これは……六芒星か?」
 五芒星、というのはファンタジー小説とかによく出てくる魔法陣なんかでよく見かけるものだが、六芒星というのはかなり珍しい。
 俺の呟きを拾ったユーリルが、応えた。
「ファルティノン王国は、その街自体がひとつの結界になっているのだとお師匠様から聞いたことがあります。特殊な形に作られた地形が魔素に干渉して、魔法の力を増幅する力を生んでいるのだとか……魔法王国、と呼ばれている由縁のひとつでもあります」
 魔素、というのは自然界に存在している魔力のようなもので、土地によってその濃度に差はあれど割と何処にでも漂っているらしい。
 要はあれか。窒素や二酸化炭素と同じような扱いの代物なんだな。
 ファルティノン王国では、魔素を利用した新しい魔法を開発するための研究が行われているという。もしもそれが実用化に至れば、魔帝に対抗するための新たな切り札になるだろうとのことだった。
 流石は魔法王国。魔法の扱いに関しては群を抜いてるな。
 此処には世界最高峰の魔法使い集団であるという円卓の賢者がいるらしいし……色々と面白そうなものが見られそうである。
 俺たちは一旦ファルティノン王国の上空から離れて、少し進んだ先にある小さな池の傍に降り立った。
 此処をねぐらにしている野生動物だろう、鹿のような姿をした生き物の群れが警戒した様子で俺たちのことを見ている。
 すまんな、驚かせて。何もしないから、安心してくれ。
『では……私が送るのは此処までだ。これ以上街に近付いたら存在に気付かれてしまうからな』
 背から俺たちを下ろしたアルマヴェイラは、静かな声でそう告げた。
 魔法王国ってことは、魔法使いが多く住んでそうだしな。流石に竜とはいえ遠くから魔法で狙撃されたらひとたまりもないだろうし、懸命な判断だろう。
 俺は笑って答えた。
「十分だ。此処まで乗せてくれてありがとうな。助かった」
 そうそう、忘れるところだった。
 俺はボトムレスの袋から小さな麻布の包みを取り出し、アルマヴェイラに差し出した。
「これ、あんたが美味いって言ってたリンゴだ。少ししかないけど、持って帰って子供と分けて食べてくれ」
『……ほう、あの木の実か。あれは本当に美味だった。有難く頂こう』
 アルマヴェイラは爪の先で布包みを持ち上げた。あまり細かい作業をするには向いていなさそうな手なのに、結構器用なんだな。
 俺たちが見守る中、彼女は翼を広げて音もなく宙に舞い上がった。
『……おそらくもう二度と会うことはないだろうが、万が一再び会うことがあったその時は……お前たちを歓迎しよう。さらばだ、息子の恩人たちよ』
 そう言う彼女の顔が微妙に笑ったように見えたのは、俺の気のせいだろうか。
 ……多分気のせいだろうな。竜の表情なんて俺には分からないし。
 アルマヴェイラは一気に高度を上げて俺たちから遠ざかり、西の空を目指して飛び去っていった。
 これからは、子供と仲良くあの森で平和に暮らしていってほしい、そう思う。
 さあ、と俺は皆に呼びかけるように声を上げた。
「それじゃあ、行くか。ファルティノン王国に」
「……何だか緊張してきました。いよいよなんですね……」
 ぎゅっと魔道大全集を胸元で抱き締めながら街並みに目を向けるユーリル。
 これから人生が決まる宣告をされるわけでもないのに、随分緊張で全身ががちがちになってるな。
 ああ、そうか。ユーリルの目的は何とかって場所を管理してる偉い人に魔道大全集を届けることだもんな。無理もないか。
 俺はそんな彼の背中をぽんと叩いてやった。
「俺たちも一緒に付いて行ってやるから。まずはそのアオイ……何だっけ?」
「アインソフ魔道目録殿です」
「そうそう、そんな名前だったな。その建物を探すとするか。店とかで場所を訊けば教えてもらえるだろ」
 行こう、と言って、歩き出す。
 王国の入口には何やら不思議な形状をした鎧を着た兵士が何人か立っていて、王国の中に入ろうとしたら行く手を阻まれて、此処に何をしに来たのかと質問された。
 フォルテが言うには、王国の名が付いた街に入るためには入国審査を受ける必要があるらしい。これはパラス王国でも行っていることで、この世界では当たり前のことなのだそうだ。
 指名手配されている悪人とかでもない限りは二つ三つの質問に正直に答えれば通してもらえるので、そこまで構える必要はないと言われた。
 某巨大テーマパークでは入園時に手荷物検査を行っているというが、あれに似たような感覚のものなのだろう。
 兵士の相手はユーリルがした。彼は持っている魔道大全集を見せながら師匠の使いで此処に来たと説明し、俺たちは彼の護衛だということで話を通してくれた。
 ユーリルが師匠の名前を出した時、兵士が微妙にびっくりしたような顔をしていたが……ユーリルの師匠って此処だとそれなりに有名人なのだろうか。ただの辺境の魔法使いだろうと思っていたのだが、分からないものだ。
 そんな感じで無事に入国審査を終えた俺たちは、魔法王国ファルティノンへと足を踏み入れた。
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