26 / 74
第26話 少女は死を求め青年は生を乞う
しおりを挟む
アレクはミカに色々な話を話して聞かせた。
この世界のことや、自分のことなんかを。
彼は今の旅館に百年勤めており、その間に色々な出会いや別れを経験してきたと、懐かしいものを見るような目をして語った。
毎日異なる世界から訪れる、世界渡りをする旅人たち。
今でこそ旅館が賑わうほどにいる彼らも、最初の頃は片手で数えられるほどしかいなかったんだよと言って笑うのだった。
死者の百年は刹那の出来事だ。
彼にとって旅館で過ごしたこの百年は、駆け抜けるような日々であったことだろう。
ミカはアレクがする話を、頷きながら黙って聞いていた。
彼女にとってアレクが語る話は、まるで与えられた宝物のように輝いたものばかりであった。
自分しか知らない、アレクのこと。
それを教えてくれているという事実が、彼女に大きな満足感と優越感を与えてくれていた。
人間は、何と貪欲な生き物なんだろうね。
ひとつのものを手に入れるために足掻いて、努力して、手を伸ばして。
そんな必死に生きる生き物だからこそ──美しいのだろうと、私は思うよ。
「ミカさんは……怖いとは思わないんですか? 僕のこと」
彼は、急に真面目な顔になってミカに問いかける。
怪訝そうに目を瞬かせる彼女に、続けた。
「僕は人間ではない、怪物です。生きた人に恐れられることはあれど、好かれる資格なんてないと思っています」
彼は首輪をついとずらして、首の継ぎ目をミカに見せた。
彼が命の温もりを持たぬ死者であることの証──
ミカはそれを、複雑な表情をして見つめている。
彼女にとってアレクが人間でないことは、既に承知の上の事実だ。
自分とは住む世界が違う存在であろうことは、薄々と感じ取っていた。
それでも。
ミカはううんと首を振った。
「……アレクは、アレクだから」
自分の心の中にある彼への想いを形にするように、一言一言をゆっくりと口にする。
「例えアレクが怪物でも、優しいアレクだってことに変わりはない。……大体、人間であることってそんなに大事なの?」
彼女は目を伏せた。
「人間の方が……よっぽど、怖い生き物だって思う」
握られた拳が、きゅっとワンピースのスカートを掴む。
「私は……アレクと同じになりたい。アレクが見ている世界を、一緒に見られるようになりたい」
「……ミカさん」
アレクはミカの手に目を向けた。
生々しい傷痕の付いた手首を見て、彼女がこの世界に来る前に感じていたであろう絶望を感じ取る。
きっと彼女にとっては、自分が生きた人間であることなど希望でも何でもないのだろう──
そう、思うと。
彼は、自然と彼女の手を握っていた。
びくりと身を跳ねさせるミカ。しかし構わず、彼はぎゅっと手に力を入れて、ミカの手を強く握る。
「……僕は、生きている貴女の方が羨ましいと思っています。怪物になんて、なるものではありませんよ」
「…………」
ミカは握られた手をそっと握り返した。
温もりはなくても、しっかりとした手の形がそこにある。それを感じられるだけで、嬉しかった。
それから二人は、無言のまま並木道を歩いていった。
次第に近付いてくる街の大通り。行き交う人の群れと、賑わい。
まるで離れないようにと互いに願うかのように。
二人は手を繋いだまま、大通りに足を踏み入れた。
この世界のことや、自分のことなんかを。
彼は今の旅館に百年勤めており、その間に色々な出会いや別れを経験してきたと、懐かしいものを見るような目をして語った。
毎日異なる世界から訪れる、世界渡りをする旅人たち。
今でこそ旅館が賑わうほどにいる彼らも、最初の頃は片手で数えられるほどしかいなかったんだよと言って笑うのだった。
死者の百年は刹那の出来事だ。
彼にとって旅館で過ごしたこの百年は、駆け抜けるような日々であったことだろう。
ミカはアレクがする話を、頷きながら黙って聞いていた。
彼女にとってアレクが語る話は、まるで与えられた宝物のように輝いたものばかりであった。
自分しか知らない、アレクのこと。
それを教えてくれているという事実が、彼女に大きな満足感と優越感を与えてくれていた。
人間は、何と貪欲な生き物なんだろうね。
ひとつのものを手に入れるために足掻いて、努力して、手を伸ばして。
そんな必死に生きる生き物だからこそ──美しいのだろうと、私は思うよ。
「ミカさんは……怖いとは思わないんですか? 僕のこと」
彼は、急に真面目な顔になってミカに問いかける。
怪訝そうに目を瞬かせる彼女に、続けた。
「僕は人間ではない、怪物です。生きた人に恐れられることはあれど、好かれる資格なんてないと思っています」
彼は首輪をついとずらして、首の継ぎ目をミカに見せた。
彼が命の温もりを持たぬ死者であることの証──
ミカはそれを、複雑な表情をして見つめている。
彼女にとってアレクが人間でないことは、既に承知の上の事実だ。
自分とは住む世界が違う存在であろうことは、薄々と感じ取っていた。
それでも。
ミカはううんと首を振った。
「……アレクは、アレクだから」
自分の心の中にある彼への想いを形にするように、一言一言をゆっくりと口にする。
「例えアレクが怪物でも、優しいアレクだってことに変わりはない。……大体、人間であることってそんなに大事なの?」
彼女は目を伏せた。
「人間の方が……よっぽど、怖い生き物だって思う」
握られた拳が、きゅっとワンピースのスカートを掴む。
「私は……アレクと同じになりたい。アレクが見ている世界を、一緒に見られるようになりたい」
「……ミカさん」
アレクはミカの手に目を向けた。
生々しい傷痕の付いた手首を見て、彼女がこの世界に来る前に感じていたであろう絶望を感じ取る。
きっと彼女にとっては、自分が生きた人間であることなど希望でも何でもないのだろう──
そう、思うと。
彼は、自然と彼女の手を握っていた。
びくりと身を跳ねさせるミカ。しかし構わず、彼はぎゅっと手に力を入れて、ミカの手を強く握る。
「……僕は、生きている貴女の方が羨ましいと思っています。怪物になんて、なるものではありませんよ」
「…………」
ミカは握られた手をそっと握り返した。
温もりはなくても、しっかりとした手の形がそこにある。それを感じられるだけで、嬉しかった。
それから二人は、無言のまま並木道を歩いていった。
次第に近付いてくる街の大通り。行き交う人の群れと、賑わい。
まるで離れないようにと互いに願うかのように。
二人は手を繋いだまま、大通りに足を踏み入れた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
私の存在
戒月冷音
恋愛
私は、一生懸命生きてきた。
何故か相手にされない親は、放置し姉に顎で使われてきた。
しかし15の時、小学生の事故現場に遭遇した結果、私の生が終わった。
しかし、別の世界で目覚め、前世の知識を元に私は生まれ変わる…
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
【完結】言いつけ通り、夫となる人を自力で見つけました!
まりぃべる
恋愛
エーファ=バルヒェットは、父から十七歳になったからお見合い話を持ってこようかと提案された。
人に決められた人とより、自分が見定めた人と結婚したい!
そう思ったエーファは考え抜いた結果、引き籠もっていた侯爵領から人の行き交いが多い王都へと出向く事とした。
そして、思わぬ形で友人が出来、様々な人と出会い結婚相手も無事に見つかって新しい生活をしていくエーファのお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ているもの、違うものもあります。
☆現実世界で似たもしくは同じ人名、地名があるかもしれませんが、全く関係ありません。
☆現実世界とは似ているようで違う世界です。常識も現実世界と似ているようで違います。それをご理解いただいた上で、楽しんでいただけると幸いです。
☆この世界でも季節はありますが、現実世界と似ているところと少し違うところもあります。まりぃべるの世界だと思って楽しんでいただけると幸いです。
☆書き上げています。
その途中間違えて投稿してしまいました…すぐ取り下げたのですがお気に入り入れてくれた方、ありがとうございます。ずいぶんとお待たせいたしました。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる