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第11話 それは笑顔のため
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一階の奥にある小さな部屋。そこに裁縫師はいた。
小さな扉をノックして部屋に入ると、大量の反物と色とりどりの糸が二人を出迎えた。
部屋の中央には、大きな作業台と椅子がひとつ。その椅子には、長い藍色の髪を螺旋状に結い上げた派手な格好の女が座っている。
彼女は長い爪が伸びた指を器用に動かして、ちくちくと裁縫をしていた。派手な外見からは想像も付かないほどの丁寧さだ。
「エリン。頼みたいことがあるんだけど、いいかな」
アレクが声を掛けると、彼女は縫い物の手を止めてゆっくりと二人の方に目を向けた。
青い瞳に、二人の姿が映り込む。
「あら……わざわざ此処に来るなんて、何か御用?」
おっとりとした口調で言い、笑む。
アレクはミカの背に手を添えて、彼女の寝間着を一着仕立ててほしいと申し出た。
エリンの視線がミカに集中する。
彼女の全身をじっと観察し、小首をことりと傾けて、答えた。
「構わないわ……それじゃあ、お嬢さん……私の傍に来てちょうだい。採寸をしたいから」
「…………」
ミカはアレクを見た。
アレクは頷きながら、ミカの背をそっと押す。
エリンは長いものさしを取り出すと、目の前に来たミカの体のサイズをぱっぱっと測っていった。
最後にミカをその場で一回転させて、頷いて、ものさしを作業台の上に置く。
「……三十分もあれば、できるわ……待っててちょうだい」
言うなり横から水色の反物を引っ張り出して、作業台の上に広げ始めるエリン。
そこから、彼女の作業は早かった。
布を切り、針を通し、あっという間に服を仕立てていく。ボタンを縫い付けて、採寸した通りの大きさのパジャマを一着縫い上げた。
その所要時間はぴったり三十分。彼女の宣言通りである。
完成した服を丁寧に畳んでミカへと差し出し、彼女は言った。
「大丈夫だとは思うけど……もしもきつかったりしたら、言ってちょうだい……直してあげるから」
「ありがとう、エリン」
エリンに礼を述べて、二人は部屋を後にした。
大事に抱えたパジャマを見つめながら、ミカは横を歩くアレクに問いかけた。
「……どうして、ここまでしてくれるの」
ミカが疑問を抱くのは無理がない。
普通の旅館はここまでのサービスはしない。ありあわせのもので対応しようとするのが普通だろう。
そんな普通では考えられないサービスを提供するのが、ホテル・ミラージュなのだ。
医療ひとつ、設備ひとつ取っても。
全ては、これから未知の世界へと旅立っていく勇者たちのため。
そのためにこの旅館は存在し、勤める者がいるのである。
アレクはミカに微笑みながら、答えた。
「貴女に笑顔になって頂きたいからですよ」
「…………」
ミカはそっとアレクに目を向けて、小さな声で、言った。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
二人は静かな廊下をゆっくりと歩いていく。
遠くで、二十一時を知らせる時計の鐘の音が鳴り響いていた。
小さな扉をノックして部屋に入ると、大量の反物と色とりどりの糸が二人を出迎えた。
部屋の中央には、大きな作業台と椅子がひとつ。その椅子には、長い藍色の髪を螺旋状に結い上げた派手な格好の女が座っている。
彼女は長い爪が伸びた指を器用に動かして、ちくちくと裁縫をしていた。派手な外見からは想像も付かないほどの丁寧さだ。
「エリン。頼みたいことがあるんだけど、いいかな」
アレクが声を掛けると、彼女は縫い物の手を止めてゆっくりと二人の方に目を向けた。
青い瞳に、二人の姿が映り込む。
「あら……わざわざ此処に来るなんて、何か御用?」
おっとりとした口調で言い、笑む。
アレクはミカの背に手を添えて、彼女の寝間着を一着仕立ててほしいと申し出た。
エリンの視線がミカに集中する。
彼女の全身をじっと観察し、小首をことりと傾けて、答えた。
「構わないわ……それじゃあ、お嬢さん……私の傍に来てちょうだい。採寸をしたいから」
「…………」
ミカはアレクを見た。
アレクは頷きながら、ミカの背をそっと押す。
エリンは長いものさしを取り出すと、目の前に来たミカの体のサイズをぱっぱっと測っていった。
最後にミカをその場で一回転させて、頷いて、ものさしを作業台の上に置く。
「……三十分もあれば、できるわ……待っててちょうだい」
言うなり横から水色の反物を引っ張り出して、作業台の上に広げ始めるエリン。
そこから、彼女の作業は早かった。
布を切り、針を通し、あっという間に服を仕立てていく。ボタンを縫い付けて、採寸した通りの大きさのパジャマを一着縫い上げた。
その所要時間はぴったり三十分。彼女の宣言通りである。
完成した服を丁寧に畳んでミカへと差し出し、彼女は言った。
「大丈夫だとは思うけど……もしもきつかったりしたら、言ってちょうだい……直してあげるから」
「ありがとう、エリン」
エリンに礼を述べて、二人は部屋を後にした。
大事に抱えたパジャマを見つめながら、ミカは横を歩くアレクに問いかけた。
「……どうして、ここまでしてくれるの」
ミカが疑問を抱くのは無理がない。
普通の旅館はここまでのサービスはしない。ありあわせのもので対応しようとするのが普通だろう。
そんな普通では考えられないサービスを提供するのが、ホテル・ミラージュなのだ。
医療ひとつ、設備ひとつ取っても。
全ては、これから未知の世界へと旅立っていく勇者たちのため。
そのためにこの旅館は存在し、勤める者がいるのである。
アレクはミカに微笑みながら、答えた。
「貴女に笑顔になって頂きたいからですよ」
「…………」
ミカはそっとアレクに目を向けて、小さな声で、言った。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
二人は静かな廊下をゆっくりと歩いていく。
遠くで、二十一時を知らせる時計の鐘の音が鳴り響いていた。
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